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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
そのセイギは誰が為に?
26/106

3-8

結果的に言えば、買ったバッグは一切が無駄となった



『各員、状況報告』


『こちらウィル、隊長様の隣で情報整理中』


『お前はいらん』


『こちらネア、隊長様を護衛中』


『お前もいらん』


パレードを見たのち、早急に列車に忍び込んで平壌から離れるはずだった。だが今いるのは朝鮮連邦の首都、平壌である


『ヒナ、たった今援護位置についた、建物正面すべて射程に入ってる』


『メル、弾薬庫から爆薬を入手したとこ、2分もあれば完了するよ』


あいつと話がしたい、そう言ったのは明梨。あいつとはパレードの最中に見た"総書記"のことで、一体何を考えてるのか知りたいという。明梨の立場としてはその衝動は至極当然ではあるが、状況的に考えてその行為は完全にアウト、指名手配犯が警察署前でストリップダンスするようなものだ


だがラファールの応答はこうだった、それは別料金になるけど大丈夫?


『ロイ、及びシグ、迫撃砲の配置完了だ、マトモに撃てるかは知らんが』


『シケてそうな弾は選別終わってる、砲身に歪みもないし大丈夫だろ』


そんな訳で現在、明梨を含む我らが666小隊は朝鮮労働党中央党本庁舎に展開していた。時刻はもうすぐ日付けが変わる頃合い、パレードの影響で車両の類は出払っており、ヒナがトラッキングした結果、総書記もここにいることが確認されている


『正宗、外周の制圧は終わっている』


忍び込んで話をするまではいい。問題はその後だ、どう考えても強行突破になる。それを考慮した結果がこの配置だ、脱出するまで正面玄関を確保し続けられる陣形と、迫撃砲による火力支援


「こちらルカ、裏口で待機してる、アストラエアも無傷」


『オッケ、じゃあ状況開始よ。明梨、今からあのピザデブに会わせてあげるけど、昼間の約束は覚えてる?会って、話して、脱出するまで私達のやる事に口出ししないこと』


「うん、わかってる」


『ならよし。ルカ、前進して、途中の敵はすべて排除』


前進命令、G36Cのセイフティが解除されているのを確認する。サプレッサー付きなのは当たり前だが、暗闇での近接戦闘に備えフラッシュライトをプレッシャースイッチ仕様にした、グリップを強く握るだけで点灯する


「じゃあ行くよ、離れないで」


目の前にあるドアのノブを回して引く、キイと音を立てて開いた


「?」


中にいた警備員が疑問符を浮かべて確認しにきたためそのまま待機、ほどなく痩せぎすの男が出現、トリガーを1回


2発飛び出て、警備員は何も言わずに転がった


「っ……!」


「…やめとく?」


「いや…大丈夫、行こ」


1人目から顔色を悪くしているが本人がそう言うなら仕方ない、明梨を連れて内部に侵入する。1階廊下に誰もいない事を確認して、階段に向けゆっくり前進


『メルからルカへ、爆薬設置完了、2階で合流するよ』


「了解」


真横の部屋から話し声。ただの潜入であれば無視するべきなのだが、今回の場合は敵を減らしておいたぶんだけ後が楽になる。それにこちらは子供連れだ、背後を取られては守りきれない


「ラファール、ドアの向こうに人がいるんだけど兵士なのか政治家なのかまったくわからない、この場合は?」


『途中の敵はすべて排除、例外はなし』


「……了解」


言うと同時、ドアを蹴り破った。何が起きたのか理解される前にG36Cを構え、およそ兵士とは思えないそいつらへバースト射撃を2回、3回、4回。室内をクリア、騒ぎ声も上がっていない


「ふぅ…ハリウッドの映画にでも出てる気分だ」


『じゃあCTUから捜査員が派遣されてくるかもね』


「彼は国内テロ専門だよ」


部屋から出て前進再開、明梨が既に泣きそうな顔なのを見てどうしたものかと思いつつ階段を登る。廊下の反対側でメルが待っていた


「文句なら受け付けるけど?」


「…大丈夫……」


誰がどう見ても大丈夫そうではない、といっても引き返すとは言わない以上続けるしかないのだが


「ルカくん、こっちこっち」


メルに呼ばれて反対側の階段へ向かう。途中で窓から外を覗き、正面のビル屋上に人影があるのを確認した。ヒナから狙撃支援を受けるならあそこが見えている事が条件


無意味な要人暗殺をすることもなくメルまで辿り着いて、まず廊下の突き当たりを指差される、エレベーターがひとつ


「シャフトを登れば誰とも会わずに済むよ」


「なるほど名案だ」


何も言っていないのにこの提案、普段バカっぽいがもしかしたら頭いいのかもしれない。さっそくエレベーターを呼び出して中に入り、まずメルを上へ


「この歳で…肩車されるとは思わなかったわ…」


「そういや何歳だっけ?」


「19…」


なんと未成年であった


どうにか明梨をエレベーターの上まで上げ、メルに引っ張ってもらってルカも登る。フラッシュライトを使って照明を確保、ハシゴが遥か上まで続いていた


「電波届いてないね、早く登って報告しないと」


M93Rのライトを光らせつつ登れとジェスチャー、照らされたハシゴに手をかけひたすら上まで登っていく。まったく掃除されていない、当然か


「登り切ったらどうする?」


「目標がひとつ下にいるはずだから、窓から飛び込む」


「……」


「こうカーテン丸めてね、明梨ちゃんは後からゆっくり降りればいいし」


こちとら対テロ訓練など受けていないのだが、話している間に一番上まで登ってしまったのでとりあえず機械を操作してエレベーターの電源を落とす


「こちらメル、エレベーターをよじ登って今最上階にいる。これから突入するよ」


『早っ…まぁいいけど。ヒナ、ピザの位置は?』


『さっきと変わらずソファでふんぞり返ってるけど、そのピザってコードネーム?』


エレベーター室を出て総書記の真上まで移動、そこでカーテンを丸める。窓を開けてヒナに手を振り今からやる事を伝えた、了解とサイン


「え、何するの?」


「突入戦闘では恐らく最もスタイリッシュで難易度の高い突入法」


紐状にしたカーテンを窓枠にしっかり結び、人間がぶら下がっても大丈夫なことを確認。そのあたりで明梨も感付き、顔色のよくない顔を引きつらせた


『メル側、ライフル武装の兵士が2人壁にもたれかかってる。ルカ側、なんか偉そうなの3人座ってる。隣部屋にもいるけどそっちは私が片付けるわ』


ヒナからの情報を頼りに突っ込んだ後の行動を決定、窓から外に出てロッククライミング体勢になった。カーテンが嫌な音を立てている


「あと手を緩めて壁蹴れば行けるから。明梨ちゃんは合図したらゆっくり降りてきて」


「え…えと……うん…」


右手を離してG36Cを、と思ったがそれは難易度が高いのでPx4を引き抜く。撃鉄を引いて準備完了、メルへ合図した


「3、2、1、ゴー!」



手を緩め、壁を蹴り、すぐ握り直す。ブランコのように体は円運動を開始しほどなく階下の窓ガラスに衝突


盛大に音を立てて総書記に謁見し、カーテンを離して宙を舞いつつPx4を発砲、将校1人の頭を撃ち抜いた。着地後連続射撃を行い傍にいたもう2人も黙らせる、右側でも同じような事が起きて兵士がその場に崩れ落ち、1人を除いて敵は全滅


「クリア!」


残ったそいつの肥満腹に右足を叩き込み怯んでいるうちに拘束、それでひとまずは目標達成


『ルカ、今ので完全にバレた。正宗とネアに時間稼ぎさせるけど5分は取れないわよ』


「了解」


呻くそいつの腕を締め上げ銃口を頭へ。明梨が降りるのに手間取っている、もう少しかかりそうだ。とりあえずなに言ってるのか皆目検討もつかないのでイングリッシュプリーズと言ってみる


「何だ…貴様ら…」


「旅客機が墜落してしまったもので、勝手ながらお邪魔してます」


「……ああ…PMCの例の部隊か…噂は聞いているよ、デルタフォース級の仕事をすると」


メルに手伝ってもらいながら明梨が降りてきて総書記と対峙。ほどなくして下の方で銃撃戦が始まったらしい騒音


わざわざこんな所までやってきた明梨を見ても総書記は特に驚きはしなかった、特に抵抗もせず数秒ほど睨み合い、やがてフンと鼻を鳴らす


「どうして戦争なんか起こしたの」


「その質問から入るという事は自分が何故狙われているのか知っているんだろうな」


核が欲しいというのは確定的に明らかだ。朝鮮軍も核武装してはいるが、威力はヒロシマ原爆程度で、弾道ミサイルも実用に程遠い状態。自由落下式核爆弾なんていまどき何の役にも立たない。核とミサイルの設計図セット、これ以上ないくらい魅力的だったろうがわざわざ戦争を起こすほどかと考えると


「まずお前が原因などではない、まったく無関係とは言わないがお前ら親子の為だけに事を起こすほど暇じゃないんだ」


「じゃあ何でこんなこと…」


「こんなこと?世界中から日干しにされるこの有様から抜け出そうとする行為がこんなことか?」


「っ……」


「毎日の餓死者を私が出していると本気で思っているのか?こんな痩せきった土地の国に輸出制限を課した時点でこうなる事はわかりきっていたはずだ、死者を出すなと言うのなら文句をつける相手は私ではない」


「でも!それはあなたが国連を突っぱねるからで!それに食糧支援の話なら何度もあったじゃない!」


「それを受けたらどうなる!?何か変わるか!?」


激昂


止めるべきだったかもしれない、だが言わせた方がいいような気がした、誰にとっても。こいつの真意は


「餌だけ与えてはいおしまいと、そんなやり方で根本的な解決になるか!自分達の都合で2つにわけて、用が済んだら邪魔者扱いし、利益が出ないからと攻めすらしない連中だぞ!そんな馬鹿どもが治めてる世界などおかしいだろうが!」


が、僅かに足音が響いてきた。メルが背中のMG36を手前に回す


「なら戦争しかないだろう!日本を落とし、アメリカに攻め込んで、それでようやくこの国は他と対等になれる!今までされてきた事を、同じ事を奴らにやり返せるのだ!」


「……」


ああ、違う


真意でもなんでもない、これはただの憎悪


「多少の犠牲など気にしていられん、本当に日干しにされるその前に奴ら全員を……!」


グリップの底を総書記の頭に叩きつける


「え…ルカ!?」


「これ以上話してても何も出ない、それにごめん、まだ2分もたってないけど」


メルがドアに向かってスタートを切り


「時間切れだ」

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