Air 3-2
「…………え、なに?……えっ?」
梢はホテルのラウンジでアイスを食べていた。疲れ切った表情で椅子に座り込むも、梢の視線は主に迷彩ズボンの野郎を向いている。空港に着いた所で追い払うのには成功していたのだが、侵入ルートの目星を付けて帰ってきたらホテルの前にこいつがいた
「エアちゃんエアちゃん、きみに逆ナンする甲斐性なんてあったっけ」
「なんで私が誘う方なんだこんな奴とは関わりあいにもなりたくないそれ以前にまずちゃん付けするなクソアマ……」
非常に疲れた、日光がやばい、砂塵がまとわりつく、シャワー浴びたい、喉が渇いた
「お前の顔は見たことがある」
「ん……むふふ、平和維持活動に従事してたクチか?そりゃあるだろうさ」
過去何かあったのかにらめっこを始めた野郎と梢、その手にあるアイスを奪おうとしたが拒否される
「見た感じ自衛隊の人かな?日本語わかる?」
「日本語はわかるが自衛隊はやめてきた」
野郎は梢の質問に答えつつラウンジの端っこへ移動、そこにあった自動販売機に貨幣を投入した。自販機といっても日本にあるようなものではない、一面にイラストが書いてあって付いているボタンは多くても10個。適当にプッシュすると世界一有名な炭酸飲料が出てくる
「梢だ、坂上 梢。そちらは?」
「岡崎 正宗」
赤いパッケージのアルミ缶が目の前で吊り下げられた。受け取り、プルタブを引き起こす。プシュンと音が鳴り、黒い液体が出現
「今日はここに泊まるのかな?あたしらは夜明け前にはいなくなってるが」
「何をするつもりだ」
「んー?」
350ml缶の半分を一気に飲んで喉を潤す。一息ついて2人を見ると何やら剣呑な雰囲気
「やめてきた、と言ったが、普通の辞め方なら即日本に帰るよな。武装は後から調達したようだが……そういえば自衛隊は自分の身を守る以外に発砲が許されないんだったか」
「……」
「たとえば、目の前に殺されかけてる子供がいたとして……」
「余計な話をしてるんじゃない、荷物が届いてるんならさっさと開封しごっふぅ…!」
つまらん会話をやめさせようと割り込んだ瞬間、胃に溜まった炭酸ガスが口から放出された
要するに、ゲップが出た
「台無しだよ……っ!!」
アイスをテーブルにほっぽり出しうずくまってしまった梢。正宗さんとやらは自販機に炭酸以外のラインナップが無く自分に落ち度も無い事を確認、すまし切った顔で視線をこっちに戻す
「俺は気にしない」
「黙れ……」
梢は俯いて痙攣したまま、会話を継続する余地もなく、壁にかかった時計で時刻を確認する正宗。現在昼過ぎ、3人以外にホテル客は皆無
「……知人が合流地点にここを指定してきた、利用はしない」
「知人?」
「平和維持活動中に知り合った、フランス人だ。もう来るはずだが……」
と、言っている間に男性が1人入ってきた。ヨーロッパ系の顔と濃いめの茶髪、元気よく手を振っていて、やかましい人間だというのを全力アピールしている。服装はこの変人とは違いジーンズと白シャツ、リンゴの産んだ偉人スティーブさんに似た、というか完全に同じである。よく考えたらこいつも変人だ
「アマガエルー!」
「!」
変人1号正宗、ビクリと反応。同時に俯いたままの梢、痙攣を激しくし始める
「アマガエル2号ー!」
「…………あまがえるにごーって、まさかコールサイン」
「違う」
「でもお前に手振ってる」
「同僚と上司から呼ばれてただけだ」
「それをコールサインという」
旅行カバン片手に走り寄ってきたそいつはまず正宗に肩を掴まれ耳元で一言、解放されたのちこちらへと視線を向ける。現地人ではない十代半ばの女2人、片方は腹を抱えたままだが
「え、何、ナンパしたの?」
「違うってんだろ」




