Air 2-1
「えー、爆破時刻は16時間前の3月13日夕方、爆発の仕方から見て発破用ダイナマイトを100本くらい束ねたような感じだな、バン!って燃え方だ。実行犯を除き直近にいた8人が即死、15人が搬送先の病院で死亡、大小含め100人以上が怪我してる。監視カメラの映像だ、見るか?」
オープンカフェのテーブルに置かれた携帯電話を一瞥、持ち主に首を振って引っ込ませる。そうかと言いながらポケットにしまって、梢はブレンドコーヒー入りのカップを持ち上げた
「しかし今回はさすがに意表を突かれた、人間1人を殺すだけなら数十グレインの鉛弾で事足りるっていうのにな」
金色、というには光沢が足りなさすぎる黄色い髪はセミロングに整えられ、白いニット帽で包まれている。成長期真っ只中とはいえ平均より小さい体で、薄い生地の黒ジャケットと白のインナー、赤いチェック柄のスカートという服装。ジャケットの裏にはウエストホルスターが仕込まれていて、ワルサーP99ハンドガンが予備弾倉と共に収められている。P99はドイツワルサー社の製造で、ナチスドイツ兵やルパン3世の使用するP38直系の子孫だが、ポリマーフレームの採用や撃鉄を廃したハンマーレス式撃発機構により、渋い印象は淘汰され近未来的なフォルムと化している。装弾数16発、優秀な銃だがセールスはうまくいっていない模様
「犯人の真正面にエレドア・オルネイズ、NGO法人のスポンサーをよくやってる。今回は軍縮NGOの要請で協議に参加したようだ、徒歩10分以内の位置に国連本部。この後ろにファティマ・オルネイズとレミナ・オルネイズ、ソフトクリームを買いに行ってた息子のルカ・オルネイズは助かってる。ま、こんな派手な殺し方したのは見せしめの意味合いが強いだろうな」
コーヒーを一口、飲み込んだ瞬間にしかめっ面をして、角砂糖3個を投入、スプーンでかき回す
「実行犯はアラブ系ハーフ、背後にはシャリーアと、更に後ろにアルカイダが認められてる。だが動機がわからない、今回の争点はそこだ」
ミルクも投入、黒い液体が茶色に染まった。また一口飲むも、苦いものは苦いらしい
「オルネイズが何をしたか、何を思って殺害に至ったか、保安部内に裏社会関係者がどれだけいるのか、明日の朝までに集まるだけ情報を集める。その後はいつも通りだ、表裏問わず売りさばいてトンズラかますぞ」
たった1日、市中を駆け回る羽目になりそうだ。言いながら4個目の砂糖を入れる。既に半分以下まで減っていたこちらのカップ(5個入り)を空にして脇に除けた
「で、情報源はどこに取る?」
「とりあえず、ダイナマイトの出処から捕まえようかな。複数の爆薬業者から少しずつ買ってった男の情報がある」
携帯電話をまた出して男性の写真を見せてきた。若い、20代前半だろう
「アメリカンギャング、麻薬の売人もやってる。裏社会じゃ底辺も底辺のド底辺だが、まぁ連絡員のメールアドレスくらいは知ってるさ」
「生き残ってる息子とやらは?」
「家族全員ミンチになったばかりだ、とても会話できる状態じゃにゃーよ。たとえお前がポル・ポトも真っ青の拷問をやらかしたとしてもな」
時間を確認、ほとんど減っていないコーヒーカップを置き去りに梢は立ち上がった。チップを含む代金を店員に渡してそそくさと通りへ
「時間にバラつきはあるが基本的に朝は寝てる、このタイミングなら間違いなくだ。治安の良くない場所に行くが、突っかかられても腕1本くらいで許してやれ」
それに続いてしばらく歩き、建物の間を通って裏道に入る。一気に雰囲気が悪くなった
「ニューヨークっていったら夜中にヤンキーが騒いでる程度だと記憶してたんだが、メキシコの方はうまく行ってないのかねぇ」
「お前はどっちの味方だ?」
「ま確かにこういうコロニーがあればあたしん家の仕事はやりやすくなるだろうが、それと街の景観が悪くなるのは別の話だぞエアちゃん。あががががが!」
ニット帽の上から鷲掴みにして数秒、手を離すとその場にうずくまった
「護衛対象を傷付けるな!」
「ならいい加減ちゃん付けをやめろ。それで具体的に私は何をすればいい」
帽子の位置を直して復帰、移動を継続する。やがてマンションが見えてきた。比較的新しい建物だが壁は一面落書きだらけで、近付いたらロクな目に遭わないのはすぐわかる。迷いなくそれに近付き、入口のドアに手をかけ
「何しろ時間がない、手早く行くぞ。軍人でもなんでも無いんだ、マニアックなのはいらんだろ」
開ける
隠す気もないようなコカインの匂い
「全力だ、蹴り上げてやれ」




