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朝鮮兵の動きを監視しろと言われたので、監視位置まで建物の屋上をつたっていく事にした
「思考がぶっ飛んでるよね」
「涼しい顔してついてくる奴が何言ってんだか」
メルの腕を引っ張って屋上に上げ、姿勢を低く保ちながら次のビルに向かう。今度は12階建て、少々高い
「ヒナちゃん、電車電車」
指差された先、鉄道の整備場だろうか、大量の線路が敷き詰められている。あそこからなら忍び込めるだろうか
「こちらヒナ、西の方に電車が集まってる場所を発見。今のうちに時刻表とか手に入れといた方がいいんじゃない?」
『こちらラファール、了解、正確な位置は?』
「こっちの位置から方位246に直線距離2963メートル。現在地は…へ…たいら……」
「へーじょーこーらいホテル近く」
「そうソレ、詳しくはGPS参照」
『…ピョンヤンって、漢字でどう書くかわかる?』
「……わかんない」
『今目の前にあるそれだっ!!』
ややこしくなりそうなので通信を切る。屋上の端まで移動して飛び移れる場所を捜索、右側面の非常階段
「その眼、辞書機能も付けといた方がよくない?」
「やーかましい」
跳躍、谷間を飛び越えて踊り場に飛び込んだ。手すりを踏んで前転しほぼ無音で着地する、レッグホルスター内のMP7が嫌な音を立てたがとりあえず良し
「ほーい」
MG36が飛んできた
「ちょ待っ!」
体勢を整える前に鉄の塊を受け止める事を強要され、案の定バランスを崩してうつ伏せに転がり
続けざまにメル襲来、ダイビングボディプレスが見事に決まった
「うん、ごめん」
「……ぐふぅ…」
MG36は投げ捨てた、だが背負っているのはSLー9である。息ができない
「なんか下が騒がしい、急ごう」
「待て…こら…おい……」
なんとか呼吸を整えてメルの後を追う、12階建てビルの屋上に辿りついてまず相方の後頭部を一発、それから平壌中心部の監視体勢へ
状態は見るからに異常だった、大通りは軒並み交通規制が敷かれ、警備に大量の朝鮮兵。市民はそれ以外の場所へ追いやられ詰まり切っている、無理矢理どけられた、という印象
「ウィル、なんかお祭りみたいなことやってる、そっちの様子は?」
『ああ郊外も一部交通規制だ、行動には支障無いが…何だ、凱旋パレード?』
「どんだけせっかちなのよ」
「プロパガンダにはアリかもね」
と、言っている間に第一陣が姿を現した
まず戦車、韓国のK2、K1、それ以外はどれも時代遅れの感じが強いラインナップであるが勇ましく行軍している。続いて装甲車、ミサイル車両、歩兵
「軍隊ってか博物館…」
『言ってやるな』
韓国製以外のすべてが現役に留まっているのが奇跡なほどの骨董品なのである、朝鮮戦争から時間が止まっていたのだ、一部では零戦が現役などという噂さえある
よくこんな体たらくで日米に喧嘩を売ったものだ
『とにかく見つかった訳じゃなさそうだ、進行は予定通り』
「了解、こっちも監視を続行…お…」
『どうした?』
ひとしきり兵器が流れ、後に続いてきたのはジープ1台
「なんか偉そうなのが出てきた」
「あれがTー62を改良した暴風号、その奥がライセンス生産って噂のTー72。一番後ろのは旧韓国のK2戦車、この中で唯一現代戦を戦える、ちゃんとした整備は受けてないだろうからマトモに動くかは知らんが」
戦車を指差しながらウィルが言った
明梨を背中に隠しつつパレードの行進を見守っている、首都防衛部隊をまるごと参加させたようなそれはなかなかに壮大だったが、その実8割が時代遅れの役立たずで、韓国から接収した兵器だけ並べておけばよかったのではないかとツッコミを入れたくなる。特に少し前から飛び回り出した空軍、Fー15KとMigー29以外はベトナム戦争からの骨董品だ
「思うんだが、この有様で日本に仕掛けるってのはかなりの失策だよな。中国にそそのかされたか?」
「その可能性は高いだろうけど」
中国と共同で、かつ相手が日本の自衛隊のみであれば数週間のうちに決着が着いただろうが。まさかアメリカが日本を見殺しにすると本気で思っていたのか
何にせよこいつらの味方はこれ以上増えない。戦況ではなく、マナーの問題で
「どう捉えても、先は見えてない」
「それはどうかわからんぞ。ああほら、出てきたぜ、第一書記様だ」
ジープの後部座席に立って笑顔で手を振る小太りの男、アメリカの大統領に相当する地位であり北朝鮮軍総司令官。付け加えて言うとその場にいる数千の人間の中で唯一の肥満体型をしており、年齢と合わせて強烈な違和感を発している。そんな国のトップに住民が向ける目は冷ややかで、見ないと処罰されるから仕方なく見ている、という有様
「違う…」
「ん?」
「昨日総書記になった、今日はそのお祝いだって…」
背後で明梨が言った、ルカの背中を小さく握り、その手は少々震えている
「このパレードって、いくらかかるの…?」
「燃料代だけでも食糧何トン分か検討もつかないね」
ジープはガソリン、戦闘車両は基本的にディーゼルのため軽油、ジェット機はケロシンという灯油を主成分とした化合物。いずれも日本の乗用車とは比較にならない燃費だ、それが百輌前後
「何考えてるの…?」
「わかってないんじゃないかな、彼が経済面でも有能って話は聞かないし」
父の急死によって担ぎ出された総書記だ、本来こんな地位に着くべき人材ではない。それでもこうして留まっているのは必死なのかそれとも
「こうでもしないと国が生き残れない所まで来てたってのはある、大日本帝国みたいに植民地化ってこたないだろうが」
ウィルが言って、もう一度総書記を見る
強制された歓声を受ける親の七光り
「そんな事考えてるように見える?」
「ノーコメント」
やれやれと首を振ってパレードから離れた。バッグは人数分入手している、後は部隊と合流するだけ
「平和に終わらせるのが許されないって…どうして…」
と、ルカの後ろで明梨の呟き
「そうだね」
絶対に避けられない、とは言わないが、それでも
「この世界は、暴力でしか解決できない事が多すぎる」




