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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
我ら海豹止める者なし
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11-6

茶色く土まみれとなったランサーエボリューションは着地に成功していて、傷まみれのボディを背もたれに座り込み、正宗は上を見上げていた。見上げているといっても、目は閉じているのだが


「……まったくあなたは見かけによらない無茶をする…」


トランクを開けて救急箱を取り出し、さらにモルヒネのシレットを取り出す。正真正銘の麻薬であるが緊急時の鎮痛薬としてはポピュラーなものである、正宗の横に膝をつき、おもむろに腹部へ突き刺した


ゴリッという感触がして、同時に正宗が痙攣した。折れた肋骨に針が直撃したものと思われる


「おい……」


「はは…わざとじゃない」


触った感触では少なくとも2本折れている、とはいえ意識もあるし外傷無し、変なアザも無し。内臓にダメージがあるとしても数時間放ったらかしたって死にはしない


「まぁ体は大丈夫でしょう、医者に見せないとわかりませんけど。それで車の方は……」


「まだだ、こいつは死に切れていない」


「では修理を?」


「いや、介錯だ」


ランサーエボリューションは大破こそしていないものの、ボディ中央部が何か支えを失ったかのようにぐにゃりと曲がってしまっていた。エンジンは生きているが、シャーシやら何やらが損傷したという事だろうか。モルヒネが効いてきたのか立ち上がり、よろよろと運転席に座り直す


「敵は何だ」


「さあ?でも相当な練度ですね、5秒かけて1人も殺れなかった」


「もう老化か?人外」


「ふふん。ヒトの形をしている以上、突き詰めた先の限界は同じですよ」


ほとんど感情を見せる事のない顔で苦しみを表現しつつ、エンジンをかけないままトランスミッションを確認。まず1速が入らない、4速5速は感触が無い


「シャフトが折れた、後輪は駆動しない。30秒走れば心臓も止まる」


「なら突っ込むしかないですね。私が撹乱します、最低限合流してくれれば……おっと?」


携帯電話が震え始めた。車から離れ液晶を確認するも電話帳に該当はなく、ひとまず周囲を確認、追撃はいない。少し悩んで、通話ボタンをプッシュ、無言のまま耳に当て


『やっほー!ネアちゃーん!ネアっちゃーん!にゃはははははは!』


そのまま言葉を失った


『お困りのようなので参上しました、永遠の相棒こずえちゃんですよー!カエルくんも元気?いや元気なわけないよなーあはははははは!』


猛烈に終話ボタンを押したい衝動に駆られたが非常に残念極まりない事にこのアホは信用できる。正宗へジェスチャー、代わるか?と聞いたが拒否された


『刃物類の調子はどうだー?新しいのが欲しくなったらいつでも言えー?』


「せっかくですが間に合ってます、わざわざ電話してきた用件はなんでしょう?」


『うっひゃひゃひゃひゃ!まだ敬語キャラ継続してんの!?しぶといねぇー!」


「合コン行く訳じゃないんだから……」


『そうそうそうそうミソラちゃんが最近恋煩いなんだよ、時間できたらあの元ボンボン連れてきてくれると喜ぶと思』


「いいからさっさと用件を言えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」


全力を込めて叫んだのち正宗に背中を突っつかれた。やばいと思って格納庫方向を確認、動きはない


『ようやく素が出たか、オーケーそのまま聞け、お前にゃ笑顔より青筋が似合う』


聞き捨てならない事を言いやがるも口元を抑えつつエボの横でしゃがみ込む。念のため、正宗にG36Cを要求


『お前の仲間が籠ってる格納庫を基点にして、南の倉庫に4人、その西の民家に2人、ああ民間人はあらかた逃げた、気に留めるな。火力があるのは2人の方だ、少なくともミニミと使い捨てのロケラン1本。丘の土嚢が見えるか?そこから北の茂みに3人、うち1人は負傷者で撃ってくることは無いだろ。最後、丘の下を3人が北上してく、きっとこれが本命だな』


「なんでそんなに詳しい」


『それは秘密です』


数秒沈黙、その後電話の向こうからケタケタ笑い声が聞こえてくる。上空に飛行機無し、この一帯は海に向かって斜面になっていて、監視に適した場所となると東


『天体望遠鏡でそっち見てる、目視じゃ無理だ。勝敗が決まるまではここにいてやるよ、感謝しなされ』


「わぁ監視要らずですねぇ!ありがとうございますぅ!……これでいい?」


『オエーーーー!!』


ああ今すぐ張り倒したい


「……前と同じ口座に?」


『うんにゃ、今回はロハでいいよ。昔の馴染みって訳じゃあないがな』


上からG36Cがグレネードランチャーを外された状態で降りてきた、外せとは言っていないが確かに余計なものをぶら下げている場合ではない。携帯電話を肩で挟んで射撃準備を終わらせ、次いでマガジンポーチ、手榴弾セット


『覚えてるか?もう6年だ。世界中駆けずり回ってピクリとも動かせなかった”秩序”ってやつが、気が付いたら勝手に変わり始めてたんだ。いくらでも協力するさ』


「……10人足らずのPMCに世界がかかってるのか?」


『そういう訳じゃないにゃー、着火役にはなり得るだろうが。あたしが考えてるのはもっと先さ、お前達が無事に紳士淑女とメシマズの愉快な国に到着し、女神様のお腹から核ミサイルを取り出して無事に帰国した、それよりもっと先の事だよ』


「…………」


『情報源はマジで秘密です』


たかがヤクザがCIAすら出し抜いて核の隠し場所を断定しているのは不思議だが存在自体が不思議な奴なので驚く余地は無い。エボの横から立ち上がり、監視位置に移動する旨をジェスチャーで正宗に伝える


『そろそろ長電話してる場合じゃなくなってきたろ、あたしの無線は1ー3、民間トランシーバー回線だ。まぁお前らの周波数は把握してるから参加してもいいが』


「やめい」


『ふふ。イギリスまで辿り着けたら、テオドールのクソオヤジのDNAに関するレポートを見せてやろう』


車を離れる、敵スナイパーの位置を確認して、それから適当な建物を見繕った


『死ぬなよ』


ツーツー鳴り出した携帯電話をしまい建物内部へ侵入、2階でひとまず落ち着く。見えるのは正面部隊の一部、滑走路の反対側を走る挟撃部隊


民間人相手にここまでするのも珍しい



『ネア、正宗は?』


「シートベルトとエアバッグは良い仕事をしましたがね」

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