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「いっづぅ……」
河原で投げ飛ばされるのはキツい、石だらけの地面から立ち上がってメルはM93Rのマガジンリリースボタンを押す。入っていたものがカシャンと落ちて、代わりに新しいマガジンを、と思ったがもう無い、ホルスターに戻した
そして体勢を直すまで待っていてくれた銀髪少女を見、左手に逆手で持っていたコンバットナイフを右手の正位置に持ち直す
「つかぬ事をお聞きしますが…PMC社員のお姉さんとかいたりしない?」
「何故そう思う?」
「そうなんだけど…この酷似しすぎた理不尽さは偶然じゃないと思うんだ…」
サービスタイム終了、相手の刀が腰の横を通って脇構えの位置まで移動する。マトモに斬り合ってもまず勝てない、右手のナイフを地面すれすれまで下げ、それに見合うよう体を前屈みに
「姉と定義しても差し支えない存在は3人いる」
「わぁ大家族だね、それで職業は?」
「1人が行方不明、2人が死亡確認済み」
「さぁーやせんっした」
謝ると同時にスタートを切った、地面を蹴りつけて一気に全速まで到達し、ナイフの攻撃範囲に相手を入れる。一直線に突っ込んだが攻撃はせず跳躍、しゃがんだ相手の頭上を越えて薙ぎ払いを避ける。着地、回転、突き出したナイフが刀に弾かれて金属音が鳴った。すぐ引き戻し代わりに体ごと前進、脇をすり抜けて再び背後を狙う
「うん…その行方不明のお姉さんって…髪がオレンジ色だったりしない…?」
結果は同じ、外見から推測される反応速度を遥かに上回る動きで刀が防御に入り、さらに押し戻されつつある。右肘の関節で違和感
「記憶している情報は無い」
力比べもまずい、左に転がり逃げて一度距離を取、るはずだったが、ついて来た
理不尽だ
「ぐっ…ぅ…」
脇腹を柄で一撃、1回転で済ませるはずだったものが2回3回と転がって、最終的に頭を石か何かに打ちつけた。気絶には至らなかったが星が舞い始める
「まだやるか?」
「はは……も…無理…」
点滅する視界で銀髪が近付いて来るのを捉えるも体はまったく動かず、握っていたナイフを手放して地面に落とした。もう一思いにやってくれとすべての抵抗をやめる
「満足そうだな」
「そりゃまぁ…一番乗りだし……」
ぼやける視界で振り上がる刃を捉え、まるで介錯を与える処刑人のよう
「好きな人が死ぬのは…もう見たくないよ…」
両腕で握られたそれが動き出し
乾いた金属音
「はいストップ」
メルの首を斬り飛ばす予定だった少女の刀は別の刃物の出現によって動作を遮られ、振り下ろすのを諦めて後退した。視界に入ってきたのはオレンジ
「また会いましたね、ミミさん」
「……」
「さっそくお願いですみませんが、ここに展開してる部隊もろもろ含めて、撤退して頂けません?」
「…………」
「あ、橋のとこでロケットランチャー担いでたのは私が片付けちゃったので、少なくともそれを除いてですが」
少女共々後ろに引いてぼやけた視界から誰もいなくなる。首を動かしたいのだが、動かし方を忘れてしまった
「……EA-4からグライアイ、目標達成は困難と判断、撤退する」
ひとつの離れていく足音、それから一瞬だけオレンジ。さっきのとは真逆に離れて、すぐ近付いてきて
顔面に水
「冷たっ!!」
中国の川の水は臭かった。いきなりの衝撃に飛び起き、混濁していた頭も一瞬で回復
「誰が諦めていいって言いました?」
正面に回って屈みながらネアが言う。表情はとてもニヤニヤした感じになっており身の危険はまだ去っていない様子
「いや頑張ったんだよ?頑張ったんだけどどうしようもない事ってあるじゃん」
「そうですね、どんな目に遭ったかはだいたい想像つきます。どんなに人体の限界を超えてもアレに勝てるとは思えませんから」
差し出された手を握って引っ張られながら立ち上がる
太陽は完全に顔を出していた、遠くでパトカーの走り回る音
「すべてに打ち勝てとは言わない、ただ死ぬ瞬間まで諦めるな。忘れましたか?」
「それは覚えてるけど…」
土手の方を一度見て、ネアがくいと親指で合図。ラファールの金髪が見えた
「ちゃんと償ってから死んでくださいよー?でないと、ふふん」
コンバットソードを鞘に収めて僅かに笑った、仕方ない
まだ生きているのだ、もう少し頑張ってみよう




