Air 1-4
そいつらは3曲を完璧に演奏し切ったのち、本日最大の盛り上がりと次の順番のグループへ絶望を与えて舞台から降りていった
「くそ……」
一旦会場の外に出て、パッケージにどでかくエレナが映っているディスクが飛ぶように売れているのを確認。少し考え、売り子のさわ子先生に紙幣を渡してディスクをひったくる
それから会場の外側を回って人気の無い場所を探し、ずっと着信していた携帯電話を取り出した
「梢」
『やあやあエアちゃん、キリキリ稼いでるかい?』
「ちゃん付けはやめろと何百回と言ってるだろうが、いい加減にしないと警告射撃から次に行くぞ」
舞台裏側の木にもたれかかって買ったディスクのパッケージを眺め、とりあえずパーカーのポケットに突っ込んだ。余計な荷物は増やさないはずだったのだが
『近々イギリスでヤバい事が起こりそうだ、1人で歩き回るのが怖くなってきた』
「それは自慢の情報網から得た結果か?」
『ああ』
「なら大丈夫だろ」
『相変わらずひっでーなーこの人』
物販から聞こえてくる声の雰囲気が変わった、売り切れたらしい
『今そっちが相手してる組織と系列は同じじゃないかな、エルネフェルトって金持ちの夫人が暗殺された。どうも世界規模で邪魔者を排除しようとする何かがあるぞ』
「確かにテロリストごときにしては派手すぎる動きだがな、目的は何だ?」
『そこまではまだわからんにゃー。まぁここまでの犠牲者から共通点を見つけて狙われそうな人物のリストは作ってある、平和維持活動に興味のあるNGO法人だとか財団だとか。今一番熱いのはオルネイズだな、来週から国連本部に出向いて軍縮問題の話をする事になってる。それを踏まえた上で、私も明後日にはアメリカ入りしようと思う』
「つまり空港まで迎えに来いという事だな」
『理解してないかもしれんがな、お前の相方は表と裏どっちからも爆弾扱いされてる凄腕の情報屋で……』
「わかってる、使う航空便が決まったらまた連絡しろ」
通話を終了、携帯電話をしまう。それから大きく溜息をつき、会場外周の周回を再開した。すぐにWCの表示が見えてくる
「迂闊だったな、今回は」
無意識に出た独り言、自分に対して言ったのだろうか
手前に女子トイレ、その奥に男子トイレ。男の方には私服だがこの会場にはあまり似合わない格好の大柄な男が2人、トイレ入口を守るように立っている
パーカーの首元に手を入れ
「うん?」
そこにあったホックを解除
「どうした?女子トイレはそっちだぞ」
縦に保持されていた鞘が下から現れ
「な……」
|刃渡り50センチの片刃剣を引き抜いた
「止まれ!そこを動く……!」
1人目の右手が拳銃を掴む前にそいつの喉が噴水を上げる、引き抜いた勢いそのまま回転して2人目が持つガバメントモデルを腕ごと吹き飛ばした
「ご…ぼ……」
胸部に真一文字の断裂が発生、心臓が中身をぶちまけながら地面に倒れ伏し、一拍遅れで1人目も事切れる。それには目もくれず男子トイレに侵入、異常を察したばかりの政治家へ血まみれの刃を
「君は……が…!!」
一切の余裕を与えず、コンバットソードは右腹部へ致命傷を与えた
「お前の考え方は間違っているとは思わない、民主主義を維持する上で、それは必要なものだ」
「なら…何故…!」
これ以上言う事は無い、脇腹を引きちぎるように剣を抜いて鞘に収める。抜け落ちないよう固定しパーカーの中へ、ホックを引っ掛けた後、背後で人の倒れる音がした
「……くそ…」
トイレから出て悪態ひとつ、会場を1周し物販の前に戻ってきた。もうここに用は無い、入口に背を向ける
「あれ、帰っちゃうの?」
歩き出す直前、エレナに裾を掴まれた
「……ああ」
「ね、またどっかで会おうよ、他のみんなにも紹介するから。きっと仲良くなれる」
エレナは私服に着替え直し、モコモコしたセーターに戻っている。それを見て変な感情が湧き上がってきた、恐らく今自分は困った顔をしている
「……それは無理だ…」
「なんでぇ?」
「私にとってお前達は眩しすぎる」
女性の悲鳴が上がった
「あっ……」
それにエレナが気を取られた隙に手を振りほどく。それ以降振り返る事は無かった、どうなったかはわからない
「私は」
もはや誰も聞いていないそれは
「人じゃないんだ」
どうしようもないほどか細くて




