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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
Nemesis Adrasteia
38/106

5-2

『グライアイ、ギリシャ神話に登場する魔女の三姉妹ですね、それぞれが意地悪、戦闘狂、恐怖を指しています。どこにでもいる悪役気取りですよ、あなたがたも人の事言えませんけどね』


「あんな奴らがどこにでもいたら私達の商売上がったりよ」


『そうですね。母体組織はドイツにありますが、彼らグライアイ隊はフリーランス同然の扱い、つまり厄介者の掃き溜めです。評判はかなり悪く、味方へのデンジャークロス、誤射なんて日常茶飯事、敵を誘い出すために防衛目標の依頼主を野晒しにしたなんて逸話もあります。構成人数は5、つい昨日にとあるPMCと交戦し3人になってしまったようですが』


「経歴は?」


『1990年に結成、湾岸戦争にイラク側で参戦したのが初陣となります。それからずっと中東に張り付いてアフガニスタン紛争、イラク戦争を経験します、いずれも負けた側ですが対正規軍、特にアメリカに対してはちょっと引くぐらいの勝率がありますね。天敵ですよ、完全に』


「土俵は同じはずだけど」


『正規軍並みの最新装備を正規軍並みの補給線で維持し正規軍並みの練度で使う傭兵なんてどこの世界にいると言うんです?』


「…オッケ、油断はしないようにする」


『そうしてください。ルカさんとの関係についても確認が取れました、2010年から現在までグライアイ隊が請け負った依頼の中では唯一、失敗に終わった事案です。それに今回の件もまだ取り下げられていない、過去の因縁共々晴らしにくるでしょう』


「それと"EAー4"の方は?正直そっちの方が気にかかる」


『残念ながら足跡のひとつも見つけられていません。グライアイへの依頼は口頭で行われたらしく、彼らのパソコンに記録が無いんです。そちらのネアさんからは何か聞けましたか?』


「千葉の遊園地で知り合ったんだってさ、本名はマスク・ド・シンデレラ」


『はははは、なるほど』


「何かわかったら教えて、とにかくこっちは予定通り進む」


『わかりました、では忠告をひとつ』


「ん?」


『アストラエアをさくっと確保するのは諦めて、あなたがたを一人ずつ減らしていく方針に切り替えたようです、くれぐれもメインディッシュを気にしすぎないよう。ではまた、アレクセイ、通信を切断します』






















『確かに日本産の犯罪者を日本の部隊である僕らが片付けるというのは理にかなっている、VLIC社史に残るであろう超絶採算度外視な事態に陥っている僕らに対し少しでも小金を稼いでおけと命令するのもまぁ理解できる』


「だからってなんで警察の尻拭いなんか…」


『敵国だからな、何度も言うが中国とはそういうものだ』


まず本社からラファールの携帯電話に連絡が入った。電話相手が言うには、戦争の煽りを食らって帰国できなくなった日本人観光客3人がどこからか拳銃を手に入れてきて人質を取っていて、現地の警察が説得を続けているがその内容があまりにも芸術的で、人質が死ぬか犯人が死ぬかといった所まできてしまったという。それを説明された時点でもう聞くべき事は無いのだが一応聞いてみた、それをどうしろと?



自分の赤字は自分で埋めろ



『実際問題、核兵器がどうなろうと本社にとっては知ったこっちゃないからな。アメリカ様がおっしゃるので支援はしますただ赤字は認めません』


「けっ」


MP7を構えながら先行するヒナの文句を聞きながら背後を警戒するルカである。現在持っているG36Cに付け加え現地で調達したドラグノフスナイパーライフルを背負っており素早く動くのは遠慮させて頂きたい所


『とにかく仕事を終わらせよう。ロイ、狙撃位置についた』


「こっちはあと30秒、向こうの様子は?」


『5分以内にはカタをつけたい所だ。平和ボケした奴がキレるとああなるんだな、自分が今持っているものの威力をわかっていない。地獄を見る前に天国へ送ってやろう』


前もって目星をつけていた民家の塀にヒナが駆け登って流れるように屋根へジャンプ、所要時間2秒。その離れ技に少々唖然とするも上から差し出された手を握ってルカも屋根に登る。平屋建てで高さは低いが目標のいる建物までの射線に障害物はほとんどない、SLー9に持ち替えてトタン屋根に伏せたヒナの隣に位置を決め、まずは双眼鏡を両目に添えた


「目標との距離270メートル、風は東へ2、3メートルくらいかな。2階の窓にエネミー1及び人質、ベランダにエネミー2、1階玄関付近にエネミー3。武装は全員、たぶんトカレフだ」


「アホね」


狙撃してくださいと言わんばかりの日本産平和ボケ患者3人を完璧に捉え、G36Cを置き背中のドラグノフを前に引き出す。スナイパーライフルにも関わらず命中精度に難があるという銃だがこの距離なら気にするレベルではない


「手慣れてるわね」


「こいつにはよくお世話になったよ、特にアフガンで。どれにしろ10発毎にジャムるなら狙撃した方が確実でしょ?」


「……想像したくもないわ」


トタンに肘を立てて銃をぶれないよう固定、心拍数を抑えるために呼吸を整える。隣にはとてもダルそうに構えているヒナがいるのだがあれを真似したら絶対に外す、200メートル後方にいるロイも同じ事をしていると信じドラグノフのセイフティを解除


「別にナメてかかってる訳じゃないわよ、SLー9こいつはもともとG36アサルトライフルから発展した銃だから本職のよりは当たらないし、亜音速弾じゃ400メートルも飛ばないし」


スコープを覗く、日本人男性の鬼みたいな形相が映った


「ただ、手ブレが無いから…」


「……そう」



発砲許可はとうの昔に出ている、早急に終わらせてしまおう



『僕はベランダに出ているエネミー2をやる、ルカ、エネミー1をやれ、難易度は一番低いだろう』


人質が近くにいるのに難易度が低いというのは疑問を感じる、だが3人の中では唯一静止状態にあった、止まった的なら一発必中の可能性あり


『好きなタイミングで撃て、それを僕らの合図にする』


「なら今すぐ撃つよ、のんびりするのは苦手なんだ」


『…どうやら貴様はスカウト向きらしい』


慌ててM95のバイポッドを立てる音が通信機から漏れてきた、準備もまだだったとは。ヒナの妙に勝ち誇った顔を見ながらロイのために10秒待って、それから完全に照準


「5秒」


僅かな振動も狙撃では致命的になり得る、カウントは無しにして呼吸を完全に止め、ナメクジみたいな速度でトリガーを絞っていく


だいたい5秒


ついに激発位置に達したトリガーがハンマーを解放、カキンと音を出す。そのハンマーはファイヤリングピンを通じて東側規格7.62mm×54R弾の底をぶっ叩き雷管を作動させた、火薬の爆発した音と衝撃を置き土産に弾丸が勢いよく銃身を直進、高速回転を伴って飛び出していく


マッハ2を超える速度だ、目標には一瞬で到達してしまう。弾かれたように男がつんのめり、同時にベランダのもう1人も右肩が"爆発"した。音速以下で飛ぶヒナの弾は1秒ほどをかけて庭の残り1人に到着、綺麗に頭を貫通した


クリア。こうならずに済めば完璧だったのだが、まぁ上々の結果だ


「50BMGえげつねー…」


『わかっているだろう、こいつは人間ではなく車とかヘリを撃つための銃だ』


素早く撤収にかかる、こんな事をやっているが追われる身なのだから、警察に姿を見られたら間違いなくまずい事になる


『シグ、今から戻る、車のエンジンをかけておけ』


『おう了解だ、待ってるぜ。ただ、たった今隊長から電話があってな、すぐ帰るわけにはいかなくなった。ついでに言うとそのドラグノフも返す必要がなくなったんだが…』


「?」


屋根から飛び降りつつシグの声を聞き


『追加の仕事だ、チャイニーズマフィアの本拠地を潰してこいとさ』

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