Air 3-1
「ここスーダン共和国は1954年にイギリスから独立した国だ、他のアフリカ諸国の例に漏れず欧州列強による植民地支配を経験してる。もともと部族意識、宗教色の強かった土地を無理矢理区切ってできた国だ、2011年に南スーダンが独立したが、平和な暮らしができるようになるにはもっと細かく分ける必要があるだろう」
乾き切ったサバンナ気質の大地を踏みしめながら先行する梢が話し出す。アフリカ大陸の北東部分に位置するここはイメージ通りに治安が悪く、またゴミだらけである。ジャンク集めが一般的な職業になってしまっていて、実際ゴミの山に攻めかかる子供がそこかしこにいる
「南スーダンとは既に2度、国境沿いの油田を巡って紛争を起こしてる。今回お前が承った殺しは、これの3度目を起こそうって意味だ。あそこに空港があるのが見えるな?政府関係者が30人ばかしやってくるから、どこかしらで撃墜、ないし爆破する」
「殺すべきは1人だけだ」
「そうだな、ターゲット以外を傷付けないのはヒットマンとして重要なポイントだ。だが今回は依頼主のシャリーアに対して恩を売る必要がある」
正面の空港から飛行機が飛び立っていった
「ここの政治家を殺したいってことは外交状態を混乱したままに保ちたいって事だ。アメリカの上院議員やらオルネイズみたいに正義面してる訳でもないしな。だったら数は多い方がいい」
「…………」
「まぁお前が憂いている通り国民の平穏は遠のく事になる」
「憂いてない」
「だが、油田の利権がどうこうなんて理由で戦争起こすような政治家は早めに切除しといた方がいいさ」
「憂いてないっつってんだろ」
2人の真上を飛行機が通過、ジェットエンジンの騒音が響き渡る
あまりの大音量に梢が耳を塞ぐも、地元の人間は誰一人として気にする素振りも見せない。それで我々が観光客だと確信したらしい、道端でたむろしていた男性の集団がこちらと同じ方向に歩き出した
「アフリカは中国、東南アジアに続いて世界の工場として注目されてる、ここの平穏化は世界の総意だろう、それは間違いない。だが上辺だけじゃ駄目なんだ、患部の中に溜まってる膿を根こそぎかき出すように、腐った政治家を1人残らず片付けないといかん」
梢の様子に変化はない、まず気付いてはいないだろう。悪知恵は働くが浅知恵には弱い奴だ
「少なくともこの暗殺、長期的に見ればプラスだと思うがね」
「……もういいからさっさと準備しろ、潜入ルートは確保しておく」
「お、なんだ、デレたか?」
「早く行け!」
「ふふん。ここまで付け入るのに半年かけたんだ、無駄にするなよ」
頭をどついて路地に進ませ、笑いながらその先に消えていくのを見届ける。改めて背後の浅知恵野郎を確認、悔い改めさせるべく周辺にある鈍器を捜索し、ゴミの山から木の棒が突き出ているのを見つけた
「…ん?」
が、ひのきのぼうを引っこ抜いている間にボコンボコンと人の腹をぶん殴る音が聞こえ、さてやるかと振り返った頃にはチンピラどもは地面に叩き伏せられており、代わりといっては何だが長身のアジア人男性が近付いてきていた
「おい」
黒髪、肌は僅かに黄色い程度。上は何の捻りもない白のシャツだが、下は日本陸上自衛隊の迷彩服2型、ただしかなりボロい。腰の目立つ位置にはハンドガンのホルスターが取り付けられており、中に詰められているのはコルトM1911、これもボロい
「女子供が1人で出歩くのは危険だ、保護者はどこにいる?」
「……さあな、まだ生きてるんなら南米大陸のどっかで試験管見ながらニヤニヤしてるんじゃないか?」
用の無くなった棒きれを放り捨てる、すぐさまゴミ漁りのおっさんがかっさらっていった。正直に話したにも関わらず不機嫌となったそいつに背中を向け空港を再度見る、とりあえず行って金網の壊れている箇所を捜索しなくては
「近くに保護者がいないのは理解したしただの女子供じゃないのも感じ取った。空港に行くなら目的地は同じだ」
「まさかそのポンコツで護衛を申し出るつもりか?もっとマシなのを持ってる」
歩行速度を早めつつショルダーホルスターからハンドガンを取り出して見せた。自分の戦闘スタイル的にこいつはあんまり使わないのだが、刃渡り50センチの特注ナイフを見せるよりは説得力がある
「グロック17のフルオートカスタムか、文句は無い」
納得して、そいつは黙った。他にもいた外人狙いの追い剥ぎ連中をまとめてビビらせつつカスタムグロックを収納、小さく溜息をついて空港への歩を進める
「……」
「…………」
「……帰るのか?荷物はどうした」
「なんでついて来てんだお前は!」
「目的地が同じだからだ」
「ひ・と・り・で・い・け!!」
「何故」
「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




