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『ブラボー、スタンバイ完了だ、いつでもいけるぞ』
『了解、りょーうかい。よし、全員心の準備は?』
『できてないのはお前だけだ』
『……始めるわよ。フェイズ2開始!総員攻撃に備え!』
そこまで聞いて、通信機からの音声はノイズが流れるばかりとなった
『変えちゃったな、周波数』
「ではこちらも始めるとしよう。梢、人民解放軍はどうだ?」
『すっごいぞぉ、戦車2輌兵員輸送車6輌、軽迫撃砲3門に歩兵1個大隊だ』
「それはもうすごいではなくBAKAの領域だと思う」
呆れた溜息をつきながらミソラは座っていた花壇から腰を離す。その際に着ているコートから若干の違和感、というか重みを感じ腰のあたりをまさぐってみる。何も見つからなかった
「迫撃砲はこちらにも邪魔だ、先に処分する」
「あ、あぁ…そうしよう」
違和感の原因は不明だが歩き出してしまったミミを追って中国軍の野営地に向かう。ここから150メートル、野営地から目標がいる国境ゲートまでおよそ1000メートル
「グライアイ、鉄の雨が降ってくるのを止めるから待機していろ」
『わかっている、3人しかいないんだ、あまり期待するな』
雇った傭兵に待機を命じ、残り50メートルまで細道を通って接近、本当に戦車があるのを見て呆れ果てる
『つーかアレは何?どういう理由で雇ったん?』
「いや、単純に戦力としてだが?」
『……無知は罪だなー…』
草原に整然と並ぶ軍用車両、迫撃砲はその後ろにある。構造が単純なあれは弾丸を当てたくらいでは壊れない、手榴弾でも投げ込んで砲弾を誘爆させるくらいはしないと
考える間もなくミミが匍匐前進を開始する、闇に紛れて近付いて、適度にぽーいと投げ込んで終わり
なのだが
「おうおうおうおう!!!!」
いきなり鳴ったガァン!という金属音に驚いて姉の足を引っ掴み思い切り後退した。まったくの無表情で引きずられるミミというシュールな光景を演出した後ボンという音が聞こえてきて、それからひしゃげた迫撃砲が空中から草原に戻り転がっていく
「梢ェェェェェェェェェェェ!!!!」
『お前それ口癖にするなよ、絶対だぞ』
「どうだっていい!!何が起き…!何が起きてる!!」
残り2つとなった迫撃砲の片方がまた弾け飛ぶ。最後のひとつはそれを守ろうと抱え上げた中国兵ごと吹っ飛ばされ、何の用も成さなくなった筒と共に大量の肉片が撒き散らされる
「狙撃だ」
『え?いや、周りには誰もいないぞ?』
「ゲートからだ、対物弾を使ってる」
『えっ、え?いやいやいや、確かにいるけど、見張り台でバレット構えてんのがいるけど、でも1キロ……』
あそこからここまで1kmあるのである。銃の性能としては問題ない、アレは1.5km先の人間を真っ二つにできる。だがそんなことが誰でもできるならアサルトライフルは普及しなかった
「後からついて行くぞ、先行するのはまずい」
今の狙撃かはたまた別の何かか、敵の位置を確認した人民解放軍は一斉に動き出し国境へ向かって進軍を始める。しかし綺麗に動けたのは数十秒だった、装甲車のハッチから乗り出して怒号を飛ばしていた指揮官の上半身が50BMGの直撃で破裂したのを皮切りにその巨大な部隊は前進するだけの烏合の衆と化していく
『1キロ先の移動目標をワンショットキル?あははありえねーちょっと弟子入りしてくる』
「弟子入りしないでナビをしろナビを!陣形はどうなってる!」
『歓楽街内の雑居ビル屋上に2人、赤い看板のやつだ。それから大通りの居酒屋付近にバリケがある、こっちにも2人』
頭に叩き込んだ地図を思い出して配置を確認、戦闘車両が通れる大通りは十字砲火の範囲内だ、踏み込んだ瞬間に死ぬ。かといって他の道はゲートの狙撃兵が抑えている、1キロスナイパー相手にゴリ押しなんて勘弁願いたい
「使える道は!?」
『大通りの右側、土産屋からの道がなんぼかマシそうだ、なんぼかな』
悩んでいる暇は無い、この大量の中国人達が叩き散らかされている間に防衛線を突破しなければならない。そして厄介なのはあのPMCを叩きつつ勝たせなければならないという点だ、最終目標は葛城明梨で、中国に奪われたらすべておじゃん
「グライアイ!今どうしてる!?」
『別にどうもしていないが。前回の交戦で相手の力量はわかっているからな、隙を待つくらいしかやる事がない』
こっちは全力で走っているというのに
「つまり隙を作ればいいんだな…!」
『ミソラちゃーん、マジで悪いこと言わないからあいつを味方として考えるのやめろ』
「なんださっきから、奴らがどうしたんだ」
『いいかこれは情報屋としての忠告だ。そりゃあいつは受け取った金額分は絶対に働く、だがそれだけなんだ、民間人を守るだとか味方を撃たないだとか、いわゆる常識という名のルールをまったく守らない』
ミミの先導で土産屋を回って比較的安全とされる道に入る。大通りでは機関銃の発砲音が鳴り出し、地獄の始まりをあたり一帯に伝えていた
『アレは"敵の敵"だ、金を払うと指示した目的を達するためだけに動く"効果"だ』
「……よくはわからんが、気を許すなというのは理解した」
中国の兵員輸送車が応戦を始め、重低音の騒音を更なる重低音で上塗りしていく。まったく聞こえないが住民達も悲鳴を上げていて、パニック状態に陥った民間人がそこかしこから飛び出してくる。その度に大声で中国軍側に逃げろと指示していたが、3割程度が誤射を受けているのに気付いてからはただ離れろとだけ言うようにした
「奴ら装甲車対策はどうしてるんだ?場合によってはこっちから減らした方がいいんじゃないか?」
実に8輌、そのうち2輌が戦車である。これを1個小隊相手に出したなんてメディアに暴露したら世界中から笑い者にされるだろう。通常ならばこの程度の防衛線は数十秒で突破しなければならない
『ああー大丈夫大丈夫』
が、通信相手はまったく心配なさげにそう言って
『C4ばらまいてるの見てたよ』
爆発
「っ…!」
建物群ひとつを隔てたこちらにも熱風が飛んできて、あまりの衝撃にミミがよろめいた。爆薬が燃焼する一瞬の間だけ昼のように空が明るくなった際、何人もの中国兵が天高く打ち上がる様を網膜に焼き付ける
「うわぁぁ…見たくないもん見た……」
『兵員輸送車4輌が大破、どうだ少しは安心したか』
「あぁ…今のまだあるのか…?」
『少なくとも2段は』
立ち止まってしまった姉に手を貸して体勢を復帰。あっちは放っておけばいい、十字砲火を抜ける頃には半分以下になっているはず
「よし…雑居ビルの屋上に向かう、そこにいる2人をやるぞ。長居したらこっちもまずそうだ」
ミミが頷く。とにかく2人減らして後は中国軍と戯れていればいい
「撤退するタイミングを見計らって出てきた所をおさ…熱っつぅぅ!!…押さえれば楽だ!」
2度目の大爆発による熱風をモロに食らいつつ十字砲火の根元へ進路を変更する。脇道から足音がするのを認めたため、空から降ってきた中国製95式歩槍を拾い上げてコッキングを2回、壊れていない事を確認した
『おー今のはなかなか芸術的だったな。兵員輸送車の残りが全滅、戦車1輌も直撃を受けたがピンピンしてる』
パパパパンと小気味いい音を立てて95式が発砲を開始、地獄の大通りから逃れてきた中国兵を蜂の巣にした。弾切れと同時にそれを投げ捨て懐からMk23を抜銃、その間にミミが脇道へ消え、野郎の絶叫を聞いてから雑居ビル群へひた走る
が
「ひ…!」
さっきまでいた場所のアスファルトが弾け飛んだ。今の失敗は狙撃手のヘマではない、ただこちらの移動スピードが速すぎただけ。普通の人間なら既に顔が消し飛んでいるし、ミソラとて二度目はない。こちらが慌てて遮蔽物に隠れたのに対しミミは家屋の壁を駆け上がって思い切り注意を引き、狙撃で砕けた瓦の破片と共に反対側へ着地、その間に前進して合流する
「動けなくなった」
『刀で弾いたりとかできんのん?』
「人の身で実証可能な事を理論的に証明できたらやってやる」
目標のいるビルまであと建物ふたつ、こうしている間にも指揮官を失い暴走状態の中国軍は大きく数を減らしながらも前進を続け、妥当な撤退時期まで恐らく1分以内。止まっている暇はない
「屋内を突っ切る、これだけ壊してるんだ問題ないだろ」
言って窓ガラスを叩き割った。躊躇無しにミミが中へ飛び込んでレストランか何かを蹂躙、後を追って内部を全力疾走していく
『M2から人が離れた、急げ急げ』
マシンガンを手放したという事はもうそこに用が無いという事だ、窓に体当たりして飛び出してまた体当たり、中国入りして何度目かのアイヤーが響く
『その壁の向こうだ、押さえろ』
「いよぉぉし!!」




