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トップレールにオープンダットサイト、レフトにフラッシュライト。アンダーにはマグプルのアングルドフォアグリップ、バーティカルフォアグリップを傾けたような三角形のものだ、あったので装備してみたがなかなか使いやすい
ストックをしっかり肩に当て、ダットサイトの赤い点を的に合わせ、セミオートでトリガーを2回。軽い音と共に弾丸が飛び出し、的の中心付近を貫いた
「G36、ドイツのヘッケラーコッホが開発したアサルトライフルです。5.56mmNATO弾を使用するガス圧利用ロータリングボルト式、ボディにはプラスチック素材を多用したため3kg程度に抑えられています。これはシリーズ最小モデルのC型で、銃身長228mm。普通なら動作不良を起こす短さですが、アメリカSWATに採用されるほどの性能及び信頼性を持ちます、給弾不良を死語にしたなんてキャッチフレーズがありますしね。母国のドイツ軍以外にも各国へ輸出されていて、基本形のG36にカービンタイプのK、コンパクト化したC、輸出用のV及びKV、さらには分隊支援型MG36民間マーケット向けSL-8スナイパーモデルSL-9SD……」
べらべらと喋り続けるネアをスルーしてレバーをフルオートの位置へ、3つある的を順に撃ち抜いていく。少ない反動でタタタンと軽快に発砲してくれ、ほとんどブレないまま全弾が的へ吸い込まれた
リロード。弾倉が少々かさばる、連結できるように付けられている突起が邪魔だ、後で削り落とそう
「どう?」
「AKよりは撃ちやすいね」
「そりゃあれよりかはね…」
隣のラファールがM4アサルトライフルの整備を終わらせてカチンとフレームをはめた。M4は米軍正式採用のライフルだが、ラファールが持っているのはマグプル社が独自にカスタムしたクローンモデル。ハンドガードやグリップが茶色いフラットダークアースカラーで、上に付いているのはホログラフィックサイトとブースターを直列接続したハイブリットサイト
残る1人、正宗さんという人はまだ帰っていないらしい。なので先に武器を選出する作業をしていた訳だが、いつの間にか全員集まって射撃大会が開催されていた
今のところトップはヒナとネア、的の中心を先に外したら負けというチキンレースが展開されている、使っているものがスナイパーライフルとアサルトライフルという点で実質的トップは見えているが
しかし、ラファールが言うにはロイが断トツだという、少なくとも命中率は、という条件付きだったが。その当人は「何故僕自らが貴様らにお手本なんぞ見せなくてはならんのだ」とパソコンをタイピングすることに集中している。武器庫でやる必要はないと思ったが、1人は寂しいらしい
「最近の戦争って、狙って撃つよりも素早く撃つ方が重要視される傾向なんだけどね」
ラファールが発砲、右から左へなぞるように3発だけ。的の得点は高くないが、所要時間は1秒足らず
「こんな風に、音ゲーみたく重なった時に撃てばいい」
「そんな簡単に言うけども」
同じように3つの的をなぞる、2つ外れた。スピードを落として何度か試し、全部当てるには2秒かかる事を確認、これじゃ隠れた方が早い
「フルオートでばーっとやっちまえばいいじゃねーか」
「支援兵は黙ってなさい」
へいへいと返しながらウィルが奥へと歩いていく、担いでいるのはミニミ軽機関銃、分隊支援火器だ。テーブルに突っ伏すヒナの隣までそれを持って行き、いきなりフルオートで撃ちだした、室内の騒音が跳ね上がる
「あー、隊長!隊長ー!」
「ん…?」
「ラファール!問題発生!」
後方、ずっとパソコンをいじっていたロイが声を張り上げていた。全員に射撃を中止させ、静かにしてから歩み寄る
「今日警備してた劇場の監視カメラ映像を整理してたんですが…」
モニターを回転、全員が見える位置に。映っていたのは荒い画質の動画だ、白黒だが、日中歩いた劇場の廊下だというのは確認できる
「これがつい5分前の映像」
処理落ちしたようなコマ送り映像、それが廊下を歩く女性を捉えていた。服装はシンプルなシャツとスカートに、まるで似合わぬコートを羽織っている。野暮用で急いで出てきた、という雰囲気が漂っていた
名前はわかる、葛城明梨だ、その日のうちに忘れるほど鳥頭ではない
「忘れ物?」
「恐らくはね。まぁそれはいいんです、重要なのはこっち、1分前の正面ロビー」
場所が切り替わって開けた空間、劇場正面である。画面の真下あたりに玄関口があって、階段が2つ左右対象に設置されている
だが明らかに異常があった、床にガラスが飛び散っていて、妙な格好の男が複数走り回っている。よく判断できないが、かなり荒っぽい事をしているのは間違いない
「武装してるな、たぶんAKだ」
ウィルが映像を見てそう判断、曲がりに曲がったバナナ型弾倉は確かにAKシリーズの特徴だ。だが今時AKなど誰でも所持できる、これだけでどこの誰かは判断できない
「まぁ分析は後回しにして、ひとつだけ確認しますよ?」
「ええ」
「葛城明梨護衛の依頼内容、場所が『劇場』、期間『本日中』って書いてありませんでした?」
「………………」
そこにいる全員が一斉に時計を見る
午後8時23分
それを確認したのち、ラファールが短く溜息をつく。それから回転して、体の正面が全員に見えるように
号令
「戦闘準備!4秒で支度して!」