11-2
「はいこちらアレクセイ、ロンドン空港が使用不能との事ですが……」
待ちに待ったイギリス行き飛行機の機上で、副操縦席に収まったアレクセイさんがどこぞと不穏な会話を始めてしまった
「…………」
「………………」
「言いたい事はわかってる、だからその目をやめなさい」
日本を発って1ヶ月、国境越えを総計3回、撃墜されること1回、大規模な正規軍との交戦2回、特殊部隊と1回、ヤクザとも2回。たとえ戦闘しなくとも警戒レベルは最高を保たれ、カザフ兵のいた1週間を除けば常に誰か起きている状態だった。労基法違反で訴えられたら勝訴する術は無い。部下達のじっとりした視線を振り払いラファール自身も溜息、明梨へまだ油断するなとジェスチャーした。溜息が伝播する
「ごめんね……」
「慣れてる。……いや慣れてはいないかな」
明梨がぽつりと発した謝罪にルカは即答するも、テロリストに粘着された事はあるが正規軍との絡みは無かった事を思い出した。命令はまだだが武装を確認、腰にPx4、天井の荷室にG36C
シートベルトを外して集音機を広げ出したメルへ歩み寄る。ついでに窓から外を見ると、遥か先にドーバー海峡の青色が見えた
『どちらにせよ時間がありませんね、カレー近辺の使用可能な飛行場を手配してください。護衛が足りないな、CIAに問い合わせます』
ひとまずスピーカーから響いてきたのはそれだった。カレーとはインド産国民食ではなくフランスの地名で、英仏トンネルの入口がある場所である。フランス行きと聞いた途端にメルはラファールへと視線を向け
「ちなみに実家はどこに?」
「……シャンパーニュの方」
「お宅訪問は無理かぁ」
やがて飛行機は右旋回を始めてしまった。左に流れるドーバー海峡、イギリスの大地が遠退いていく
「隊長、残弾確認が必要か?」
まず最初に諦めたウィルがからかい気味に一言、乾いた笑いを漏らしながらラファールは右手を挙げ、人差し指をくいくい動かしてトリガーを引くジェスチャーをした。途端にG36CやらKやらMG36やらSLー9やらM95やらの薬室に初弾が叩き込まれ始め、一拍遅れてミニミとマグプルM4も続く。緊急作戦会議を終わらせ戻ってきたアレクセイ、何か言おうとしたが、一斉に金属音を立てるスライド、コッキングレバー、チャージングハンドルを見て満足げに頷いた
「察しが早くて助かります。ダンケルクで降りた後は英仏トンネルを通ってロンドンに向かいましょう、正宗さんは車の準備を」
「ガソリンが5リットルしかない、墜落に備えていたからな」
墜落前提ってのもすごい話であるが正宗はG36Kを持って貨物室へと降りて行く。機体も降下を始め早くも着陸態勢を取り出した
通信機周波数設定、時計合わせも滞りなく完了。荷物もまとめ、後は着陸を待つのみ
「で、今回はどこの誰が?」
「西側勢力には間違いないでしょうね、詳しい人間に聞きたいのですが…ミスヤンキーはだんまりです」
「ふむ……まさかアメリカ?」
「一足先に乗り心地最悪の軍用輸送機で現地入りして、しかもまだ6時前だ、寝てんだろ」
「さすがよくわかっていらっしゃる」
「なんだよその言い草は」
1週間もの間シオンにべったりひっつかれていたウィルが言い、なんか不機嫌になったラファールは窓から外を眺め出す。その背後では部下達がやはり不倫の発覚した父親を見る目をしていて、お父さんやれやれと首を振る
「実際のところなんですが、あなた方の脅威となるような組織、イギリスSASもフランスGIGNやRAIDも動向は把握しています。ロンドン空港にハッタリかました輩は少なくともこれらではないですね。そこらのアウトローなら何人来ても蹴散らせるでしょうし、そこまで深刻な状況では……」
と
「うわっと!」
飛行機が急速旋回を始めた
「墜落準備!墜落準備!!」
「飛行のたんびに墜落してたまるか!!何事!?」
途端に騒ぎ出したメルを一喝し次いで操縦席に詰め寄るラファール。コクピットルームから見た正面視界、眼前に小さな飛行場があるが、そのすぐ近くから白い煙の線が2本突っ込んできていた
「ミサイル攻撃だ!命中する!」
「マジで墜落フラグかよ!!!!」
一斉に何かに掴まる、ルカは明梨を抱き締めるように保持、別の意味で悲鳴が上がる。間も無く右主翼に衝撃、続けて胴体下部にも命中弾
「オーケーわかった、帰りは船にしよう」
ウィルがやたら冷静に呟いて
機体はフランスの大地に落着した




