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「姉さん、ねーえさん」
カザフスタンからひとっ飛びしたロンドン市内に急遽取ったホテルの一室でシオンは惰眠を貪っていたが、やや慌てた様子で入ってきた男に布団を取っ払われた。マリアンと同じく茶髪で眼鏡を着用、表立って公表できないタイプのオタクである。下がくたびれたジーンズなのはまぁいいが、Tシャツにプリントされているのはやたら目のでかい青髪の女の子。そのまま外出するのはやめて頂きたい
「なんだいジェラルドくん…私は状態のいい2ZZ-GEエンジンを探さなけりゃならんのだけど……」
「なんすかその未開封の骨董品みたいなやつ」
「ふふふふふ……」
確かにそんなものが見つかれば奇跡というものである。腕と足を立て寝たまま伸びをしたのち頭を2回撫でる、寝癖無し
ジェラルドが持ってきたのは紙っぺら1枚だった。まず最初にアメリカ海軍と書いてあり、CIA上層部からの無茶振りでない事はまず理解した
「今何時…?」
「5時45分、朝焼けが綺麗ですよ」
「早起きだねぇ……」
「いや僕寝てないんで」
どうせ新作の恋愛ADVを一晩で2、3ルートクリアするとかいうアホをやっていたのだろうと思いながら紙1枚にびっしり連なった文字列をのろのろと読んでいき
ちょうど半分で布団を吹っ飛ばしながら起床を完了した
「裏切り者がいる」
そこから5秒で最後まで読み切り1回2回3回4回5回と折り込んで紙飛行機を作成、部屋の隅へ投げながらベッドより脱出、机の上に置きっぱなしだったブラシをひっつかむ
「何分前だ?」
「僕の手元に来たのは2分前、だけどこれが作製されたのは5時間前くらい」
「5時間前?話にならない」
「ノーマークでしたからね、灯台もと暗しってやつ。ひとまずテレビを」
必要最低限にくすんだ銀髪を整えヘアゴムを入手しながらスマートフォンを操作、ロシアのウォッカ野郎から着信5件、メール3件、すべて30分以内のもの。その間にジェラルドがリモコンのボタンを押しニュースを流し始める
ロンドン空港に爆破予告があって全面封鎖された旨をキャスターどもが大慌てで放送していた。これはもう阻止不能だ、後手も後手の超絶後手である
「スリーシックスはどこに?」
「ちょっと待ってちょっと待って……ダンケルクで降りるって言ってる、ドーバー海峡のフランス側」
長髪を二つに分けてうなじで留める、服装確認、いつものシャツとデニムのパンツ。シャワーも浴びず眠り込んだのは恥ずかしい限りだが少なくとも時間短縮にはなった
「で、ここまで情報筒抜けにしやがったのはどこのどいつだ?」
「うちじゃないのは確かですけどね。VLICのイギリス支部かフランス支部か、部隊員の詳細な個人情報まで漏らせるならそのへんでしょう」
「そもそもなんでこのタイミングなんだ、あと半日もあれば全部終わるのに」
西側勢力圏に入って初めてのチャンスでー、とジェラルドが言っているのを聞きながらキャリングケースを開封、中から出てきたM4アサルトライフルに弾倉を突っ込んでチャージングハンドルを一回、セイフティがかかっているのを確認してケースに戻した。バックパックも背負って準備完了
「よーし、出せる戦力ぜんぶ出すぞ。現在状況は?」
「ヘルファイアミサイル4発とスティンガーミサイル2発を積んだMQー9リーパーが準備中、10分後離陸予定、ドイツからです。イギリスSASとCIA本部が交渉中、フランス政府にはこれから。でも正面衝突は拒否されるでしょうね。実質的な地上戦力はスリーシックスの9人と僕ら3人のみ」
「どっちに転んだってまずい事にしかならんな、少なくとも身分は隠した方がいい。セリカちゃん以外の車両は?」
「現地のエージェントから速そうなの貰ってますよ、えーと確かアールのさんじゅうご……」
「GTーRか?そりゃいいランエボなんぞ蹴散らせる。マリアンを叩き起こせ!ジェラルドくんはまずその萌えーなシャツを着替えろ!」
「……フェイたそはお嫌いですか?」
「知らねーよ!」
「原作じゃラスボスなのにリメイク版でなぜか主人公になるすごい子なんすけど」
「知らねーっつの!!」




