7-1
「お前の運転は嫌いだ!動きに無駄が無さすぎる!」
「最高の褒め言葉だな!」
先行するエンツォの尻目掛けて体当たりを何度も敢行するが圧倒的馬力差により接触する前に逃げられてしまう。世界に400台しか存在しないイタリアフェラーリ社製のプレミアスーパーカーをホンダNSXなどというちんちくりんが追い詰めている時点で既に勝ったも同然の満足感はあるのだが、ナビシートに座るそいつはエンツォのテールライトめがけてカスタムグロックを撃ちまくっている、この光景をブログにしたら大炎上するだろうか
「あれの値段を知っているか!?8000万円だぞ!」
「それは驚きだ!もっと壊してやろう!」
小さい峠を登り切って下りに移行、じりじり離れつつあった真紅の車がまた近付いてきた。運転技術では勝っていると完全に確信
「落としに行くぞ!頭を引っ込めろ!」
「え!?」
親の仇の如くブレーキペダルを踏みつけて4輪ドリフトに移行、横滑りしながら反対側のブロック塀に突撃していく
バンパーのこすれる音と一緒にぶちぶちとオレンジの髪が取り残されていった
「警告が遅いんだアマガエル2号ーーッ!!!!」
「そのコールサインは忘れろと何度も言っているだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ブロック塀に衝突した反動で回頭方向を逆転させスピンと見紛う勢いで180度反転、横滑りのまま道路から飛び出してNSXが地面とお別れを果たす。コンマ数秒の飛行の後ヘアピンの先にあった道路へ戻って着地した、丁度良くそこにいた8000万の車を盛大にガードレールへ押し付けて、だが突き抜ける前にエンツォは減速した、体勢を崩し代わりにガードレールをひしゃげさせる1000万(中古、ローン未完)
だが前には出た
「やれ!!」
オーバーステアに陥ったNSXはエンツォに横っ腹を向けて、カスタムグロックが待ってましたとばかりにフルオート射撃を開始した。防弾などされていないガラスが弾け飛び中にいたドライバーを赤く染め上げ
制御を失ったエンツォは慣性に従ってNSXの白い車体を
「おはようございます」
こつりと額をつつかれた
「あなたが寝坊とは珍しい、今日の天気予報は信用しない方がよさそうだ」
「……どうせ黄砂か酸性雨だろうが」
粗末な布団を押しのけて正宗はベッドから尻を離す、それから廊下に続くドアを確認。本気でピッキングされたら30秒ももたないのは昨日の時点でわかっていたが、それを無音でやってくるのはこいつくらいのものだろう
「さて今日は進展がありますよ、ですがその前に朝食です。私らが日本から来たと知った宿主さんがジャパニーズスー↑シー↓を作ってくれました」
人差し指で発音を表しながらネアは大皿に大量に乗った緑色の物体を突きつけてきた。土台になっているのは白米、それはわかる、だがその上、乗っているのは詳細不明の植物
「……これは何の罰ゲームだ」
「いやだなぁ罰ゲームだなんて純粋なご好意ですよぅ」
「その好意の感想は?」
「……ルカさん曰く、腹を下すレベルではないと…」
つまりルカしか口にしていないらしい、窓の外を眺め出したネアの横を通り抜けて上着を掴み、井戸へ向かって廊下を進む
「それで進展というのは?」
「とにかく暇だったのかロイさんが唐突にヒナさんを町歩きに誘い同じく暇だったヒナさんがOKを出しました、現在2人でそこらをぶらついてると思われます」
「確かに進展しているがそれはわざわざ報告するべき事か?」
廊下を直進し引き戸を開いて井戸に到着、紫色の幼女が待ち受けていた。体はまだ治っていないようで動きはぎこちない
「……ようやく目を覚ましたか」
「あ、うん……えっと…あのね…」
「実害を被ったのは俺じゃない、謝る必要は無いだろう」
言い淀むメルの先手を打ってから井戸の底へ桶を放った。大気汚染水質汚染といってもこんな辺境地までは到達していない、汲み上げた地下水は混じり気の無い透明だ、このまま飲むのは勘弁願いたいが
「派手にやらかしましたねーほれほれ」
「あううー……」
ネアが頬を引っ張っている間にその水を使って顔を洗う、できればエボXも綺麗にしたいのだが残念な事に洗剤が無い
「ヒナの腕はどうだ?」
「あ、うん。パイプが切れて冷却液が漏れてた、繋ぎ直してはあるけど新しい冷媒を入れないと動かせないよ」
「そうか」
こんな所では車用の安物しか手に入らないだろう、以前試した覚えがあるが散々な結果だった気がする。水を片付け上着を着て、そのあたりで耳が高回転エンジンの唸り声を捉えた
「CIAが来た」
「大体予想は付きますが一応聞いておきましょう、どうしてわかるんです?」
「トヨタの2ZZーGEエンジンをボアアップ…排気量アップした高回転型の音だ、ギア変更も異様に早い。セリカをラリー仕様にするなら1世代前のT200型にすればいいものをわざわざT230型を選ぶ輩などそうはいない」
「うん、何度聞いてもよくわからない」
わかるように話したのだが
「どっせぇーい!」
両手両足を縛られた上目隠し口封じ状態でセリカの荷台に詰まっていたそいつをシオンが宿屋のロビーに投げ入れた。足の縄をほどき顔のタオルとガムテープを取り払う、40前後の中年男性はクソと悪態をつき手が不自由のままあぐらをかいた
『CIAごときに捕まるなんてロシアの恥晒しですよフェドロフ捜査官』
「情報を流したのはお前だろうが……」
インターネット電話ソフトを起動するメルのパソコン越しにアレクセイが言う。この中年はロシアSVRから派遣されてきた現地調査員、いわゆるスパイで、国境越えを手伝ってもらおうとしたが連絡が取れないためシオンに捜して貰った次第である。そのシオンはセリカへもう一つの荷物を取りに行って、ダンボールを抱えながらメルを連れ奥に消えていく
「それじゃまずこんなド田舎で72時間も待たされた理由から聞きましょうか」
「スパイ狩りがあったんだ、中国共産党に追われてる」
ラファールにそう答え、視線をモニターに映るアレクセイへ。報告は聞いていたらしい、画面の向こうですっとぼけた
「こんな所で大丈夫なのか?通報されたら恨むぞ」
「大丈夫よ、ここのオーナー通報の仕方知らないから」
というか現代社会というものと無縁な人間だ、良くも悪くもひたすらに純粋
「奴らはロシアを味方に引き入れるつもりらしい、近いうちに国内でテロを起こすだろうよ、日本かアメリカの仕業って偽装してな」
『心配いりません、対処は既に。今は国境を越える方法だけを考えてください』
「方法は簡単だぞ、ゲートを突破すりゃいい。問題はあんたらが来る少し前から人民解放軍がうろつき出してる事だな」
『ふむ、こちらの存在には気付いているようですね』
おい地図、と言ってきたのでエボXから地図帳を持ってきて、ようやくフェドロフとやらの拘束を解く。机に広げた地図帳を眺めて、指で一箇所を指差した
「まず国境警備隊の詰所を襲撃して警備システムをハッキングする、監視カメラとゲートロックをダウンできれば車で国境越えが可能になるぞ。ただしシステムにアクセスした瞬間に位置と目的がバレちまう」
バレてから敵が来るまでおよそ5分、ゲートの防衛を兼ねて最低限こいつらは撃退しなければならないという。敵を後退させられれば後はのんびり国境を越えればいい
「大雑把……」
「警備が強化されてんだ、こっそり越えるのは無理だ」
どれにしろ戦闘は避けられない。作戦は簡単なのだが正規軍相手の定点防衛は危険すぎる
「…整理するわよ。フェイズ1としてゲートを制圧、フェイズ2でハッキング開始と防衛開始、撃退に成功してからのフェイズ3でカザフスタンまで突っ走る」
「ああ」
「…大雑把……」
『まぁまぁ、既に3日も浪費してます、作戦を考えてる余裕は無い』
「だからそれもコイツが…!!」
『話を最後まで聞いてください、勝つ算段はちゃんとありますよ。この3日のうちに武器商人を捕まえておきました、中型トラック1台分の重火器がそちらに向かっています』
理論派だと思っていたアレクセイさんも大雑把な事を言い出したためラファールが崩れ落ちる。生き残る事に特化してしまっているため、派手なドンパチは苦手なのだ
『我がロシア軍に勝っているんです、この程度余裕でしょう』
「いや列車の時はほとんど奇跡っていうか…」
とはいえ他に案も無い、もたついていると包囲網を作られてしまう。既にラファール以外は装備の点検やら防衛線の作り方を考え始めた、全員やる気だというなら仕方ない、大きく溜息を吐きながらも承諾
『決行は今夜、可能な限りの支援は行います。ご武運を』




