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「カザフスタンの状況はCIAも注目していますが、なにぶん急だったもんで一切情報を掴めていません。とりあえずアメリカ国内にあると思われるテログループ本拠地の捜索を行うようですが」
小型のバックパックを背負ったシオンが金網にスプレーを吹きかける、少し待ってから金網を引っ張ると、溶けた場所がちぎれて円形の入口が開いた
「カザフ政府に寄せられた声明が何なのかわかればそれが彼らの目的となるのですが、隠すってことは何か不都合があるんでしょうね」
内部に侵入し、壊した金網がバレないよう応急修理、次いでシオンが取り出したのはハンドガンケースよりも小さいハードケース
「何にせよここに手掛かりがあるはずです、複数の情報筋がバイコヌールを挙げていますし、衛星画像で基地内部が慌ただしい事を確認しています」
それを開けると、中には金属製の虫が入っていた
「私は立場上そっちを優先しないといけないんで、ルカさんの手伝いはその後になっちゃいますけど」
「構わないよ、まったくの別問題ってのも考えにくそうだ」
全長およそ10センチ、脚がたくさんついたムカデ状のロボットを地面に設置、操作はスマートフォンで行う模様
「気持ち悪いね」
「失礼な、便利なかわいい子ですよ、愛してはいないけど」
操作開始と同時にカサカサ動き始めたそれは壁を登って通気口に消えていく。数分間タッチパネルと格闘するシオンを眺め、やがてグーサインが出されたため建物のドアを開ける
「おいウォッカ野郎、内部侵入に成功したぞ」
『さすがですミスヤンキー、バイコヌール宇宙基地の飛行場に辿り着く事ができるならどこの政府もクーデターできるでしょう』
「ハハハハハ、橋から突き落とすぞ」
仲良く会話するシオンとアレクセイはほっといて室内中央にいたドローンを回収、手に持った瞬間にわさわさ動き始めたため思わず手を引っ込める
「虫がお嫌いなんですね」
「……早く次に行こう」
ニヤつくシオンに上を指差し、階段を登って再びドローンを設置した。渡り廊下の天井を伝って次の棟へ
「ここは倉庫みたいだね」
『そこは宇宙食備蓄庫です、食べたいならどうぞ』
「冗談、食べ飽きてるよ」
軍用レーションより遥かに要求の厳しいものが軍用レーションより美味いはずがない、試しに段ボールのラベルを見ると、書いてあったのはバニラ味アイスクリーム
いったいどうなってる
「2人、物資の荷下ろししてる」
『確認しましょう、ロシア人を傷付けるのは厳禁ですよ』
「わーってる。その先を調べるんで待ってください」
さらに待機命令が出たためひとまず1階へ降りて窓を覗く。小型飛行機が滑走路に向かって飛んでくる所だった
「民間セスナみたいなのが着陸しようとしてる」
『うん?おかしいですね、次の着陸は1時間後のはず』
さっそく怪しいものを発見した、シオンに目配せしてグーサインを貰い、入ってきたドアから外に出る。誰もいない、ふたつ先の建物目指して走り出した
「はえ!ルカさんはえーっす!」
「注意するのは警備員だけでいい!侵入者がいるなんて誰も思ってないからさ!」
「あんた本職より手慣れてんな!」
4階建ての建物に到着、姿勢を低めに非常階段を駆け上がる。最上階まで登り切って、シオンのピッキングにより内部へ入った
『衛星画像を取得……はぁ本当にいますね。籍はチェコ共和国』
若干の悪い気配を感じ、通信機越しのアレクセイに聞こえないようPx4を準備。シオンも同じくM9の薬室に初弾を装填、室内にあった長机を窓際へ移動する
「滑走路に着陸、ターミナルへ向かってく。直線距離650メートル、南東へ5メートル以下の風」
『風?』
「ああうん、気にしないで」
机の上にシオンが寝転がる。その横に陣取って双眼鏡で飛行場全体をひとまず観察
レミントンMSRスナイパーライフルのバイポッドがカツンと音を鳴らして立てられた。カラーリングはフラットダークアース、バイポッド、大型サプレッサー、弾道計算CPU付きライフルスコープを装着。正直、PMCなんかとは装備の格が違う
「ターミナルに到着、セスナ機のドアが開いた。やたら警戒が強い、光り物の反射に気をつけて」
とは言ったがキルフラッシュも付いていた。.338ラプアマグナムを音を立てず装填、セスナの中身を待ち受ける。まず2人、特殊部隊風のライフル兵が左右を陣取るように展開
「蘭州軍区、暗夜之虎」
「……また中国か…」
いい加減食傷気味なそいつらを見て溜息、対して通信機の向こうは慌ただしくなり始め
『ちょっと待った、ちょっと待って下さい。バイコヌール宇宙基地が中国軍を迎え入れた?』
「あれがコスプレ集団でなければね」
『コスプレ?ああそうかコスプレか……』
「納得すんな、ウォッカ飲んで落ち着け」




