Air 1-2
「あ、いたぁー!」
「ぶっ!!」
会場入口が見えた瞬間に幼女は走り出した、その際ギターケースのネック部分が後頭部に直撃しコントよろしく軽くつんのめる
「待てコラァ!!」
「あだーー!!」
一刻も早く離れたかったはずだがあのゆるっゆるな頭をひっぱたかなければ気が済まないと追って疾走を開始、1秒足らずで追いつき平手を見舞った
「お前の頭のネジは何十本外れてるんだ気付かないはずないだろうがなあ…!」
「えーと…なんかカツラ的なものにひっかかったかなーとは思ったけども……あがががががが!!」
茶色い頭をがっちりホールドして悔い改めさせていると、入場ゲート付近から黒髪の女が飛び出してくるのを確認した。その髪色はアジア系特有のものだが顔の作りは欧米由来の印象、おそらくハーフかクォーターあたりなのだろう。この後のライブに備えておよそ私服とは思い難い服装をしており、無駄に布を使った黒くダボダボなそれは日本の着物を連想させる
「すすすすいません!その子頭がすごく弱くて!」
「そんなこたわかっとる!!」
頭を離しへたりと脱力した幼女を黒髪が抱き留めた、数回振って意識を回復させる
「迷子を連れてきてくれてありがとうございます、私はレンカという者で」
「何故お前らは求められてもいないのに名乗ろうとするんだ」
「それはその…ここに来るまでが長すぎて……」
過度に営業しすぎた結果癖になったという事なのだろう、まったく売れていないらしい
そのレンカという黒髪和服風女は外見年齢16から18、走ってきた方向を見ればもう少し年上に見える男が2人ドラムを運搬しながら手を振っている
「まぁいい私はもう行く、こういう危険物からは目を離すな絶対にだ」
そう言って離れようとした、どうせ目的地は同じだが一緒にいる理由もない。派手な髪を見て仲間だと勘違いしたカメコを睨みつけて一蹴、行列ができつつある入場口へ歩を進め
「えへ」
る前に、幼女がパーカーを引っ張った
「………………」
「別れる理由も確かに無かったがな……」
イベント参加者は指定席である、観客席の混沌とした様を見れば便乗したのは正解だった気もする。演奏に合わせて思い思いに絶叫するデーモン閣下どもを眺めながらパイプ椅子にもたれかかる
「どうせ場所余ってたからずっといていいからね、名前はなんていうの?」
「名前…名前か……」
観客に次いで参加者もざっと見渡す、ヘビーメタルやらロックンロールやらのアメリカンな連中から、このグループのような無国籍スタイルまで。一部魔法少女のコスプレしたおっさんとかいるがそれは見なかった事にした
「エア」
「ふぅん。変わった名前だね」
「失礼、両親がヒッピーだったもんで」
実際にはそれはコードネームなのだがいちいち考えるのも面倒なので押し通す事にする。レンカと名乗った黒髪は正面に向かい合わせで座り、着替え終え再合流したエレナとかいう幼女は左隣へ。無駄布だらけの和服風はレンカとお揃いだが色は茶色、髪色と揃えているそうだ
「ドラムとキーボードはどうした?」
「たぶん、あのへんでヘドバンしてると思う」
混沌の渦中を指差した、奴らがこちらに来ないから席が余っているらしい。残されたのは女2人とヤマハの太鼓及びカシオの鍵盤、青いヴィンテージにピンクのスタンダード
「えへへ、どう?」
そのうちエレキギターを持ち上げてエレナが構える。着物と弦楽器が無駄に合うのは知っていたが、デトロイトでやるのは勇気が必要だったろう
「金だけは有り余ってるというのはわかった」
「へへへー」
「へへへじゃねえ」
問題なのはそれをどこまで使えるかだ、質問の意味を込めてレンカに視線を送ると、すっと目を逸らされる
「B7までなら……でもまだこの子11だし」
小学生の分際で初心者脱却を図ろうとしている点を褒めるべきか、それともその程度でイベントに参加する度胸を褒めるべきかは悩ましい所である。いずれにせよギターは期待するなという事だろう
「でも大丈夫!ギターなんていらないくらい私が頑張るから!」
「頑張る方向性が違うと思うんだがそれはどうなんだ」
うなだれてしまった
「努力はしてるんだけどね…追加のメンバーも見つからないし……とりあえず今できる最高は出せてると思うから、後は聴いてくれとしか……」
「そうだな」
「なんとかなるよ!」
「お前が言うな」




