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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
It Restart
8/106

1-8

「…て……起きて…ば…!」


落ちていた意識が混濁状態まで回復した。焦点の定まらない視界で炎上する鉄道車両を捉え、また気絶しかける


「えっと……っとこの…名前なんて……」


数秒で復帰。場所は湿原地帯にある森林の中、地面に寝転がっているようだ。叫びながら体を揺らしているのは明梨か


「…か?……ルカ!ルカ!!」




名前を呼ばれる、それでようやく完全に覚醒した




『1個分隊が右に回り込んでる!押さえつけて!』


『ブラボー!燃料は!?』


『問題無し!』


「弾が足りねえ!投下してくれ!」


『りょーうかーい!』


弾丸と通信が乱れ飛んでいる。絶え間無く鳴り響く発砲音は扇状約60度の範囲から聞こえており、大人数の相手と戦っているという事は理解した。起き上がって、落ちていたG36Cを持ち上げる


「ルカ!右側だ!撃てるか!?」


カービンモデルのG36Kを撃ちながらシグが言った。その側ではヒナがSL−9のリロードを行っていて、少し離れてメルがMG36を乱射中


「オーケー!」


まず明梨の頭を下げさせ、敵の陣形を確認。右側が大きく前進している、このままだと側面攻撃を受けてしまう


先頭がどこにいるか確認、木の影から出た所を確実に撃ち抜いていく。3人倒した所で前進をやめた


「スペツナズじゃないね!一般兵くらいの練度だ!」


「ロシア軍だってのは間違いないがな!っと危ね!!」


ドガガガガ!という音が狂った曲を奏で続ける。大部分はブラックホーク2機のミニガンが押さえつけているが、敵は軽く100人を超えている、色々ともたない


「人海戦術とかスマートじゃねえな……おいヒナ!何人やった!?」


「ごめん最初っから数えてないわ!」


「だよな!俺も数えてねえ!」


HAHAHAHA!とアメリカンに笑うシグとヒナ。シグがタタタンタタタンと軽快に撃ち続ける合間を縫ってヒナが遮蔽物からはみ出した敵を狙撃していく、既に前方には死体のカーペットが敷き詰められていた。この距離でスナイパーライフルはどうかと思ったが、ヒナが目標確認してから発砲まで1秒足らず、本格的な狙撃よりもこういう近距離での野戦狙撃を得意としているようだ、兵科でいうと前哨狙撃兵


「弾落としますよー!」


頭上でネアが叫ぶ。すぐに弾倉満載のケースが落ちてきた


「投げるよ!」


「オーケー急げ!」


G36系共通のプラスチックマガジンを3つほど連結させた状態でシグとメルに投げ渡す、次いでヒナにもSL−9用のものを、外観は似ているが入っているのは専用の7.62mm×37弾、互換性は無い


「でどうすんの?このままだと3分が相場だけど」


「そう言われてもこの数相手じゃなぁ…」


各々マグチェンジしながら相談を始めた。当初の目的である明梨奪還は済んでいる、後は地上に残っているシグ、ヒナ、メル、ルカ、それから明梨をヘリに収容、戦域から逃げ出してしまえばそれで任務完了となるのだ。だが、下手に動けばすぐ蜂の巣になってしまうだろう。対空兵器がいないのがせめてもの救いか


「なんか一気にばーっとやれるの無いのー!?」


一人で左翼を押さえているメルが言う。自前のドラムマガジンは使い果たし傍に投げ捨てられていた、こうなったMG36はもはやただ重いだけの銃である。限界は近い


「支援無し、火力無し、ミニガンは弾切れ寸前。俺は任務成功に1ドル賭けるね」


「じゃあ私はあんたが突撃して時間稼ぐに100ドル賭けるわ」


「はっはっはっは……ま全員死ぬよりはマシかなー…?」


何か策を考えなければ、このままではシグが英雄認定を受けてしまう。何かないかと周囲を見回し、泣きそうな明梨と目が合った


「大丈夫」


「大丈夫そうに見えない……」


「すいません嘘つきました」


弾が飛んできたため明梨の頭を下げさせてやり過ごす。さっきより近い、時間が無い


「話し合い…話し合いを……してくれると思えない……」


「うんそれはこうなる前の解決策だね」


「ああ…戦争の現場ってこうなのね…あまりにも融通が効かない……」


「うんそれは左翼思想が絶対に抱えるジレンマだね」


張り子の理論に絶望して頂いた所で再度打開策を探す。燃え盛る列車、ひしゃげた車輪、車体の破片、鉄の矢、木箱




木箱?




「……使える」


「え?」


だいぶ重いそれを手繰り寄せ確認、155ミリフレシェット砲弾3発入り、西側の兵器だがそこに疑問を抱いている暇は無い


「シグ!交代!」


「お?いきなりどうした」


言いつつもG36Kを連射、合わせてこっちも撃ちまくりシグを後退させた。その逆をやってルカが前進


配置交換完了、そこにあった木箱を見てすぐ意図を理解してくれたらしい、わぉと声が上がる


「爆発担当だったよね!?」


「ははっ!なかなか過激な新入社員だ!」


敵との距離はもう50メートルもない、撃てば当たる、そんな状態である


「こちらシグ!フレシェット砲弾でIED(即席爆弾)を作る!援護してくれ!」


『了解!残弾すべて注ぎ込みますよ!』



ミニガンが咆哮する



「どれくらいかかんの!?」


「2分だ!」


これ以上近付かれたら終わりだ、とにかく撃つ、撃ちまくる。敵の動きを制限した所でヒナが片端から頭を撃ち抜いていき、周りこもうとする奴らはメルが排除。相手も総力戦だ、撃つのをやめたらきっと死ぬ


「すまんここ持っててくれ、動かさないようにな」


「こ、こう?」


「そうそう、ちょっとでも動かしたら爆発するぞ」


「ひ…!?」


弾切れのG36Cを置いてPx4を抜く、それを撃っている間にG36Cのマガジンを片手で交換、構え直し、今度は逆を。後ろは見れないがゴトゴトと砲弾を配置する音、作業は順調のようだ


「回り込んでる!左右両側から!」


『ちくしょう!』


上空のラファールがM4を撃ち始めた。ミニガンが弾切れ、火力が激減する


「あと30秒稼いでくれ!」


「そんなにもつかーーっ!!」


隣に立っている木の皮が弾け飛んだ、反撃を許し始めてしまっている。だが隠れる事はできない、撃つのをやめたら突撃をくらう


敵の姿が見えた瞬間に撃って倒す、または出てくる前に牽制。しかし限界がある、なにせ3対100だ


「きゃっ‼」


そうこうしているうちにヒナが悲鳴を上げた。が、同時に出たのはカァン!という金属同士の衝突音。銃に当たった、とも違うような気がするが、少なくとも生身の体を撃たれたような音ではない、ヒナを見ても血は出ていなかった


「ぁ…だ、大丈夫!撃たれてないから大丈夫‼」


違和感があるものの辛そうにはしていないのでひとまず忘れよう、気にしている場合ではない。飛び出そうとしていた連中を片付ける


「完!成ーッ!」


シグが叫んだ、同時にヘリからの射撃が強くなる


『全員車両の反対側まで退避‼』


連射しながら全力で後退する。シグと明梨の所まで戻って、そこから交代で制圧射撃しながら列車内部を抜けて反対側へ。フレシェット弾は木箱で隠して設置してあった


「え、3個全部?」


「当たり前だろ!ほら早くこっち来い!」


いや当たり前ではない明らかにオーバーキルだ、扇状に配置されたそれの後ろに吹っ飛んだドアを置いて慰め程度の防御を確保、カウントを始めたシグの横を抜けて、本日二度目、明梨を抱えて木の影まで飛ぶ


「なな何ー⁉」


起爆


まず爆弾らしく爆発音がした、付け替えたリモート信管が内部の火薬を発火させたのだ、だがそこから先は少し違う


フレシェット弾とは大砲版ショットガンのようなもので発射後空中で爆発、内部に詰められた鉄の矢を散布する対人攻撃向きの砲弾であり、爆発は矢を飛ばすためのもの。1発あたり5000本、計15000本の鉄の矢が扇状にぶちまけられる事になる


ガガガガガ‼という矢の突き刺さる音が響き渡った


「いよっしゃあああ‼敵部隊1人残らず殲滅ぅ‼」


爆弾魔が飛び上がって喜んでいる


やれやれ。そう思った瞬間、眼前に鉄の矢が突き刺さった。明梨と一緒に数秒固まって、それからようやく立ち上がった


「加減ってものを知らないなぁ…」


「いつもの事だから気にしない方がいいよ。ありったけつぎ込むんだもん」


というのがメルの意見


「帰ろ、生きててよかったね」


「あ…うん…」


明梨が気まずげに答えた


言いたい事は大体わかる、戦争反対を掲げていた身で、戦争を生業とする連中に助けられた。申し訳なさと、自分の情けなさだろう


「気にしなくていい、誰だって死にたくはないんだから」


「ん……」


「話し合って解決できるならそれが一番だけど、話をしてくれない人もいる。でもそいつらの相手をするのは僕達の役目だ、君が考える事じゃない」


「……」


「君は今まで通り、どうすれば平和になるかを考えればいい。答えが出るまでは僕達が平和を保つ」


君の望む平和じゃないだろうけど、と付け足そうと思ったがやめた、もう聞いていない


軽く息を吐いて、視線を着陸中のヘリに移した。接地前にラファールが飛び降りる


「何か情報は?何となく連れ去ったって訳じゃないんでしょ」


「敵の隊長は『致命的に矛盾したもの』と」


「わけわからん」


一言で切り捨て、大破した車両へ向かう。丁度ヒナが中から出てくる所だった


「書類はっけーん、でも読めなーい」


端が焼けた紙が一枚、ラファールに渡される


その際、ヒナの着ている服の左腕部分が破れているのを見つけた。明らかに撃たれた跡だ、だが、血は出ていない。気になって見ていると、後ろからメルにつつかれ


「気にしたら負けです」


「…了解」



見てやるな、という意味らしい



「ルカ、ロシア語は読める?」


ラファールが聞いてきた


「一応。ロシアは寒いから長居しなかったけど」


先進諸国の言語は一通り覚えているはずである。だがモノが良くなかった、焦げている


「GRU…うんやっぱりスペツナズだ、主犯はロシア政府で間違いないね」


「理由は?」


「文字が潰れててちょっと……そうだね、戦力均衡を崩す可能性…悪用される前に……」


読み取れるのはその程度か。紙の損傷が酷すぎる、具体的な内容はまったくわからない



だが、もうひとつ



「…大量破壊兵器って書いてある」


「……なるほど…」


敵はそれを『致命的に矛盾したもの』と


すなわち、一撃で数千、数万の人を殺し、その抑止力をもって世界を平和に保つモノ



「核だ。この話、核兵器が絡んでる」

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