3-3
明梨を抱えるアルファの前方200メートルを先行し、進路の安全を逐一確認していく。たった2人で危険なようにも見えるが、要は見つからないように、かつ相手をいち早く発見し、接触しないような迂回路を探すだけの話であり、2人という人数設定はむしろ多い。ここに入社する前は単独行動が基本だったし、少なくとも少数人数での機動戦では朝鮮兵は中東の反政府ゲリラに劣る。こういう任務で必要なものは戦闘力ではなく視力、そうすると途端に荒ぶり始めるのが現在の相方
「10時方向300メートル先に複数人の熱源、チャーリー、右をお願い」
『了解、先行する』
ヒナの左目は眼球に近い外観の瞳孔が展開され、内部のカメラがむき出しになっている。前回のは咄嗟に隠してしまっただけなのか仕事に私情は挟まないのか、自らが半サイボーグという件はここに来てさらけ出して来た。それはいいのだが、幅3メートルの谷間を軽く飛び越えて無音着地なんて離れ業はやめて欲しい
状況に関しては、前進する毎に敵の人数が増えているがこの人間レーダーがミスをするとは思えないし、何よりチャーリー、正宗とネアが味方にすら存在を悟らせないというわけのわからないステルス性を発揮している。よもや発見されるなどという失態は侵さないだろう
「左側に回り込む、周辺警戒」
「ラジャ」
木々の間を縫って移動する、その間ヒナのSL-9は一点を睨み付けたまま。左に100メートルほど移動して、それから前進を再開。ヒナとしてはさっさと撃って全滅させたいだろうが、そうすると部隊の存在がバレてしまう、じっと我慢してやり過ごす
『チャーリー、敵影無し。空いてるぞ』
『了解。アルファは右に進む』
右前方で足音、直後にヒナが倒れこんだ。その真似をして茂みにダイブを決め、伏せたままG36Cの照準を覗く
「2時方向…50メートル…」
絶対に動くな、ヒナが視線でそう言っている。見えてきた敵の人数は5、軍用犬を一匹引き連れており、行き先は間違いなく不時着現場。ロシアのAK-74をライセンス生産した98式歩銃を装備して森の中を走っていく。まずいかと思ったが、疑う素振りすら見せずいなくなってしまった。5秒ほど待って、ヒナが立ち上がる
「それにしても勘の鈍いワンころだ」
「ルーデルですね」
「どうしてそんなモノを装備しようと?」
「え?」
敵との遭遇が一段落した、今頃は不時着現場に集まっている事だろう。警戒しつつも普通に歩いて移動中、まもなくチャーリーも合流してくるはずだ。するとさっそくそんな質問を投げかけてしまう、ヒナの義手義足について、何気なく
「確かに医療用として通常販売されてるものより遥かに高性能だけど、…最大1.8馬力だっけ、プロレスラー級だ、年頃に見合ってない」
「……まぁ…出せるのは数秒だけどね。冷却系に欠陥があって、最大稼働すると一瞬でオーバーヒートする」
「だとしても…」
「理由は…あるっちゃあるけど…かなり苛烈よ…?」
愚劣と言いたかったのだと思われる、動揺してうっかり間違えたものと信じたい
「そんな体に核弾頭積んでるとか世界を変えたいとかそんな大それた事じゃなくて、ほんと個人的な事だから…」
比較対象を間違えてるような気もするが
だがまぁ、嫌がっているなら無理して聞き出す必要もない、元々が思い付きだ、そう思って視線を前に戻し
「セクハラ少年確保ーっ」
何時の間に回り込んだのか、ネアに両頬を引っ張られた
「無音へ近づくのやめてもらえまへん?」
「ははは、大阪府民か」
みょんみょんと引っ張ってそれから離しルカの後方へ回る。後ろには正宗もいた、やはり無音で
「すまない、癖になってるんだ」
何歳から戦場にいたらそんな癖が付くのか
「地図上ではここから1km先に街がある、まずは視認できるまで前進するぞ」
正宗が言い、いつも間にか止まっていた足を再度動かし始めた。ヒナが先頭、その後ろに付き、後方からネアと正宗
「ちなみに正宗さんはどのような理由で?」
「これしか能が無いからだ」
そんな会話が聞こえてきた
「ふふ。まぁよくある話ではありますが、それだけ重要だという事です。各々の"理由"」
ネアが続けて話題を挙げる、G36CはM320と共にセーフティーをかけられ、グリップからも手を離されて首からぶら下がった。敵地の真っ只中という現状は彼女にとってどうでもいい事らしい、指し棒でも持ってる風に右手の人差し指を振って皆の視線を集め
「人が戦う為には理由がいります、聖人君子からクズ野郎まで漏れなくね。支配浴、金銭欲、憎悪、憤怒、宗教上の対立。それから愛国心、抑圧からの開放、政権打倒エトセトラ」
「人はみんな何かを守るために戦うとか、そんな話があるけど」
「そうですね、でも守るのは自分自身です。人であれ国であれ、最終的には"自分の為"となる。結局、幸せでいたいために障害を排除するんですから」
まぁこれは極論なので気にしなくて結構、と付け足し、それからルカを指差した。表情は不敵な、いや、何か面白いものを見つけたという笑顔
「そう考えるとあなたはかなり特殊です。守るものを無くし、復讐もせず、ただぶらぶらと戦場を歩き回り『何故』と問う。握るのは銃ではなくカメラの方がよかったのでは?」
背中をつつかれて、ニヤついた顔を向き合う。怖い、よくわからないが、一瞬恐怖を感じた
「そっくりそのまま返してみましょう。何故?」
「…………」
「ふふん、まぁー答えて貰わなくとも大体わかります。頭よさそうですからね、復讐に何の意味も無い事を知っている、でもそんな綺麗事が通用しない事も理解している」
数秒黙ると、返答を待たずにネアが言い、それを聞いたヒナがピクリと反応した。正宗は相変わらず無表情のまま、黙って話を聞いている
「すべての論理を捨てられないから自分自身が酷く中途半端になる。目的も無く、利益の為にも動かない、典型的な世捨て人」
「…別に絶望してる訳じゃない」
「そう、だからこそ可能性が残っている」
最後に一瞬だけ優しい微笑みを見せ、もう一度背中をつついて離れた。それから先頭に移動して腕を振り上げる
「はいじゃあ難しい話は終わりにしまして!さっさと目的地まで行っちゃいましょう!」
「敵地で騒ぐな、位置がバレる」
「シェッス」




