12-2
「来てしまったか……」
ロンドン空港閉鎖が解かれたというニュースを見終わってテレビを消した。アナウンサーの声が途絶え、包丁がまな板を叩く音が復活する。そちらに目を移すと、刻まれているのはジャガイモ。他にニンジン、タマネギ、牛肉、しらたき
「肉じゃがを食わせたい相手でもできたか?」
「いやそういう訳ではなくて……」
黒い長髪をポニーテールにした少女はジャガイモをぶつ切りにしたのちシステムキッチンを横に移動、コンロに鍋を置いた
「男子が恋人に作って欲しい料理というと肉じゃがが一般的だが、実際にアンケートをやってみるとカレーが圧倒的らしい。このふたつには共に軍関係から広まったもので、そう考えると男子の求める料理は他に」
「母さん、そんな情報は誰も求めてない。それにその予測はおそらく間違っている」
「そうか?流行ると思うけどな、ファイヤーケーキ」
「流行るとかそういう事じゃ……ファイヤーケーキ!?」
キチガイを見るような目で見られるも気にせず立ち上がり壁にかけてあったカレンダーの前まで移動、今日からちょうど2週間後までバツを付ける。次に本棚を物色し、埃を被った手記を抜き取った
「美空」
「ん?」
「今日のうちに患者が来る、2週間かけて面倒を見たら、私はしばらく家を空ける」
「あの手術室使うのか?もう半年以上人の出入りが無いぞ」
「心臓に穴開ける訳じゃないんだ、多少の訛りはどうにでもなる」
「いや私が言ってるのは埃とかな?」
手記の中身を物色しながら室内を歩き回る、目的の記述を見つける間にキッチンでは肉の焼かれる音が上がり始めた
「たった19年遡っただけでこんな原始的な記録方法しかなくなってしまうというのは驚愕じゃないか?私がこれを書いた当時はウインドウズ95というOSが普及し始めていたが、大半のパソコンにはまだMS-DOSが入っていた。ハードディスクは何十年も保つような耐久性を持っていなかったし、フロッピーディスクは1枚たった1.44MB……」
「母さん、知識欲旺盛なのは結構だがそれを口に出してしまうのは悪い癖だ」
無意識にべらべらとしゃべり出したのを制止される。ふむ、と頷き、ページを開いたまま手記をテーブルの上へ
「美海は?」
「買い物」
「そうか。……あぁ美空、カレーに切り替えるならタマネギは火を通し切らないようにな」
「ぬぐっ!」
カレールーを手に持ったまま呻く少女を尻目に部屋を移動、書斎からもう一つ手記を取る。その際窓の外を眺めると、PMC企業のものらしい防弾車両が正面の通りに停車していた
中から現れたのは
「……世界が変わりたがっているのなら仕方ない、個人に止められるものじゃないさ…」




