8-2
久しぶりに大都市を堂々と歩いた気がする
「それで何を買うんだ?酒の補充?」
「私は中年のおっさんか!」
「んじゃー染髪剤?」
「それはあんたが買いなさい!」
まだ大丈夫だし二色になんかなってないしと頭を抱え出したメルとカジュアルな服装で決めつつもふざけた事しか言わないシグを引き連れ、明梨はカザフスタンの街並みを練り歩く。右も左もカザフ語かロシア語だ、日本人的に難易度の低い中国語朝鮮語はなんとかなったがこれはもうどうしようもない。それをなんとかしようと今回出てきたのだが、どうも予想以上に疲れそうだ
「読めないものを翻訳しようとしたんだけど携帯電話が潰されたままなのよ」
「つまり母校の講師に連絡を取りたいと」
「昭和か!」
「わっかんないよー?見ず知らずの外国人を頼る医者もいるからねー」
「江戸時代か!!」
「じゃあ誰に頼る?」
「エキサイト先生で十分!!!!」
もう休みたくなってきた
「でもロシア語圏で買ったらロシア語なんじゃない?」
「ソフトウェア更新だけで日本語対応になるのもあるから」
つまり向かう所は携帯電話店、日本製は絶望的なので泣く泣くリンゴの軍門に下る
目的地はすぐ見つかった、例のスタイリッシュを極めすぎてただの単調になった外壁はここカザフスタンでも浮いている
「なんであのリンゴってかじられてるの?」
「白雪姫が食ったからだろ」
「あーそっか、それじゃ毒リンゴ?」
アホな事を言っているアホ2人はほっといて入口へと急ぐ。都心中枢であるためか人ごみが酷く、また日本人ほど避け慣れていない、何度か肩をぶつけられつつも前進を続け、入口まであと十数メートル
そこで爆発が起きた
「わっ……ぎゃ!?」
最初が爆発に驚いた声、次はメルに首根っこを鷲掴みされた事に起因するものである。認めたくないが聞き慣れてしまった銃声よりも重く、迫撃砲弾の爆発よりは比較的軽い、バン!という風な音だ。打ち上げ花火の音と言われればそんな感じもする
「要因は?」
「音から判断するに土木用ダイナマイトクラスの火薬が爆発、殺傷力のある破片は飛び散ってなさそうだが、あの様子じゃ3、4人死亡、10人は怪我してる。爆煙が若干赤みがかってんのは……あぁなるほど」
人ごみの中に引きずられて移動、背中にメルが張り付き眼前にはシグ、共にポケットやら上着の裏に手が伸びており拳銃に手をかけているのは間違いない。数秒間それを維持して、まずシグが手を降ろした
「自爆テロだ、見ない方がいい」
「自爆って…あのイスラム圏でよく起きてるあれ…?」
「おう、腹に爆弾巻きつけて自分で起爆するんだ、いっそ清々しいくらい中身が飛び散るぞ」
「なかっ……!」
反射的に口を押さえて後退する。メルの誘導により人ごみから脱し、騒ぎを聞きつけた警官が走ってくるのを確認
「シグ、6時方向、走り去る人影」
「だそうだが、追ってみるか?」
「え、私?」
「俺としちゃどっちでもいいけどさ、君に雇われてる身だし、もしかしたら2発目があるぜ」
「っ…追って!早く!」
その一言でメルが疾走を開始する。あっという間に片側3車線の幹線道路を渡り切り脇道に消えていく
「民間人を対象にした自爆テロってのは特殊な犯罪なんだ、人を爆殺したいなら圧力鍋でも置いときゃいい。こういうのは"自分が死ぬ"という所に意味がある」
「知ってるわよ!政府批判とか体制への抗議!自爆テロが流行しだしたのは2000年からだけどこれは米兵が対象で!そういう意味合いならベトナム戦争時の仏教徒!焼身自殺だけどね!」
「さすがよく調べてるな。こんなもんは学校のいじめと変わらない、どれだけ相手を精神的に追い詰められるかってのがポイントだ」
まぁそんな事の為に他人を巻き込むなって話ではあるが、と続けながら走ってメルを追う。チビッ子のくせに異常な速さだ、脇道に入っても遥か先で右に曲がるのが微かに見えたのみ
「それで姫様、捕まえたらどうする?」
「だからその呼び名やめ!!とにかく説得!駄目なら通報!」
「ははは、会ったばっかの頃なら洗脳するまで説得とか言ってたろうな」
「言うか!!!!」




