7-5
久しぶりの暗視ゴーグルは出所不明のジャンク品であった、付けた瞬間に無い方がマシだといってネアが自分のを投げ捨てる
「で、今日はどうします?」
「いつも通りだ」
G36Kにマガジンを装着、コッキング、サプレッサーの増し締め、セイフティ解除。すべて完了して正宗はドアの横にへばりついた、反対側にネアもつくが、再三忠告したにも関わらずG36CにM320は装備されたまま
「デルタチームスタンバイ」
『チャーリーも準備完了ぉー』
『こちらブラボー、待ちぼうけです。アルファ?』
『ちょっと待ってくれ、隊長がチェストリグを引っ掛けてる』
『チャーリーからアルファ、チェストリグをどこに引っ掛けたのか場合によっては呪い倒す必要があるんだけど』
『オタクは全体的に発育がいいらし……痛てぇ!』
『アルファスタンバイ完了、全チーム行動開始』
バツンと、詰所の明かりが落ちた
「行け」
ドアを開いてネアを入れ、すぐ後に付いてフォローアップに移る。自分がやるのはこれだけだ、敵は目の前の人外にすべて片付けさせる
『正面玄関クリア、オフィスに侵入する』
『2階の食堂クリア』
『同じく2階の所長室、誰もいないから階段に向かう』
建物全体でパシュパシュと気の抜けた銃声が鳴り始めた。相手も素人ではない何が起きているかは理解しているはず、だが反撃を許すような人間はうちにはいない。喫煙所にいた2人を蜂の巣にした後人がいるかもわからないトイレのドアに連射を叩き込み、オフィスにいた連中を片端から黙らせる。ここまでを深夜の11時に暗視ゴーグル無しで
「疾さーん、下着のサイズは合ってますかー」
「うるさいあんたの方がでかい。地上階制圧、2階は?」
「オッケーです」
オフィスでラファール及びウィルと合流、それからルカとメルが階段を降りてきて、少し遅れてヒナとロイ
「フェイズ1完了、シオン、搬入して」
『ぶぼっ……30秒も経ってませんけど!?』
「この程度に30秒かけれるか」
『えっ…あっ…そっすね……あーあーコーヒー撒いちまったい』
落としたブレーカーを元に戻して、暗視ゴーグルという名のホビーグッズを取り払う。まずメルが床に散乱したLANケーブルを辿り始め、ロイはオフィスにあるすべてのパソコンを品定めしていく。それを見ている暇は無い、エボX、ではない、明梨を迎えに行かなければ
「駄目だぁ!ペンティDじゃ話にならないよ!」
「おいそれどころじゃないぞ!Meが現役だ!」
「うえええええええええええええ!!?」
駐車してあるのは100メートル先の路肩だ、イタズラされないか心配だったが日本車が目の敵にされているのは太平洋側のみらしい、何ひとつ変化は無かった。そもそも真っ黒の車体はぶつかりでもしない限り存在にすら気付かない、映画の悪役が黒を好む理由がよくわかる
運転席に滑り込みながら道路を疾走してくるトラックを捉え、近くに停めてある装甲バンの真横で停車。中にいたシグと同じく走ってきたルカ、ウィル、ヒナの4人でM2重機関銃を移し替えた。バンはそれと爆薬を設置するべく走り去り、トラックは拠点方向へ
「行くぞ、掴まれ」
「え?掴まれってすぐそこ…じゃああああああああ!!?」
4つある駆動輪すべてをスピンさせて超心地旋回ばりの反転を実施、深夜の歓楽街に騒音と焼けたゴムの悪臭と近所迷惑を撒き散らしながらゲートまでの僅かな距離を全速で疾走。停車直前、ちょっと遊び心を入れてオーバーステアを出してみる
「に゛ゃっ…!!」
なんか鈍い音がして明梨が動かなくなった、丁度いい、すべて終わるまで寝ていてもらおう
『再編成は予定通りよ、ブラボーはトラップを設置後第一防衛戦で待機、メルとおっさんが仕事を終えるまで時間を稼ぐ』
国と国の境目は案外頑強そうな柵が守っていた、実際にはこのラインの向こうがアフガニスタンではなくある程度の空白地帯があるのだが、これを越えればいい事に変わりは無い。観察をやめにして詰所まで戻ると、プライベートネットワークの親機を自身のノートPCに置き換えるメルと警報装置の無効化を進めるおっさん。それからTOWミサイルの扱いに困るロイとネア
「撃ってから着弾までに何秒もかかるってのが気に食わないんですよマジで」
「それには全面的に同意してやるがとにかくこれを屋上に運ぶまではおとなしくしていろ」
「あーシグさん分身させてー」
「やめろ、あんなのが2人もいたらハリウッド映画どころの話じゃ済まん」
三脚付きの巨大筒を運ぶそいつらの隣を抜けトラックのもとへ。中を覗くとシオンがM72ロケットランチャーを並べていた
「はい次これね」
81ミリ迫撃砲の砲身を渡される、迫撃砲は斜め上に向けた砲身へ手入れで砲弾を投下し、底部の撃針やら何やらで発射を行うとても簡素な砲だ。まぁわかりやすく説明しろと言われればやはりただの筒としか表現方法が無い
「他に何があるんだ?」
「後はM1AとかMAC10とか、イワンが用意したにしては西側オンリーっすね」
迫撃砲を担いで弾薬箱もひとつ一緒に受け取った、弾数は不十分だが無駄撃ちしなければいいだけの話だ
「撃った経験はありますか?」
「無い、ただの普通科だったからな。高機動車はスピンターンしただけで運転禁止を食らった」
「見かけによらずやんちゃしてたんすねー」
「辞表を出して喜ばれる程度はな」
砲弾とミサイルを並べたのち紐で束ねたM72をぶら下げてシオンはトラックから降りる、後は小火器ばかりだ、毛ほどの用もない
「そういうお前はどうなんだ、どこで何をやっていた」
「私は現地スパイから入ったんでずっとCIAです、そう…11歳から」
「11……」
「もうひでーですよ、公園で遊んでたらいきなりカメラ渡されて走り回されて、その日のうちに人を撃っちゃったもんだからこうなるしかないじゃないですか。トんでるでしょ」
「……いや、似たような奴を1人知っている」
一緒に階段を登って屋上へ。砲座の横に砲身を置いて歓楽街方向を一瞥、走り回りながらC4をばらまくバンが見えた
「この人ですか?」
1枚の写真
「よく手に入ったな」
「いやー私としちゃ北京からずっと調べ続けてこれだけってのは寝込みたい結果でして、できれば情報を頂ければなーと」
選ぶ話題を間違えたか、少々まずい事になった。勝手に喋ればどうなるだろう、エボXにトイレ用芳香剤を置かれるくらいはあるかもしれない
「本人に聞け」
「そうなんですけど、この写真に写ってるクールビューティーと、今まさにミサイルランチャーに首突っ込んで発射されようとしてるアレが同一人物と思えないというか」
首を回して見てみれば、確かにTOWランチャーで遊ぶオレンジがいた。写真と見比べても一致するのは髪の色のみ、ああなったのはいつからだったか
「……確実に言える事はひとつ」
写真を受け取ってしばし眺める
いつも通りだった不機嫌面、見ていたら何故かしんみりしてきて
「あれは猫かぶりだ」
「知ってます」
なんて事だ




