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「まずラファール、ルカ、アストラエアがエボX、運転は正宗。俺を含む残りはトヨタのバンだ、シグが運転する。先頭はエボ、これは街中でカーチェイスになった場合どう考えてもエボの方が速いというそれだけの理由だ」
一晩ぐっすり寝た後の夜明け前、ブリーフィングを進めるウィルの横でエンジンの調子を確認するようにランサーエボリューションが何度も唸っている。その後ろでは補給物資が山積みされ、必要なものを選別してバンに積載していた。ほとんどがG36系のマガジンとそれに入れる5.56mm弾、ロケットランチャーなどの高火力武器は最低限に留め、その代わり爆薬を割増
「俺達は万里の長城を飛び越えて西に向かう、ゴビ砂漠を掠めるルートだ、砂埃に注意しろ。だがまずは北京を脱出するのが第一目標になる、アレクセイからの情報では人民解放軍の高機動車が何台か確認されてるらしい」
「敵戦力は?」
「奴らの戦闘力はまったく大したことはないが数だけは呆れるほど多い。恐らく100人単位で投入してくる、弾薬は節約しろ」
「じゃあ会敵した時の対応」
「逐一隊長から指示が出るだろうが俺達の目的は北京からの脱出だ、逃げれるようなら逃げろ」
物資の積み込み完了、運転席にシグが乗り込んだ
「よし、じゃあ状況開始だ、全員乗車しろ」
エボに乗る3人以外がばたばたとバンに入っていき、さっそく席取り合戦が始まったのを見届ける。それを見て苦笑しながらラッセが近付いてきて軽く手を挙げて挨拶
「あと1日準備期間があればもう少しマシな装備を組めたんだけどね、倉庫の残り物ですまない」
「十分よ、もともと重武装は得意じゃないし、補給線は確立してるんでしょ?」
「まあね、運搬方法はCIAと米軍任せだからMLRSで配達なんて事もあるかもしれないけど。とりあえず…」
と、ラッセはラファールに顔を寄せ
「国が関わってきたって時点でこれはもうただの"業務"じゃなくなってる、俺とあの2人以外は極力頼らないようにしてくれ、例え身内であっても」
「…裏切りが出る確率は?」
「高いよ、40か50%くらい。あっちこっちから圧力がかかってる、それこそ本社が潰されかねない程に」
「了解」
トンと肩を叩いてラッセが離れ、ラファールはエボの助手席に向かっていった。手を振るラッセに背を向けてルカと明梨も乗車する
内部はスポーツカーにあるまじき高級感で、ヨーロッパ車を意識しているのが見て取れる。席に収まってドアを閉め、正宗がロックをかけた
「こういう車って始めて乗るのよね…」
「ならシートベルトは信用しない方がいい、限界走行中は何かにしっかり掴まっていろ」
正宗が明梨に忠告、間も無く車が動き出す。バンがそれに続いて、2台一緒に駐車場から出た。外はまだ暗く、夜中といっても差し支えない、あと数十分もすれば明るみだすだろうが
『えーもしもし、こちらアレクセイです。これより先状況に応じて通信に参加させて頂きます。さっそくですが市内全域、中国軍部隊が展開しています、ガチガチの封鎖部隊から覆面まで。まず陽動を兼ねて北に向かってください』
「こちらスリーシックス、了解」
通信終了、正宗が交差点を右に曲がる。歩道の市民が日本車を見て騒ぎ出したが、エンジンを1発吹かしたらおとなしくなった
「スリーシックス?」
「部隊全体のコールサイン、まさかこんな早く使うとは思わなかったから教えてないけど。666小隊でスリーシックスね、ちなみにルカはスリーシックスナイン」
「うん、確かに使わなそうだ」
「一応そういうのもあるって記憶に留めといて。……それから明梨、気分は大丈夫?」
「え…ああうん、大丈夫、昨日よりはずっといいから」
「そう」
ラファールが視線を前方に戻す、入れ替わるように正宗がバックミラーを覗き込んで、サイドミラー、首を回して直接目視と後方確認
「今のうちに確認しておく、追跡された場合はどうする?」
「む…市内で派手な事をしたくはないけど、振り切れるならその方向で」
「了解」
正宗の左手がギアを一段下に突っ込んだ
「っとおおぉぉぉぉぉぉ!!?」
猛然と加速を開始したエボにまったくついていけずバンが置き去りに。運転席のシグの唖然とした顔を見送りながら反対車線に突っ込んで、綺麗なアウトインアウトで交差点を右折、スリップ寸前のタイヤがギャリギャリと音を立てる
「ままま正宗さん!!?」
「来るぞ、後方100メートル」
それを聞いてまずG36Cの薬室に初弾を投入する。明梨が前席のシートにへばりついて顔面蒼白になっているのを確認してから後ろを見、途端にカンカンと着弾音が鳴ったため反射的に首を下げた
『ど畜生が!いきなり撃って来やがった!』
通信機からウィルの声、向こうも同じような目に遭っているらしい
「ああもう!市内だっつーのに!!」
シートベルト解除、パワーウインドウを操作して外に身を乗り出す。高速で追いかけてくるのは黄色の乗用車、中身は迷彩服
「あれ中国製の車だ!自転車と正面衝突して負けたやつ!」
「オッケ。各員応戦!民間人が大量にいる!誤射に注意!」
まず威嚇を兼ねてフルオートでG36Cを吠えさせる。敵車両のボンネット付近で断続的に火花が上がり、回避運動を取って反対車線へ。そのあたりで遥か後方にバンのものらしきヘッドライトが現れて、こちらと同じく追われながら反撃の発射炎をあげている
「掴まれ」
まったく危機感のない落ち着き払った声で正宗が言った。直後に交差点を右折、信号機の支柱がルカの背中を擦った感触
「はっひ!??」
「すまない、攻めすぎた。次からはもっと膨らむ」
速さを競っている訳ではないのだが
「くそ…進路が封鎖されている、反転するぞ」
「えっ」
車体が前進しながら回転を始めた
猛烈な恐怖感を感じて車内に引っ込み、入れ替わりでラファールが窓を開ける。エボXは車道幅ぎりぎりまで使ったスピンターンで頭を完全に反転させた、黄色い敵車両とすれ違う
「シグ、次の交差点は左折しろ、こちらの後ろにつける筈だ」
ラファール発砲、申し訳程度の防弾性能だったウインドウが弾け飛んで内部で赤が噴き出す。車はこちらを追わず前進を続け、暗闇の先でクラッシュ音を響かせた
『後ろにっつったって……』
さっき背中を擦った交差点まで戻ってきて、バンが突っ込んできたのを確認する。それより先に直進、尻を振りながらコーナリングしてきたバンと合流
『ついて行けねぇーよ!!』
だが車間を維持できたのは一瞬だった、短いストレートで思い切り突き放され、次の交差点を右に曲がると50メートル以上の開きが発生
「…そうか、速度を合わせなければならない」
「気付いたんなら減速して、支援射撃できない」
「いや支援射撃の必要は無い、窓は閉めておけ」
ブレーキを一瞬だけ踏みつけて遥か後ろにいる敵車両へ急速接近を開始する。相手の車種はさっきのと同じで塗装は赤、飛び込んできたエボXを見るや片側2車線道路の端に逃げ込み、2台の間に割って入ったドライバー正宗は敵車両方向へぐいんとハンドルを切る
「ひゃぁぁぁぁぁぁぅぅ!!」
車体を揺さぶる衝撃にカーチェイス開始以降ずっと黙っていた明梨が絶叫、防弾ガラス2枚越しに中国兵も絶叫しているがそれは3秒程度で轟音と共に消え失せた。後ろを見れば道路標識に乗り上げて天を仰ぐ敵車両があるのだがわざわざ報告するようなものでもないので黙っておく
「どうする?主要道路は封鎖されたと思うが」
「最低一箇所は突破しないとね、とにかく今は北に」
「了解北に向かう、シグ、ついて来れる速度に抑えるから追従しろ」




