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La CIA 1

なんか変な動きがあるから見に行けという指令が下った


「女の子のストーキングが終わったと思えばこれか、暴力団の事務所にカチコミかける作業にはいつ戻れるんだい」


『シオン姉さんはヤクザと戯れるのが好みなんすか?』


うなじ付近でふたつに分けた長髪はくすんだ銀色で、黒のインナーに合わせるのは短い緑の春ポンチョ。デニムのホットパンツはとても短く目立っているが、東京都心部というロケーションを考えればカモフラ効果があるような気もする、もちろんそんな事は考慮していないし、そもそもその女性はスモークガラスを張った車の運転席であり、服装を確認できる人間はいない


『ではまず例の件、朝鮮工作兵侵入からロシアGRUと思われる部隊襲撃の流れまで。現在状況、パッケージ″ライラック″は現在位置の把握に成功、鉄道を使ってモスクワへ向かってます。PMC部隊スリーシックスは対処を継続、予定通りなら今頃はロシア脱出中かなぁ』


「民間企業……」


『ただの契約者じゃないっすよー、誰にも言われずに危機を察して出先でロシア兵20人を全滅させてる、BTR鹵獲のおまけ付き。でそのBTRの出処を探ったら何故か中国系組織が出てきた、今回それを掘り下げる』


「 ふぅん……まそれはいいけどジェラルドくん、今回私だけでやんの?」


『ぼかぁ色々とやる事がある』


「色々って、君基本的にギャルゲやってんじゃん!」


『失礼な、エロゲだってやりますよ』


盛大に溜息を吐き出しながら停止状態にあった車のキーを回す、セルが動き出してトヨタ2ZZ-GEエンジンが目を覚ました


1970年の発売ののちモデルチェンジを行いながらも2006年生産終了となったトヨタ・セリカの最終モデルである。ハッチバックタイプの流れるような白いフォルムは内部にメチャクチャな改造を施され、骨董品指定が近いにも関わらず86とかマークXとかを軽くぶっちぎる性能を有する。とはいえそれは下り限定で、最高のパフォーマンスを見せるのは砂利道の上なのだが


『指定する座標へ向かってください、そこのマンションに部屋を借りてる奴がいる』


「りょーうかーい」


やたらやかましいエンジンを吹かしてセリカが発進する。目的地はここから数km、国会議事堂を挟んで反対側


「嫌な流れだな、硝煙の匂いがする。レイヴン飛ばしたりとかできない?」


『待機はしてるけど、バレた瞬間に老人達からフルボッコされますよ』


つくづくこの国は反戦と平和主義の区別がついていないとまた溜息。まぁ大戦終了後にあんな妙ちきりんな憲法を作らせてしまった我々が悪いと諦めて2ギア目を入れる


『でももしドンパチやるならサプレッサー無しのヤクザ流を心がけてください、背後からナイフで一撃とかいう達人めいた死体なんて残した日にゃー』


「わかってるよ、何のためのAKだい」


後部座席に鎮座するギターケースをルームミラー越しに確認、信号を右に曲がって永田町中心部へ入った。道路脇に立ち並ぶ日本国政府の建物群、更に進むと国会議事堂。そこから少し離れた場所に車を停め降車、小型バックパックを背負いつつ自分のスマホで正確な場所を探す


見つけたのは高層マンションだった、ざっと見では20階と少し、屋上からなら国会議事堂がよく見えるだろう。直線距離では700メートル、玄関のセキュリティは万全だ。事前に渡されていたカードキーを使って内部に侵入、ギターケースと一緒に階段を上がっていき、やがて最上階


「これは…なかなか…狙撃向きな……場所だね……」


『なんでエレベーター使わなかったんすか』


息切れしていたのをツッコまれながら数分休憩、その間に非常階段の位置を確認する


『狙撃っつってもライフルなんて持ち込めるかなー』


「少なくともここに1丁ある」


『そりゃ米軍基地経由だし』


火器の国内所持、いわゆる銃刀法は既に改正され、安全神話の崩壊と共に”自分の身は自分で守れ”というアメリカンスタイルへ変質しつつある。それでもクソが付くほど面倒な手続きを踏まねばならないし前科があれは一発アウトである。ただ注意すべきは、隠し持てる拳銃に比べればライフル類は規制が甘いし、PMCの発達した現在、持ち込もうと思えば不可能ではないという点


『端部屋ですよ、ドローンは持ってます?』


「あたぼうよ」


バックパックからハガキサイズのケースを出し、さらにそこからムカデ状ロボットを出した。窓を開けて壁に貼り付け、スマホから操作アプリを立ち上げる。簡素な作りのラジコンだが、そのぶん小さく作られていて、カサカサ動くそれは換気扇の隙間より内部へ侵入、男性2名の存在を認めた


「日本人……いや、中国語のカレンダーが貼ってある」


『了解、永田町周辺に中国人2名を認む。火器の有無は?見つかれば銃刀法違反容疑って事にしてスマートにやれるけど』


「ちょっと待って今頑張ってるから」


小さく、といっても全長10センチ、そんな巨大ムカデが室内を這い回っているのを認めた日には大抵の人間は絶叫、のち叩き潰しにかかるだろう。見つからないようなルートを選び、大きく回って部屋中央近くへ


『今何時だ?』


『8時、あと30分だな』


マイクが中国語を拾う、日本人でない事はほぼ確定した。男2人の片割れが寝室に向かい、もう片方は締め切りだったカーテンを開ける。少し待っていると、寝室からゴルフクラブのケースがやってきた


「怪しい男が怪しいゴルフクラブケース持ってきて怪しい場所に置いた、中身は確認できず。あと30分とか言ってるけど?」


『8時半…?ああわかった、プ○キュアだ』


「バッカじゃねーの」


とにかく、あれが開封されるまで待つのが吉だろう。ギターケースを廊下に下ろし、彼氏の登場を待つミュージシャンを装うべく壁にもたれかかる



『しまった、双眼鏡が車の中だ。取ってくる』


ピンチのようなチャンスのような、そんなヘマをやらかしやがった

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