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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
It Restart
7/106

1-7

妙にビシュアル系な男性歌手の着信音が流れ始めた




「ひゃ…!ちがっ…違うの!そういうのじゃなくて!そういうのじゃなくて!!」


まだ何も言っていないのだがラファールが慌て出した。ポケットから自身の携帯電話を取り出し、着信している事を確認


「お前が腐女子なのは周知の事実だからさっさと電話出ろ」


「違うっつーの!!」


今流れている曲は女性向け恋愛シュミレーションゲームの主題歌だとメルの耳打ちにより知る。ラファールの携帯電話は数年前から急激に普及し出したタッチパネル式、画面に表示された名前を見て数秒沈黙、携帯電話をルカに渡してきた。画面表示は"ルカ"、つまり自分の携帯電話から着信している事になる


どうしろというのか、そう思ってラファールを見る。いいから出ろと顎で指示された


「……はい腐女子です」




マグプルM4ハイダー突きを喰らった




『あ…の……』


「はい…聞こえてます…聞こえてます…」


聞こえてきたのは葛城明梨の声だ。ヘリで連れ去られる直前に自分の携帯電話を渡し、以後それのGPS座標を追っていた。こうして電話してきたという事はまだ見つかっていないらしい、囮の可能性は消えた


音声出力をスピーカーに切り替えて全員に聞こえるようにする


「緊急時だから自己紹介は省くよ。こっちは今、昨日渡した携帯電話のGPSを頼りに列車を追跡してる。積み荷は医療用品になってるけど、今どんな状態?」


『た…多分列車の中。倉庫みたいな所に入れられてる、積み荷は…木箱が積んであるけど…155ミリ…フレシェットアモ…?』


「なるほど、病院で役立ちそうだ」


ヘリの操縦席に座るウィルが言った。皮肉だろう、書類には医療用品、薬品と書いてあったが実際は砲弾、真逆である


「よく聞いて。今いるのはロシア国内で、その列車はモスクワに向かってる。そいつらの目的は不明だけど今のところ身代金とかは要求されてない」


『これから、どうなるの…?あいつらは1ヶ月で帰れるって…』


「ああそいつは嘘をついてるね、君は今日中に帰国して自分のベッドで寝るんだ」



イケメンだねえ、メルが呟いた。手を横に振りつつウィルに時間を確認、残り2分



「今から迎えに行く、その携帯電話は見つからないように、でも電源は落とさないで」


『う、うん…なんか…ごめん…その…』


「その話は全部終わった後に。じゃあ、10分…いや、5分後また」



通話終了、ラファールに携帯電話を返す



「5分は無理じゃねえ?」


「なんとかする」


まずスリングでG36Cをしっかり吊り提げているのを確かめ、それから弾倉に弾が入っている事を確認、セイフティーを解除する。ラファールとメルもそれぞれM4とMG36に対し同じ事をして、メルは機体左側のミニガンを掴んだ


「残り1分、離陸する」


ブラックホークのエンジンが始動、メインローター、テールローター共に高速回転を始め、すぐに10メートルほど浮き上がった、隠れていた森から頭が出る


劇場での戦闘からまだ9時間、太陽は顔を出しているがまだ低く薄暗い。針葉樹がずっと先まで続いているものの雪はまばら、雪の国ロシア、という印象ではない。時期がよかったか


「アルファチームスタンバイ、ブラボー?」


『こちらブラボー、いつでも行けます』


ラファールの問い掛けにネアが応答、ブラックホークが高度を5メートルまで落とす。状況開始、高さを維持したまま前進し始めた


「列車を視認。よし行くぜ準備しろ」


メルの持つミニガンが高速回転を開始


「3、2、1、ゴー!」



左右の森林がいきなりなくなる、代わりに現れたのは広大な湿原と、線路と、おおよそ10両編成の列車、窓越しに見える乗員は腰を抜かすほど驚いていた。当然だろう、森を抜けた瞬間武装ヘリが現れたのだ、しかも2機、超低空で


「ファイアー!!」


ジェネラルエレクトリック社製M134ガトリング、通称ミニガン。7.62mm弾を毎秒50発程度で発射する性能を誇り、撃たれた相手は痛みを感じる前に死んでしまう事から付いた異名は『無痛ガン』。それを左右両側から乱射しているその光景はさながら鉄の暴風


「最後尾クリア!次!」


僅か数秒で1両が蜂の巣に成り果て、ブラックホークを前進させて2両目にかかる。このレベルの銃になると発射音は重なってブォォォ!!と聞こえ、列車は着弾した箇所から破片を撒き散らしてスクラップ同然になっていく。反対側にいるブラックホークからもネアが同じものを撃ちかけているため瞬く間に2両目も制圧、3両目へ



そこで問題が発生、真ん中あたりの車両から敵兵がぬっと頭を出した、構えているのはロケットランチャー



「RPG!ブラボー狙われてる!」


『りょぉぉぉぉかぁぁぁぁい!!』



反対側のブラックホークが側転した



『いいいっやっほぉぉぉぉぉぉぉぉう!!』


パイロットのロイに続いてネアも絶叫、回転しながらミニガンを撃ち続ける。列車の屋根を貫通して3両目を破壊、銃弾でなぞるようにその先のRPG兵を薙ぎ倒した


反撃はまだ終わらない、RPG−29を担いだ敵兵がまた屋根から出てきて、ランチャーの照準をこちらへ。ブラックホークのエンジン音が吠えるように大きくなる


「あっちの真似すんぞ!掴まれ!」


世界が回転していく。ブラボーチームと同じように列車の反対側へ向かって側転運動を行いロケット弾を回避


「わ!わ!わ!わ!!」


だが完全に同じとはいかなかった、射手のメルは発砲するどころかバランスを崩してヘリから落ちかけている。というかもう落ちる


まずいと思った時にはもう掴んでいた取っ手を手放していた、ちょうど真横になったブラックホークの床を蹴りつけ落下を開始、先に落ちていたメルの腕を掴んで引き寄せる。空中で半回転して自分の背中を下へ



ミニガンを撃ち込まれて脆くなっていた屋根が崩壊、車内へ落着した



「いっっっづぅ…!!」


背中が裂かれたような激痛、呼吸困難に陥るも上に乗っていたメルを転がしてPx4を引き抜き発砲、敵を遠ざけた


4両目に少なくとも3人、アサルトライフルで武装してドア付近に隠れている。近くの座席まで尻を引きずるように移動、一息つき視線をメルへ


「うぅん…地獄って電車使って行くの…?」


「まだ…死んでないから…!とりあえず応戦しようか…!」


そんな事を言いつつも座席に隠れて自分の銃を構えている。メルが使っているのはMG36、G36シリーズの分隊支援モデルで、分類的には重アサルトライフル、軽機関銃を更に軽くしたようなものである。だが列車内部で振り回せるようなものではない、MG36はスリングを肩にかけて背負い、構えているのはサイドアームのM93R。Px4と同じくイタリアはベレッタ社製の大型拳銃、重武装できない警察など法執行機関の火力不足を補うための3点バースト射撃が特徴


Px4をしまって自分のG36Cも確認する、フラッシュライトが破損しているが問題無い、今は日中だ


『ルカ!メル!』


「生きてます!現在交戦中!」


通信機から聞こえてきたラファールの声に応答しつつ4両目へ撃ちかける。窓の外ではブラックホーク2機が射撃体勢を整え直し、右側射手はメルに変わってラファール


『えーと……なんか予定と違うけどまあいいわ。作戦続行!ブラボーチームは先頭車両を制圧!』


4両目が鉄の暴風に見舞われいろんなものが吹っ飛んでいく。近くで見ると本当に酷い、車体を軽く貫通するような威力の弾を1秒間に100発撃ち込まれて、車両全体が悲鳴を上げていた。撃たれる側でなくてよかったと思う


『ここから先は内部が確認できない、自力で敵を倒しながら目標を見つけて』


「了解」


4両目を通って5両目に向かう。ブラボーチームのブラックホークが先頭車両を押さえるために前進、見えなくなった


さて問題はここからだ、明梨がどこにいるかわからない以上、むやみやたらに撃つ事ができない、爆発物など論外。制圧射撃も手榴弾も封じられた閉所戦、普通に撃ち合いしていてはどれだけかかるか検討もつかない


「機動力重視で行くよ!」


言ってルカを追い抜くメル。MG36はスリングに加えてベルトで固定、腰のコンバットナイフを引き抜いた、そのままノンストップで5両目に突入、出会い頭の敵兵にM93Rの銃口を叩き込んだ。怯んだ所でナイフを喉へ、床が真っ赤に染まる


続いてやってきた2人目の打撃攻撃をひらりとかわし足を引っ掛けた。こっちに倒れてきたので数発撃って片付ける



一応確認しておくが、相手は世界最高レベルの特殊部隊、GRUスペツナズである



「体の割に力あるね」


「んー、同年代の友達がヒナちゃんしかいないからわかんないんだけどね」


車両を確認、砲弾が山積みされているが明梨の姿はない。6両目を、と思った所で銃撃される


『こちらシグ、先頭車両を制圧し隊長っぽいのを拘束した。どうする?アクセル?ブレーキ?』


『ブレーキに決まってるでしょうが!!』


木箱の影に隠れて銃撃をやり過ごす、途端に敵は撃つのをやめた。当たり前だ、木箱の中身は大砲の弾、暴発なんてしたらそれはそれは楽しい事になる


「生物学とかでよく聞くと思うけど、人間は無意識下で身体機能にリミッターをかけてるっていうのあるじゃん?」


6両目への扉に向かって射撃を行いつつ前進、弾倉の中身を撃ち切ってリロード


「私、それが弱いらしい…のっ!」


動力車のブレーキがかかって減速を始め、その減速Gを使ってメルが急加速、既に穴だらけだった扉を蹴り破る。その後ババパンとリズミカルな発砲音がして敵兵が倒れた。が、数が多い、援護するべく自分も前進


「それって体に負担は!?」


「大丈夫!何やったらどうなるかはだいたいわかってる!」


敵兵4人、うち1人はメルとナイフ戦に突入していた。後ろの3人に向かって発砲し邪魔をさせないよう威嚇、頭を引っ込ませる。ここの積み荷も砲弾だ、安全装置はついているだろうがあまり刺激は与えたくない


ナイフ戦をしていた敵兵の左胸に刃が突き立てられた、短く呻いて床に崩れ落ちる。ほぼ同時に7両目からシグとヒナが突入してきて、押さえていた残り3人を順次片付けていく


「クリア。それからアストラエア発見」


「え、どこ?」


「そこ」



シグに指さされた場所は隠れていた木箱の反対側。覗いてみると、確かにいた



「おはよう」


「え…あ……う、うん…」


目標コード『アストラエア』、葛城明梨確保、通信機でラファールに報告する。連れ去られた時と同じTシャツスカートとコート、少々肌色がよくないが暴行された形跡は無し、手を差し出し立ち上がらせて先頭車両へ向かう。途中の各車両には死体が転がっており、通り過ぎる度明梨が声を漏らす


「死ん…でる…?」


「まぁ」


合計で30人はやっただろうか、平和主義であれ何であれ、日本人にこの光景はキツすぎた。救出に成功したものの未だ怯えきっている


なるべく死体を見せないように足を早め先頭車両へ、男が1人縛られて転がっていた。昨日の夜、明梨をヘリで連れ去った隊長格である


「昨日今日で死んだ人数分の命よりあんた1人は価値があるってだけよ、どんな価値かはこれからこいつに聞くんだけど」


ヒナが言った。ブレーキは最大作動中、列車は既に停止している。男は諦めたようにピクリとも動かず、死んだ魚のような目で明梨を見上げていた


「で、何?ただの変態ってオチじゃないでしょうね」


「……ふ…」


男が僅かに笑う


弱々しく、嘲笑うように



「致命的に矛盾したもの」


「は?」


「後は、自分で考えろ」







『まずい!ミサイル接近!至近距離だ!』


「ッ!?」


通信機越しにウィルが叫ぶ。一瞬だけ迷って、すぐに車両出入口へフルオートで発砲、扉を破壊する


砲弾を積んだこの列車にミサイル攻撃、証拠隠滅にしては派手過ぎだ


「退避ーッ!!」


混乱している明梨を抱きかかえて車両の外へ飛ぶ




男はまだ、笑っていた

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