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「ターボ…ターボを付けるしか…いやいやパワー上げた程度でドライサンプ4B11に対抗できるとは思えないし…アレに食いつこうとするんならそれこそ坂東さんちの子みたいな魔改造が……でも2ZZーGEちゃん…ぬぉぉぉぉぉ……」
CIAはどう思っているのか聞こうとしたが、椅子に座って考える人となったシオンはそれどころではないようだった
「写真は撮らなかったの?」
「まさかそんな大物がいるとは思わなかったからさ」
ルームサービスが置いていったオレンジジュースにストローを刺しながらメルが言う。テーブルに置かれたパソコンには低画質な画像が映されており、今ならそれがバイコヌールで撮られたスティグマだと断定できる。室内にいるのは他にアレクセイと、ベッドの上で足を投げ出すルカの計4人
「とりあえず、言い分はあるでしょうがロシア領内にスナイパーライフルを持ち込んで発砲したのは反省して頂きたいですね」
「そうだねー、狙撃に成功してたとしてもロクな事にはなってなかったよ」
「これ以上反省したら僕の足は間違いなく壊死する」
「そんな事言ってると突っつくよ」
「やめて、やめて!」
長時間正座で完全にやられた足の裏をつんつんとやってメルはジュースを一口、その後軽く溜息をつき、パソコンのマウスへ手を置いた
「……ビンラディンより価値があるって言うからさ、シオンも撃ちたがってた」
考える人をやめて銀色の髪(左右不整列)をいじり出したシオンを見る、rpmガーと呟いていてやはり何を言ってるかは理解できない
「確かにあの人はすべてのアメリカ人から激しく憎まれてる、9.11から10年間も泥水を啜ってたCIAは特にね。ゼロダークサーティーみたいなのをもう1本ってのは嫌だろうし」
何より当事者が身近にいる、アメリカ人でないメルにも身に染みてわかるだろう。そういえばこの娘が何人なのか聞いていなかったが、少なくとも戸籍は中国にあるらしい
「彼女は呼ばないのですか?夕食の後はロビーで暇そうにしていましたが」
そのヒナにも聞かせるべきではとアレクセイは言うが、パソコンの操作を続けながらメルは首を横に振った。ワードソフトを立ち上げ、簡潔に要点を書き込んでいく
「私が見つけた写真だけなら見せて良かったんだけど、行き先がわからないんじゃ、すごく中途半端な情報になっちゃうから」
10行以下にまとめたそれは隠しファイルにして見つからないように
「こんなの教えたら、何し始めるかわかんないよ」
最後に困った顔をしてパソコンのモニターをたたむ。相方がそう言うならそれ以上は、とアレクセイは肩を竦め、携帯電話のメールチェックを始めた
と、そうしたらシオンがようやく顔を上げ
「威力は…」
「え?」
「その射手座の一撃を本当に中東派遣軍にぶっぱした場合、被害はどれほどになるのかと」
その質問にメルは若干疑問符を浮かべ、とりあえずパソコンを開き直す。先日チャイニーズマフィアからぶんどってきた開発計画資料のうちスペックノートを表示させた
「254mmレールガンから槍状の弾体が発射される、威力は神の杖より劣るけど地表到達までほとんど時間がかからない、発射を感知した頃には直径5kmのクレーターが出来上がってるよ。補給を受けてなければの話だけど、打ち上げ時に搭載していた弾数は5」
「ヒロシマナガサキよりは低威力か、十分大量破壊兵器の部類ですけど」
「というか、元から核兵器の代替品として開発されたからね。でも水爆とかと比べると弱すぎるし、放射能汚染が無い分気軽に撃てるし、私はこれが核ミサイルの代わりになるとは思えないな」
それによると砲口初速はマッハ15を予定、弾体の重量が無いため限定的な威力になっていると思われる。これは弾種を変える事で改善が見込めるだろうが、少なくとも現状はこの威力
「でもなんで中東限定なの?」
「ウォッカまみれのロシア人が言ったのと、衛星自体の軌道がアメリカ本土を狙うには厳しいのと」
「あー、そうか、ただの衛星ならそうなるよね」
妙に納得し、不吉な事を言い出すメル
聞きたくは無かったが、聞かなければならないため一応
「どんな衛星?」
「うん、確かに打ち上げ直後の軌道はアメリカ上空を通らないけど、まずその衛星って所に語弊があって」
ページをスクロールして1枚の写真を出す
設計段階のイメージ図と思われるそれは
「人工衛星じゃなくて、宇宙船なんだよ」




