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『うーーん…第七艦隊ジョージワシントンからならギリギリ射程内ではあるんですがー、さすがのスーパーホーネットもそこまでは辿り着けませんしぃ、日本にいるラプたんは現在全機が戦闘行動中でしてぇ。ていうかそもそも間に合わないでしょ』
「つまり航空支援は無理って事ね」
『そうっすねー』
ダメもとでシオンに連絡してみたが案の定の結果となった。一刻も早くルカとメルの救援に向かわなければならないのだが、現在たかが2〜3人の傭兵と思われる部隊にプレッシャーをかけられて1歩も動けない状態である。何か手段を考えなければ最悪負けてしまう
「まぁスペツナズに勝ったからって調子乗ってる所はあったな」
『あんな連中、デルタやシールズに比べればへなちょこっすよー、知ってるでしょ?』
「US.SOCOMとやり合った事ねえからそれはわからん」
さっきから断続的に鳴っていた着弾音が消えたのを確認して、ラファールはビル影から顔を出しブースター付きホロサイトの照準を橋の根本に合わせる。しかし敵は既に隠れており仕方なくマガジン1本分を制圧射撃に使用、ネアのグレネード弾発射を見届けてから再び影に引っ込んだ
「どう?」
「駄目ですね、動くのがとにかく速い。きっと前進してきますよ、このままじゃ完全に分断される」
「危険ではあるけど、一気に通り抜けた方がよさそうね」
『それは僕も推奨しますよ。中国軍が体勢の立て直しを始めました、時間がありません』
と、アレクセイが補足した。前に進めない現状、後ろからも来られては本当にどうしようもなくなってしまう
「アレクセイ、あいつらの素性はわかったのか?」
『正規軍にはとても見えませんのでPMCや傭兵の方でサーチをかけています。あなた方と正面きって撃ち合える組織なんてそういませんからすぐ見つかるでしょう、ただ今回は間に合いませんね』
「じゃあシオン、時間内にできる事は?」
『ウィルさんの為なら大統領をテロって大陸弾道弾の2、3発くらいぶち込む所存ではあるんですが少し現実的ではないので、まぁ妥当な所で言えば、橋の爆破?』
「…オッケ、すぐ取り掛かって。行動方針を敵の殲滅から戦域突破に切り替える、スナイパー班、メルとルカを支援、車両はいつでも飛び出せるよう準備。ネア」
「了解、お任せを」
「まだ何も言ってないんだけど」
指示を出す前にネアは不敵に笑い脇道へ消えてしまった。言いたい事はわかっているだろう、期待通りの動きはしてくれるはず
「困った時の神頼みってな」
「うるさい、気にしてるんだから」
「わかってるさ。とりあえず俺らがやるべき事は?」
「決まってるでしょ、スタンバイ」
前方を確認、敵の姿を捕捉
「ゴー!!」
ミニミからの火力支援を受けてラファールは前進を開始する
確かに複数人で行動するのは楽ではあったが、単独行動もそう悪くないものである、仲間を気にかける必要がない。ただし撃ち合いでは絶対に勝てないので必然的にこうなる
『ロイからルカへ。こっちの居場所は完全にバレてるな、死角を辿って移動されてる。なんとか押し出せないか?』
「いや、そのままで大丈夫、行動を制限さえしてくれれば」
敵人数2、距離10メートル、ブロック塀の向こうを歩いていく。うまい感じにこちらを見失ってくれたようだ、奇襲ポイントを求めてさらに移動する
『不意打ち狙いでしょ?下手に撃っても邪魔なだけだからほっときなさいよ』
さすが本職、よくわかっていらっしゃる
どれだけ人数で負けていようと一人一人を片付けるのは弾丸1発で事足りる、この場合は弾2発分、1秒ほどの隙を見つければいい。だがその隙を見せてくれない、下手に飛び出したら頭をぶち抜かれる気がする
「やたら実戦慣れしてるね、中東から引っ張ってきた傭兵とか?」
『そうだな、古めかしい銃を使っているし、PMCのような組織体制の整った集団ではないだろう。そういう奴らほど対正規戦に慣れてる、教科書通りは踏むなよ』
ビルをぐるりと回って非常階段を見つけ音を立てないように屋上まで登る、朝日は半分ほど顔を出しもう夜明けといっても差し支えない具合。端から下を覗き込むとようやく敵の姿を確認できた、白髪の混じった黒い髪と同じく白黒の無精髭、アジア系だが年齢は40以上、傷だらけのG3固定ストックモデルがよく馴染んでいる。それともう一人、MP5を構えて後方警戒しているのはフルフェイスマスクにゴーグルのフル装備、ただかなり若いというのは判断できた
『やれそうか?』
「無理無理」
端から離れてロイに言う、なんかスティーブン・セガールみたいなの出てきた
「後ろのは簡単にいける、でもあのオジサンはたぶん後ろにも目があるから……」
『貴様は何を言っているんだ、落ち着け』
「とにかく単独交戦はするべきじゃない、ひとまずほっといてメルの救援に…」
キン、と、フラググレネードのピンを抜くような音がした
少し声が大きかったか
「まっっずい!!」
逃げたって追い込まれるだけだ、だったら少しでも可能性がある方を選ぶ。空に投げ上がったM67アップルグレネードの下へ向かって駆け跳躍、3階建ての屋上から道路に向かって自由落下を開始した。途端にG3からの銃弾が腰のホルスターを直撃して中身のPx4ごと吹っ飛ばし、落下しながらG36Cを連射する。フェイスマスクの方があっという間に蜂の巣になるもオジサンは初弾が着弾した時点で視界外に消えていた。倒れる前のフェイスマスクの頭を思い切り踏み潰して減速し着地、オジサンが隠れた方向へG36Cを
「っ!!」
いつの間に戻ってきたのか、極至近距離から振り下ろされたナイフを銃口で弾き飛ばす。一歩前進、打撃で腹部を狙ったが相手の左手がガードに入り、踏み込んだ足を戻してナイフ二撃目を機関部で受け止める
そこまでやってようやく真上でフラググレネードが爆発、パラパラと破片が降ってきた
「なかなか気配を出さないからどんな奴かと思っていたが、まさか子供とはな」
見た目相応の年老いた声、言っている間もナイフとG36Cは音を立てて軋み、フレームのプラスチックが削られていく
「いや…その顔は覚えているぞ、イラクの反政府勢力がずっと首を狙っていた。ああそうだ、お前には何度も苦汁を舐めさせられた」
「……悪いんですが…身に覚えが…」
「だろうな、お前がイラクにいる間ずっと追っていたが、その顔を見たのは写真でだけだ」
余っていた左手もナイフの柄に添えられた、じりじりと下に押し込められていく
「奴ら、お前を捕らえる為にどれだけの人数を動員していたか知っているか?さすが"亡霊"なんて異名を取るだけはある」
「すいません…それも初耳…」
「……ハッ、まぁいい」
ずいと顔を近付けて、真っ黒い両目を真近で見せられ
「テオドール、俺のコールサインだ、覚えておいて貰えると助かるな」
ナイフの圧力が一気になくなった
「ルカ!」
後ろでラファールの声がしてさっきまでオジサン改めテオドールのいた場所に弾丸の雨が突き刺さる。白髪混じりの姿は既に無く、代わりにラファールとウィルが視界に現れた
「よう、クールな顔してんのにしぶとさはゴキブリ級だな」
「下品な事言ってんじゃないわよ、このままメルを回収してトンズラかます。ルカ、いける?」
「…もちろん」
G36Cを確認、思い切り傷を付けられた。それからPx4、こちらはグリップ部が落下の衝撃で破損、射撃は可能そうだがこのまま使うのはちょっと
「で、あいつ知り合い?」
「僕は知らない、向こうは知ってた」
「あ、そう…」
なんとなく状況は察してくれたようだ
「とにかくまだ終わってない。スナイパー班、メルの位置は?」
『真北、河川敷で交戦中と思われます』
ひとりぼっちからスリーマンセルに増え
もう片方のひとりぼっちを救うべく橋へと足を向ける




