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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
Crowding Silence
79/106

10-1

「つぅ…!」


シオンは絶望しかけていた


愛車を超えて嫁と称するトヨタセリカ最終型と、それの搭載する心臓2ZZ-GEエンジンは自身の持つポテンシャルを惜しみなく発揮してくれている。日本のサードパーティーから取り寄せたタービンを突貫工事でボルトオンし、もともと排気量増、高回転化していた事も相まって純正190馬力だった出力はとうとう300を超えた。それに合わせてトランスミッション、サスペンションの変更及び各部強度アップを行い、その結果あれほど優しかった乗り心地はどこかに行ってしまったが、ストレートで突き放されないだけの加速力は手に入れた


だがそんな付け焼き刃で勝てる相手ではない


「冗談じゃない何なんだそれ…!」


後ろから追ってくるミスター悪人面、三菱ランサーエボリューションXの積む4B11エンジンはプロのメカニックがメチャクチャに改造した450馬力、エンジン直下に付いていたオイルキャッチタンクは取り払いポンプ吸い出し式に変更され、全身に防弾プレートを装備した重量級のくせにバカみたいな低重心を実現している。峠の窮屈な道で450馬力なんて必要無いとしても、ただの改造車とレーシングカーではコーナリングスピードが違いすぎる


長いストレートからヘアピンコーナー目掛けレイトブレーキを敢行、アンチロックブレーキシステムの作動する振動を右足に感じつつランエボが数メートル引き離されたのを確認した。コーナー進入と同時にサイドブレーキを引っ張り上げてリアタイヤをスライドさせる、コンパクトに回頭を済ませギア変更、完全にコーナーから脱出する頃にはランエボは再び同じ位置に陣取っている


が、ドライバーは決めにかかる事を決意したらしい、次のコーナーまでの短い間で僅かに保っていた車間を捨て去り


「だあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


右コーナー、大外からかぶせるように並ばれる


セリカは前輪のみに駆動力を伝えるFF方式、対しランエボXは4つのタイヤすべてで路面を蹴飛ばす4WD。立ち上がり加速の時点で半身引き離され、続く左コーナーのブレーキングで若干取り戻すも、クリッピングポイントを通過した途端、公道バトルは弱いものいじめへと変貌した


「ぁぁぁぁぁぁ…………」


できる事はもうない


アクセルを離して、遠ざかる悪人面を見送った















「という事があったんですよ」


「まず私はあんたが何語で喋ってんのかが理解できない」


アルマトイ市内の地図に置かれた赤い駒をラファールが移動させる、赤の他に青と緑があり、これは市内に3部隊展開している事を意味している


『チャーリー、現金輸送車の護衛任務が終了した、次の指示を待っている』


「了解正宗。駅前まで向かって、反政府デモが自然発生したらしいわ、警察が対応するまで監視をお願い」


あの悪人面が現金警護したのかよと思いながらエボXのエンジン音を聞き届ける。ラファールが緑を移動、駅前へ移した


「正直もう限界です、これから老化が進むのも考えると、休ませてやったほうが悲しい結末は見なくて済むのかな、と」


「なんか感動のシーン演出してるけどこれ車の話よね?」


「でもまだ選択肢は残ってるんです、エンジン換装を含めた駆動レイアウト変更という最終手段が」


「そのくどーれいあうとへんこーってのが何なのか知らないけど、新車買った方が安上がりなのはなんとなくわかった」


スマートフォンの着信音が鳴った。同じメーカーを使っているので自らのポケットに手を突っ込み、ほどなくラファールが届いたメールを開封、ポケットからそっと手を抜く


『ブラボぉー……迷子犬の捜索完了ぉー……』


「オッケ。……じゃあ編成を変える、ルカをアンモニアテロ現場に向かわせて。メルはそのまま公園に留まって、同じ地点で迷子猫が出てる」


『うぇっへっへっへっへ…………』


指示しながらメールを返信、それからホテルのロビーをざっと見回す。そこにいるのはラファール、シオンの他にテレビを眺めるウィル、ソファに寝そべって携帯ゲーム機で遊ぶネア


「ネア、メルに合流」


うちオレンジ色の方がソファから転がり落ちた。腹の傷が痛んだらしく僅かに呻いて、起き上がりながらゲーム機の電源を切る


「まじぃ……」


「猫探しくらいできるでしょ、はい行った」


Px4とコンバットナイフを持たせネアをロビーから追い出す。次いでウィルに手招きして、地図上に駒を追加、白をひとつ、黒を複数。白は先日自爆テロが起きた場所へ、これはルカを表しているようだ。残った黒はすべて駅前に配置、緑と重なる


「今のメールは?」


「ロシアの腹黒就活生からよ、スペツナズが来る」


なるほど黒はそれらしい、駅前に配置という事は電車で来るということか。世界最高レベルの特殊部隊、本来ならばPMCのような”ちょっと武装しただけの民間人”の為だけに出てくるような存在ではない、1チーム4人もいればありとあらゆる工作活動を可能とするし、正面切って撃ち合うには2ケタ単位の人数が必要となる。そんな怪物と2度もやりあって被害ゼロというマジキチ9人組がいるのも確かだが


「少なくとも3チーム12人、今メンバーを調べて貰ってる」


「綱渡りの予感しかしねえな、やるのは昼か?夜か?」


「夜戦じゃ勝ち目はない、もっと奇抜にいかないと」


椅子ごと移動してきたウィルがまず一言、気分的にはもうロンドンへ着いていたようで、ここにきての大一番と聞いて盛大に溜息


「部下が近くにいます、必要ならSOG部隊が展開しますが」


「そうね、それじゃあ準備して、緊急時のアストラエア救出役として」


単独でやるつもりかよ


「勝算がない訳じゃあない、スペツナズだか何だが知らないけど、人ごみの中ハンドガン隠し持って走り回る能力なら絶対負けてない」


まぁ日本出身のPMCは警備、護衛が主任務だからそれは真実だろう。付け加えこいつらは、”問題が起きる前に誰にも気付かれず問題を排除する”なんてふざけた真似を年中やっている


「アルファ、出番よ。早急に駅前の監視位置について」

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