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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
殺戮の丘
54/106

7-3

誰でもいいから部隊メンバーを1人消す、それが今回の目的だった、フルメンバー9人でガチガチに守られている上あんな化け物がいては葛城明梨になど指一本触れられない。偵察からの情報では現在1人が単独行動しており、何らかの店に入ったというので現場まで急行した次第である


のだが


「いや…これは…道を間違えたんじゃないか…?」


ミソラの前には販売店が建っており、道路から見る限りかなり繁盛しているようだ。人気なのなら確かにわざわざ来る可能性もあるだろうが、これは違う、何かが違うと第六感が叫んでいる


「間違える筈は無い」


携帯電話の地図アプリに表示された座標と指定された座標が合致しているのを改めて確認し、隣に立つミミは電話をしまう。そして入店しようと足を伸ばしたため肩を掴んで引き止めた


「待て!待つんだ姉さん!早まるのはまだ早い!」


「お前は何を言っているんだ」


「いやだってこの店…もわっとしてるぞ!?蒸気的な意味で!」


「何の関係がある」


「と、とにかくちょっと待つんだ、今確認するから」


「…………」


ミミの停止を確認してから携帯電話を全力で取り出しブラインドタッチで電話帳を疾走、一番下にある番号を連打して偵察兵を呼び出す。この間2秒


「梢ェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」


『変な叫び声を上げるな、せっかくの美人が台無しだぞ』


「この程度で私の美貌は霞まん!目標のいる店舗の詳細を頼む!」


『座標送ったじゃん』


「それとは別口だ!」


『別口ぃ?あーそうだな、別段店舗名は掲げてない、屋根は青のトタンで壁は白、平屋建てだ。それからこれは個人的な意見だが……なんかもわっとしてるな、暑苦しさが漂ってるっつーか』


「も…もわっとか…?」


『もわっとだ』


「わかった…青のトタン屋根で白い壁のもわっとした店だな…」


電話を切ってミミに間違いなさそうだと表情で伝え、いつも通り感情の死んだ顔は十数年付き合ってようやく変化に気付けるレベルで目を据わらせ


「間違える筈は無いと言った」


「そりゃ私だって機械が出した数字を疑うなんてアホな真似はしたくなかった、でも、それでもだ。同人誌専門店だぞここは!?」


「ならそのドージンシを買いに来てるんだろう」


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」


などとやっている間にミミがさっさと入店してしまったため追ってミソラも中に入る、予想以上に湿度が高かった。右も左も薄い本だらけの店内を奥まで進んで(その際何かの暖簾をくぐり)隅っこに隠れながら目標を捜す


「いたぞ」


「まじぃ……」


正直いて欲しくなかった。示された先には確かに情報通りの人間がいる、軽い外ハネのある長い金髪は捜さなくても目立っているし、外見を整える事を完全に諦めた他の客とは違い社交性を必要とする生活をしている事は明らか。要するに、秋葉原に原宿ガールがいるのだ


「あれは隊長格じゃないか…まさか┌(┌ ^o^)┐だったとは…」


さも当たり前のように薄い本を物色するあれが年間数百人殺しているなど誰が予想するだろうか。日常の隣に狂気、世の中はこれだから恐ろしい


「目立ってる、隠れろ」


「そりゃこんな店にこんな美人が3人もいりゃ荘然となるだろうさ……」


仕方なく手頃な本を手に取る



だが忘れていた、暖簾を越えたらそこは大人の世界であるという事を



「ぶっっっ!!」


開きかけたページを勢いよく閉じ、改めてそろーっと中身を確認するとそれはそれは酷い世界が広がっていた。DELL製PCと、富士通製で、18禁


「な…なんという事だ…!これは天才…!いやバカだ…!真性のバカだ…!!」


このままでは腐海に沈んでしまう気がして早急に本を元に戻す、目標の金髪は暖簾の向こう側、何故かはわからないがほっとした


「出るぞ」


目標は数冊の(隠し持てる量の)薄い本を購入して店を出て行く。ほぼ間違いなくこのまま仲間のもとへ帰ってしまうだろう、やれるチャンスはここから宿屋まで


「ふざけた買い物はしているが隙はほぼ無いぞ、どうする?」


「関係無い、反応される前に殺る」


ミミのポケットでフォールディングナイフの展開する音がする。客の視線を盛大に引きながら店内を突っ切って、レジ打ちに手を振りつつ暑苦しい薄本屋から脱出




オレンジ色の長髪女性が満面の笑みで待ち構えていた




「…………姉さん、ずらかろう」


「ああ」


レジ打ちに振っていた手をそのままそいつに向け脇を通って離れていく、が、2人同時に首根っこを掴まれた


「まぁまぁまぁまぁまぁ」


「嫌だ!離せぇぇぇ!!」


「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ」


必死になって暴れるもまったくふりほどけない上に首が締まってくる。ミミはといえば掴まれた瞬間にハムスターの如く動かなくなってしまった、さすが姉さん無駄な事は絶対にしない


「どうでしょう、今日は休戦という事でお茶会でも」


「お前と烏龍茶なんぞを飲んでいる暇は無い!」


「大丈夫、苦丁茶です」


「もっと嫌だァァァァァァ!!」


やがてギチリと音がして息ができなくなったのでミミと同じポーズで引きずられていく、引きずっているネアさんは本当に茶店へ入っていき椅子に座らされてから解放


「げふっ…ごふ……」


「店員さーん、くーてーちゃみっつー」


「ウーロンティープリーズ!!」



苦丁茶3つと烏龍茶1つが出てきた



「さて、ようやくゆっくりお話しできる場が設けられた訳ですが」


「前座があったように話し出すな、こっちはポルナレフ状態だ」


ニヤニヤと見つめてくるネアに不機嫌を全力で表現し烏龍茶を一気飲みする。さてどうしよう、2人がかりはまだ試していないが、ミミが沈黙を貫いているのは可能性が低いと判断したためだろうか。何にせよ下手な真似はまずい


「とにかく出身と年齢の話は無しにしましょう、私も聞かれたくありません。お2人さん、普段はどんな仕事を?」


「……この前はどこぞの大佐をひっ捕らえて来たな」


「ああ、リビアの。つまり普通にやっても採算の合わない面倒事とかミッションインポッシブル的なものを回されていると」


「言っておくがフリーランスだぞ、軍にもテロ組織にも所属してない」


「おや、それは意外」


純粋に驚いた顔をしながら苦いと有名の中国茶に口をつけて、どうやら本当に苦かったらしい、軽く吹き出した


「……見たところ監視が付いている風にも見えませんし、無所属でぶらぶらほっつき歩いてるというのなら……商品として認められなかった?」


「…………」


「ふふん、私もそうです。失敗作と判断され実験施設に入れられた、あなた方を作るためのデータ収集をやっていたわけです。こんなふざけた連中がどうして生きるのを許されるんだって本気で思いましたね、だから全部ぶち壊してやった」


ギリと、ネアは左手を握り締める。別段怒っているという風は無い、あるのはむしろ喜びの類。そんな昔の事はどうでもいいと呟いて手を戻し


「設備も、人員も、技術もノウハウもすべて消し去ったはずでした、ですがあなた方は生きてここにいる」


「…確かに一度ご破算になったという話は聞いた、だから一からやり直したと」


「ふはっ、懲りない連中」


店員を呼び止めて茶菓子を要求、何か餅が出てきたので口内の苦みを取り去るべく即投入。ひとつつまんでみる、甘い以外に何も感想が湧かなかった


「だがお前のようなのがいるとは聞いていない」


「私どころか2号3号の事すら聞いてないでしょうよ5号さんは」


確かにそうだ、既にこの世に亡い以外は何も知らない。ただひとつ確実なのは、両者とも生命維持メンテナンスがなければ3日と持たないような"完成度"だったという点。その度合いを決めるのは技術者どもの組んだDNA配列であり、生まれてからどうこうできるものではない


それこそ反逆でもしない限りその地位は変わらない


「……それじゃあ、何故お前は戦場に居続ける」


「そうですねぇ、それに関しては何年もかけて色々考えたんですが、私の答えは"戦いたいから"」



口元を引き上げてそいつは言う


「それと、今の勤め先を辞めない理由は違いますけどね。あなたもそうでしょう?失敗作とはいえその能力だ、スポーツだろうと事務仕事だろうと何だってできたはずだ、何だって傭兵なんかを?」


「……だが、最適化されているのは戦闘…」


「そう」


さっき一気飲みしたものはどこへ行ったのか、喉が渇きを訴える。たまらずもう一つのグラスへ手を伸ばし


「結局、戦い続けるしかないのだ、我々は」




吹き出した




「苦いわボケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」


不敵な笑みのままお茶も滴るいい女と成り果てたネアさんの向こうで店員がビクッと反応、上質な苦丁茶は飲み下した後に甘みが云々とつたない英語で説明し始めてしまった。同時に、ピクリとすらしなかったミミが痙攣を始める


「………………すまん、続けてくれ」


「ふっ…ふふふふ……」



店員を静止して澄ました顔に整え体勢も戻す。だがネアの話は続かなかった、続けられる訳がなかった



「なんですかこの程度がほらさっさと飲み干してくださいよほらほらほらほら!!」


「ちょっおま…!む゛ーーーーーーッ!!」


ほどなくして始まった格闘戦に慌てて店員が止めに入るも瞬時に弾き出され床に転がった。騒ぎを聞きつけて野次馬が集まり出し、女2人のキャットファイトと知るや否や大騒ぎに発展


「お前ら、過度に騒ぐと警察が」


「おーおーやたらとでかい乳してやがりますねぇ!この淫乱娘!」


「やかましいわ!アピール系ルアーみたいな髪してる分際で!!」


「だぁれがスピナーベイトかーーーッ!!」


「警察が……ぶふっ…!」


もみ合う両者、泣き叫ぶ店員、最後の希望ミミは腹を抱えてうずくまり



常識人に通報されつつもカオスな争いは続く

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