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『こちらアレクセイです。現在中国軍に目立った動きはありません、北京軍区以外の地方軍との連携にもたついているようです、警戒が必要になるのは明日以降でしょう』
日が沈んで昇ってまた沈んだ頃、エボXのセルが回ってエンジンが目を覚ました、やかましい動作音が深夜の闇に木霊する
『ただ、ちょっと別の部門から流れてきた情報なんですが、みなさん、近隣の犯罪ネットワークに何か打撃とか与えました?』
「敷地内の石ころを蹴飛ばすくらいはしたかもね」
『いやいや、壁に穴を開けるくらいはしたでしょう』
続いてセリカがエンジン始動、エボより数段おとなしいそれを唸らせて前進を始めた。通信を続けるラファールの前に来て中のシオンが手を振り、振り返すと満足して去っていった
『といってもまぁ、チワワに噛み付かれる程度ですかね。砂まみれのAKより少しだけいい装備をしたゲリラが襲ってくるくらいの認識で結構です』
「いつ頃?」
『えーと…』
闇に消えていくセリカを見送って、それから何か、カンッ、という乾いた音を確認
巨大なキャンプファイヤーが起きた
『動きが慌ただしくなったのは2時間ほど前とのことなので…』
「ごめん、もういいわ」
指をぐるぐる回して周辺にいる連中に指示、駐車場を空けて高速バックしてくるセリカを迎え入れる
「うひゃーっはっはっはっはあーぃ!!」
「何されたの?」
「いやなんかね!道路に油が撒かれててね!」
慌ててセリカから転げ出てきたシオンが後部座席からM4CQBーRを引っ張り出す。基本的には米陸軍の使うM4と変わらないが、CQBーRはハンドガード近くまで銃身を切り詰めたモデルでG36Cと同じサイズだ。シオンのものはそこから更にカスタムされており、レイルハンドガードがダニエルディフェンスタイプ、ストックはマグプルのUBRストックで、グリップに関してはなぜかクローンモデルであるHK416から持ってきている
「ネア!宿屋の反対側を監視して!ルカとシグ!道路の反対側で防御体勢!」
指示した瞬間にセリカのボンネットが火花を散らした、全力疾走で2人が道路を駆けていく
「セリ香ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「誰だよ!!」
妻を殺された夫のような叫びを聞きながらシオンを後ろに引っ張って影に隠し、半泣きになりながらマガジンを装着するのを見届ける
「ヒナ!遠距離にスナイパー複数!」
相手は何を勘違いしているのだろうか、カンカン鳴り続けるセリカに隠れながらヒナを宿屋の屋根へ。屋内からアイヤー!とか聞こえてきたが無視、早急に片付けないと近所迷惑が拡大する、警察も大騒ぎだ
「コンタクト!」
地上で銃撃戦が始まった、といっても相手はライフル担いだただのヤクザで、さんざっぱら蹴散らした朝鮮兵より遥かに下。あっという間に静かになって、ばらまくだけの狙撃も順を追って沈黙
「クリアだ!」
「体勢そのまま!第二波警戒!」
「え」
「え?」
ほれ、とウィルに渡されたサーマルスコープ。覗いてみると、逃げ出すヤクザが何人か
終わりかよ
「で、どうする?あのチワワ達」
「……潰しとこう…」
「ふははははははははは!!」
………………
「なんか今、一昔前の少年マンガみたいな暑苦しい笑い声が聞こえたんだけど」
「そうですね、同じような音声は私も聞いたような気がしますが、ここはあえて無視を決め込みましょう」
少し遠くの方でやっているドンパチをBGMにして車に泣きすがるCIA工作員を眺めていた明梨とネアであったが、とても場違いな声を聞いて置いてあったG36Cをひとまず持ち上げ、だが移動はせず縁石に座ったまま
「車のキズ直すのっていくらかかるんだっけ?」
「板金の事ですか?弾痕程度なら5万円ちょっとだと思いますけど」
「にしては長いわね」
「まぁ、それが愛ってもんなんでしょう」
隣のエボXに視線を移す、こっちは使い出したその日に傷だらけになったのだ、顔にはまず出さないが、正宗もあんな心境に陥ったのだろうか
「ふははははははははは!!」
「…ねえ、これ確実にこっちの反応待ちだよね」
「気にしたら負けです。ところで明梨さん、だいぶ人が死ぬのを見慣れてきたようですけど」
「んなもんに慣れてたまるもんですか、ただ私はどうすればいいかってのがわかってきただけで」
「ふぅん」
「そりゃ色々文句は言いたいけどさ、私がぴーぴーわめいた所で余計な手間が増えるだけだし」
「それ、本心ですか?」
「…………」
「ふはーっはっはっはっは!!!!」
「パターン変えてきましたね」
「無視するんじゃなかったの?」
と
「んだぁ…人が落ち込んでるってのに…!」
シオン覚醒、M4CQBーRを拾い上げ、付いていたダットサイトの照準を暗闇の先へ
「ぎぁああああああああああ!!!!」
アサルトライフル片手撃ち、盛大にばらけたが声の主を暗闇から引っ張り出す事には成功、宿屋の屋根から転げ落ちてきた
真っ黒い長髪をポニーテールにした、高校生くらいの女の子である。うつ伏せで落着して、後から落ちてきた拳銃を頭に喰らう
「ふぐ……なんだこのノリ悪い連中…」
服装は夜間でのカモフラ効果を狙ってか髪と同じ黒のロングコートだった、立ち上がった瞬間に金属音がしたので色々と隠していると思われる。ぱっと見、とても知的な美人女性
「では改めてだな。こちらの事情により名は明かせないが、お前の身柄を貰いにきた。時間稼ぎも長くもたんだろう、あまり抵抗するなよ、葛城明梨」
「………………」
「……人、間違えたか?」
そのトボけ面でプッツンきてしまったらしい、指差されたシオンはおもむろにセリカのリアハッチを開けて弾切れとなったM4を突っ込み、代わりに巨大モンキーレンチが現れた
「おどれは勘違いで人の車をキズものに……」
「いや、それは多分私の責任じゃ…」
「しくさりおったんかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
戦闘開始、シオンが相手を撲殺するべく肉薄し
「あの銃は何?」
「Mk23ですね。このG36と同じヘッケラーコッホ社製、アメリカ特殊部隊の潜入任務用メインウエポンとして子供みたいな要求に応えて開発された大型自動拳銃となります。高威力な45口径弾を12発装弾、競技銃レベルの命中精度で3万発撃っても壊れません。現場の評価は最悪ですがね」
「補助武器には不向きだったって事かしら」
「まったくその通りですが…いきなりどうしました?ミリタリーに目覚めました?」
「なんかさ、軍事についてまったく無知なのに戦争批判するのもアホっぽいじゃない?」
「その情報が必要になるのは兵器評論家では?」
などと雑談しながら、明梨とネアは目の前で行なわれる闘牛を観賞する。女性の撲殺死体など見たくないので本来なら止めねばならないのだが、モンキーレンチは掠る様子すら見せないので安心して放置できた
「しっかし、確かに性能向上は見えるが…」
「何が?」
「ん?…ふふふん」
ぼそっとネアが呟いたそれを聞き逃さず、知り合って以来初めて慌てた顔を僅かに見せた。すぐにいつもの笑みに戻って、人差し指を上に立てる
「さて、今私は拳銃の話をしましたが、武器の定義なんてものはけっこう曖昧なんです。人や動物を殺せる道具なら石ころだろうと武器と呼べる、本当になんでもね」
ガランとモンキーレンチがアスファルトに落ちる。シオンが息切れを起こして、レンチの横に倒れ伏した
「あなた方は武器兵器と聞くとすぐ捨てさせたがる。でも覚えておいてください、人を殺せるならすべてが武器と成り得る事を、たとえそれが人であっても」
それを見てネアが立ち上がる、G36Cは置き、コンバットソードを引き抜いた
「では明梨さん、よく見ててくださいね、でも他の人には言わないように」
言って、一瞬見せたその笑みは
「今から見せるのは、武器と武器の、壊し合いです」
心の底から恐怖するような




