6-1
「戦争を無くすにはどうすればいいかって大学の講義中ずっと考えてたんだけど、野郎1人が思い付くくらいならとっくに戦争なんてなくなってると気づいたのが卒業間際だ」
お前は大学生活中何やってたんだよ
「無粋な横槍を入れるな、いい話してる最中だ」
そうかい、じゃあツッコミは保留にしとくよ
「無い脳みそ搾って考えた例え話はこうだ、まず1人の子供が家の鍵をなくしたとする」
おう
「そこで俺は隣の家の子供から鍵を盗んできてそいつを隣の家に住まわせた」
おう?
「そしたら隣の家の子供が困っちまうから更に隣の鍵を盗む、堂々巡りだろ?」
お…おう
「これを限界までわかりやすくしたのが戦争さ。今から鎮圧するゲリラどもの家族は俺達を怨むだろう、でも俺達が殺されたらゲリラどもが怨まれる」
…………
「どうした黙り込んで」
ツッコむのを我慢してるんだよ
「……とにかく、誰か1人が幸福になったらどこかで誰かが不幸になるんだ。うんうん唸ってるだけじゃどうしようもないと思ってこんな所まで来てみたが、来たら来たで虚しくなっちまってなぁ」
じゃどうすんだ、これ終わったらやめんのか?
「それは駄目だろ、自分の意思でここまで来たんだ、やっぱり嫌だは通らない。一生かけて探すんだよ、ここで、答えを」
誰も不幸にならない方法か?
「戦いをする中で人を救う方法」
なんか徹底的に矛盾したお題だな
「戦争をなくすのは諦めた、だから戦争の中でできる事を探す」
……まぁいいけどよ、初っ端から無茶して死ぬなよ、聞いてたら先長そうだ
「わかってる」
よっしゃ
時間だ、行くぞ
人や車の足で踏み固めただけの舗装されていない道を四輪駆動の黒い車体が駆け抜けていく。カーブに差し掛かると同時にブレーキを当て横滑りに移行、その都度後部座席のヒナが悲鳴を上げる。ハンドル操作はほとんど行わずアクセルを使って進路を変え、車体の向きと一致させてからギアを一段上へ、弾かれたようにまた加速を始めた。悲鳴と入れ替わりでメルの歓声が上がるも、すぐ次のカーブに突入して悲鳴にかき消される
「で、どうなのよ正宗くん的にこの車は」
「"完璧"以外に良い表現方法が見当たらない。足回りもきっちり決まっている」
「そうか、そりゃ良かった」
「セッティング時にテスト走行ができなかったからこまめに修正するつもりでいたのだが、これならばしばらくは必要なさそうだ。車重があるから消耗品の減りが早いのはどうしようもないとして、これより先は趣味の問題になるが、強いて言えばアンダーステアの傾向が……」
「なんだ今日はやたらと喋るな、テンション上がってるのか?」
「これだけ気持ちよく走る車に乗っていればテンションくらいは上がる」
話を続けながらランサーエボリューションXは丘の頂上に到達、サバンナみたいな荒地が視界いっぱいに広がった。下りに移るとすぐ連続ヘアピンが始まって、叫び疲れたヒナが完全に黙り込む
「なんか村っぽいのがあるねー」
メルが後部座席から身を乗り出して前方を指差す、腰に半泣きのヒナが巻きついているがそれは無視している様子。丘を降り切った先には確かに家屋らしきものがならんでいるが、ぱっと見の文明レベルは北朝鮮の農村よりややましな程度、少なくとも電気は通っていそうにない
「ガソリン売ってないならスルーでいいだろ」
「食糧は?」
「中国支部からレーションを大量に頂いてる」
ひどく嫌そうな顔をしたが限られた積載スペースを鍋やコンロで使う訳にはいかない、電気水道の通っている場所まで我慢してもらいたい
あっという間に丘のふもとまで到達して、ここからしばらく直線が続いている。高速走行に移ろうとエンジンを大きく唸らせ、だがその直後に通信機が声を上げた
『こちら2号車ー、そっちの姿が見えなくなってからけっこう経つんですけど、後ろ見てますー?』
「すまん、まったく見てなかった」
バンを運転しているネアにウィルは答え後ろを見る、何もついてきていない
「サービスタイム終了だな。正宗、向こうが追いつくまで徐行だ」
「了解」
エンジン沈黙、ゆっくりブレーキをかけて法定速度まで速度を落とした。ヒナが息を吹き返す
「何…向こうネア…?」
「ああ、免許持ってないはずなんだがシグより遥かにうまいな」
「もうなんでもいいからこっちには二度と乗らない……」
日本製オフロードマシン(サーキット仕様)はゴトゴト揺れてるだけの乗り物に成り下がり、ようやく景色を見る余裕が生まれたらしい、ヒナが座席の間から前を覗きだした。すぐに村っぽい何かを発見し、左目を使用して望遠観察にかかる
「あそこ、襲われてるっぽいんだけど」
「あー?」
接近するのを待って見てみれば、確かにマシンガンを乗せたピックアップトラックが数台、周囲にもライフル持った男が何人か確認できた。正宗に最徐行を指示する
「他に何か見えるか?」
「家が荒らされてる、どう見ても盗賊ね」
「はぁ……時代遅れにも限度ってもんがあんぞ」
まだこちらに気付いてはいない、今のうちに逃げるなら逃げる、やるならやるできっちり決めなければ
「どうする?」
「ちょっと待て指示を仰ぐ」
通信機を操作して2号車に繋ぐ。同時に銃を撃つジェスチャー、後部座席でM93RとMP7がコッキングされた
「こちら1号車ウィル、問題が起きた、隊長に変わってくれ」
『疾さん?あー……寝てます』
「うっへ……昼寝すんなよこんな時間に…」
悪態をついて通信機を切る、連中との距離はもう100メートルもない
「助けないの?」
「ちんちくりんどもに使う弾は無いんだがなぁ……」
言っている間に気付かれた、男が1人AKを掲げてこちらの進路を妨害にかかる
「仕方ない、緊急事態につき俺が指揮をとる」
「……では改めてどうする?」
返答は簡潔、人差し指で前方を指示するだけ
「ゴー」
それを見た正宗は一拍間を置いて、緩めていたアクセルを一気に床まで踏み倒した。エボXが咆哮に似た排気音を上げる
「アィッ!!」
アイヤーとでも言おうとしたのか、突撃を食らった進路妨害男が天高く舞い上がった。スリップ気味に急減速し止まる前にもう1人を踏み潰して、リーダー格と思われる偉そうな奴の隣で完全停止する、パワーウインドウを操作
「シェン…ガッ!」
何言ってんだかわかんないのでさっさとPx4を発砲、額に穴を開ける。バタバタとドアが開いてヒナとメルが飛び出し、周囲の連中も一斉に倒れ伏した
「2号車、こちらは犯罪組織らしい奴らと交戦中だ、到着したらフォローを頼む」
『了解、すぐ行きますよ』
動き出そうとしたピックアップトラックの運転席に2発撃ち込んでからウィルは車から出る。といっても大半は既にチビッコ2人が片付けてしまっているため警戒もそこそこに後方を確認、バンが土煙を上げながら走ってくる
「地元のヤクザかなんかかな?」
「ヤクザはカタギに手出さんぞ、これはただのろくでなしだ。ほれさっさとクリアしてこい」




