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15分かけてメルの収容、および人体の限界を超えた運動による全身捻挫への処置を行い、その5分後に哨戒を終えたエボXと合流、なおヒナの右腕は冷却が終了しても再起動しなかったが、パソコンを繋いで診断プログラムを動かせる人間は現在気絶した上に縛られているため骨折患者スタイルで首から吊るに留まった。後片付けを終え荒野を移動する事30分、空はオレンジに染まり切り、大気汚染さえなければ世界有数の絶景スポットになっていただろう光景、とはいえ今の気分としては美しさよりも寂しさが目立つ。村まで戻ってきて、状況を完全に確認するまでにまた15分
簡潔に言うならば村はなくなっていた。あるのは大量の焼死体と、家の燃えかす
「入れ違いか」
今頃向こうでも同じような光景を同じように茫然としながら眺めている奴らがいるはずだ、せめてそうであって欲しい。唯一の生き残りは中心部で子供の死体を前に立ち尽くしていて、付き添った明梨共々、どう声をかければいいかわからない。とりあえずそっとしとこう、というのが多数決の結果
「これだけやっても北京じゃ新聞の片隅に乗るかどうかなんだよな。所詮は13億分のいくつかって事だ」
「分母が大きいってだけじゃ済まないと思うけど」
「インドはどうだったんだよ?」
「腹痛でそれどころじゃなかったものでね」
「ああ、例のガンジス川か」
ルカと無駄話しながらタバコの煙を夕暮れの空へ吹き上げる、すぐ消えてしまった
「善が多数決の結果なら正義は?」
「どうしたアメリカ産バカ女、熱でも出たか?」
「うるさい、キレる前のメルが呟いてたの」
「ふぅん」
右腕骨折状態のヒナが頭のよさそうな事を言い出した、耳を疑うルカを見てこいつもだいぶ馴染んできたと確信
「その流れなら"個人の意思"って所じゃないか?それぞれによって考えは異なるからな。個人の正義、団体の正義、国家の正義、大きくなるにつれ抽象的になっていくが」
「それで善との違いは?」
「そうだな……ルカくん?」
「善は多数決で答えが出るけど正義の答えは無数にある、じゃないかな、その解釈なら」
「わけわかんね」
「自分が一番正しい…いやそれじゃ根も葉もないな、自分を信じろって事だと思うよ」
と
ずっと沈黙していた子供がぽそりと、一言だけ呟いた。聞いた明梨は2、3歩後ずさってうろたえ、どうしようもなくなる前にルカが引っ込ませる。子供は次のインフラ整備された町で中国支部に引き渡しそこからNPO法人に預ける予定
「今なんて?」
「どうして助けたんだ、と」
「……きっちぃなー…」
明梨をエボXに乗せて、それから子供をバンに向かわせる。反省タイム終了、全員が撤収準備にかかり出した。ウィルもタバコを始末してヒナを従え車へ
「ここはどうしようもない所ね」
「ああまぁ、中国ってのは本当に実力主義っつーか、力と力のぶつかり合いなんだよな。だがどんな国だって似たような時期はあったんだ、きっと変わるさ、この国も」
「どうやって、どういう風に」
「そりゃ国民が決める事だ」
バンに乗り込んで一番後ろに座り、大きく息を吐き出す。シグと正宗の話を聞く限り、今夜は野宿
それをぼーっと聞きながら天井を見つめ、ほとんど無意識で
「本当、どうすればいいんだろうなぁ」




