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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
Nemesis Adrasteia
43/106

5-7

「一度も…16の時全財産はたいてローン組んで…一度もぶつけた事なかったのに…!」


「う、うん、なんかすまない、正直私は関知していないのだが…」


「もうやだぁ…!帰って寝たいぃ…!」


「ああ、泣くな、泣かないでくれ」


まったく酷い状況である。殲滅すべき目標ができた場合最小限の護衛を残して出払ってしまうという相手の性質を利用しスマートにさらってしまおうと思ったのだが、まさかこんな伏兵がいるとは予想しなかった。気に留めるなと理性は言っているのだが、本能がそれを押さえつけている


「とにかく…気は済まないかもしれないが修理費は払おう、いくらだ?」


「うぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」


「…お金の問題じゃなさそうだな……」


払う意味は無し、小切手の束をコートの中に戻す。さてどうしたものかと天を仰ぎ



「M、I、S、O、R、A。なるほど、ミソラさんですか」



夕日みたいなオレンジが映った


「……作戦行動中に私物を出すべきではないか、ひとつ覚えた」


小切手を見れば、確かに銀行名と共に自分の名前が書いてある、所在地と所属も書いてある。これは完全にアウト


「ご心配なく、誰にも漏らしませんので」


「そうか、ひとまずは信じるとしよう。それで…」


うずくまる銀髪女性を車に突っ込んで片付けたのを見届け、膝を起こして立ち上がる。綺麗なオレンジの髪をしたソレは不敵な笑みを浮かべながら逆手に持っていた剣を正位置に


「お前は何だ?」


「何に見えます?」


まずMk23のハンマーが引かれているのを指の感触で確認した。オレンジは剣を持ったまま、だが戦う素振りは見せず近づいてきて、こちらの顔を下から覗き込んでくる


「あなたの目に私はどう映っていますか?ただの女の子?タンパク質の塊?」


「少なくとも、ただの人間ではない」


「ふふん、不正解」


右手のMk23に左手を添えていつでも撃てる体勢へ、それでもオレンジは気に留めず覗き込みをやめたのみ


「ただの人間ですよ、私も、もちろんあなたも」


「…驚いたな、ただの人間呼ばわりされたのは生まれて初めてだ」


「まぁ確かに、道具扱いされる事もあったでしょうが……ああいや」


キチリと剣が鳴って


「それは主に、お姉さんの方?」


アスファルトを蹴り飛ばして内側のレンジ外に飛び込んだ。間髪入れずに剣が動き出したが左手で手首を押さえつけ、残った右手でMk23をオレンジ色の頭に照準、が、いきなり現れたナイフに銃口を逸らされた


「わかりやすい反応で結構」


オレンジの口元が僅かに引き上がる。どうやらカマをかけられたらしいが、今重要なのはそこではない。完全に防がれた、人が間に合う速度ではなかったはずだ


「ッ!!」


手数が足りない、後ろに飛んで距離を取り、コートの中からMk23ハンドガンをもう1丁取り出す。が、そいつが最初にやった仕事は防御だった。いつの間に詰められたのか真下から突き上げてきた剣にスライドを当てて軌道を逸らし、足狙いのナイフは更に後退する事で回避。そうしたら今度は上に向けられていた剣がこちらに進路を修正し、右上から降ってきたそれを正面から受け止めた


「私も姉さんも人間扱いされた事は無い…そういうモノとしてずっと生きてきた……なのにこの醜態は何だ!?気がおかしくなりそうだ!」


右目に突き付けられたナイフと、相手の額に押し付けたMk23を交互に見て、圧倒的に劣勢なのはこちらだとすぐ気付いた。左手の方は発砲できない、セイフティに指をかける時間すら与えて貰えなかったのだ


「化物でも何でもないんですよ。化物を作るという妄想の中で生まれた、ただの人間」



ナイフが眼前からいなくなって、右手への圧力も同時になくなった


「ま、今回はここまでという事で。帰ったらその誤解は解いておいてください」


オレンジは戦うのをやめて刃物をすべて鞘に収めてしまった、手をぶらぶら振って帰れとジェスチャー


「……何故殺さない?」


「殺さなきゃならない理由がありますか?」


「…………」


現状、こいつを突破して目標を連れ去る事は不可能。打開策も思い付かないし、気付けば近くでやっていた銃撃戦は静かになっていた。こうなるとむしろ、ここに留まっている理由がない


「お前、名前は?」


「ネアと、今はそう名乗ってます」


「そうか、覚えておくよ」


身を翻す


ネア、確か数日前に送られてきた報告書にそんな名前があった気がする、帰って読み直さなければ



「まぁ…大方予想はついたが……」














「ふむ…まぁー妥当な所ですかね」


あの4から間を置かずに作った5だとすれば、特に人並みの会話能力があるというのは大きい。だが


「数を重ねるごとに人間っぽくなってくんですねぇ」


「考察はいいから、もっとわかりやすく説明してよ」


「わっとと……」


当初の目的を忘れていた、明梨を守っていたのだ


「あんたの話は哲学的すぎてわけわかんないのよ」


「はは…そうですね、自分でも何言ってんのかわからなくなる時はあります」


自分が何なのかも、とは思ったがそれは口に出さず、皆が消えていった方向を見る、まもなく帰ってくるだろう


「うーん……明梨さん、遺伝子組み換えの野菜って食べた事あります?」


「そりゃあるけど」


「そういうのって栄養素が多かったり、農薬に抗体を持ってたりしますよね」


「まぁ」


「それと同じです」


それでようやく理解してくれたらしい、沈黙、というか絶句した。明梨が必死こいて無くそうとしていたものは、人を殺すためだけにどこまでも進化していくのだ、その進化は固定観念だけでは追いきれない


「武器として作られたんですよ、私達は」

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