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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
そのセイギは誰が為に?
19/106

3-1

この平和がずっと続くと思っていた


そりゃ普通の生活をしているとは自分でも思っていない。それでも、幸せは十分に感じていた。父と、母と、妹がいて、家柄の都合で友人は少なかったが、楽しく笑いながら過ごす。十分すぎるだろう


今日だって仕事上がり、帰国する前にニューヨークのショッピングモールに行く予定だった、家族全員で買い物を楽しむはずだった



少なくとも、1分前までは



「なんで…!」


買ったばかりのアイスクリームがべちゃりとアスファルトに落ちた。初めて見た"爆発"という現象にしばし呆然として、そこに家族がいたという事を思い出す


平和が吹き飛んだ


「なんで…ッ!!」


何故、頭にあるのはそれだけだ。集まり出した野次馬を掻き分けてそこへ向かう、ほんの少ししかないのに、果てしなく遠く感じる


現場は黒と赤で埋め尽くされていた。爆発で焦げた黒と、可燃物にまとわりついた火の赤と、ぶちまけられた赤黒い血液


「父さん!母さん!!」


ここにいるはずだ、いたはずだ。でもベンチは変形して転がっていて、笑いながら自分の帰りを待っていた家族はどこにもいない。そこはただひたすらに赤く染まっていて、人の姿などどこにも


「父さん!!レミナッ!!」


それでも見つけ出そうとして必死に辺りを見回して、別の場所を探そうと足を動かした瞬間


何かを踏んだ


最初はアイスかと思った、だが違う、アイスを落としたのはずっと先だ


「ぁ……」


ひたすらに赤い、ぶよぶよした塊。ガタガタと震える右足をどけて、それに付着した布きれを見る。白地にピンクの花柄が入った服の切れ端、それから、少々値が張りそうなペンダントの欠片


これは


妹が身につけていたモノじゃなかったか


「あ…ぁ……!」



ああ、これだ



この血と肉の塊が、ついさっきまで




























「ッ!!」


「きゃっ!」


目が覚めたら高度1万メートルの高空にいた


「あ…ごめん…うなされてたから起こしちゃったけど…」


「……いや、ありがとう、助かった」


額ににじんだ汗を拭き取りつつ窓の外を見る、雲の海、それしか見えない


現在、成田空港からロンドン空港まで中国領空を避けつつ一気に飛んでいる所だ。あの葛城財団総帥が言うには明梨の体内に核爆弾の設計図があり、安全に処分するにはロンドンの医者の所まで行かなくてはならない。それでこの状況が完全に変わるとは思えないにしても、とにかく「核は捨てた」という事実は作らなければならない。少なくとも核保有国は味方に回るはずだ、信じてくれればの話だが


それに当たってまず出てきた問題が、どうやって武装したままロンドンまで飛ぶか、だった。馬鹿正直に武器を留守番させて情報筒抜けの公共交通機関を利用しようものなら、最悪ロンドン空港ごと襲撃される可能性すらある。イギリス支部に武器を用意して貰うにしても非武装の瞬間は作りたくない、というのがラファールの主張


武器持ったまま空を飛ぶなんて飛行機まるごとチャーターするしかなく、それだと採算大赤字だ。一応、入手した通帳にはちょっとありえないほどの額が入っていたが、受け取ったのは依頼に見合った額で、他はすべて明梨に渡された。父が残した遺産だ、せいぜい大事に使って頂きたい



それじゃどうするかと悩んでいた所、問題を解決したのは明梨さんの一言



うちの旅客機、使う?



成田空港の奥から出てきたのは世界トップクラスに巨大なジェット旅客機ボーイング747、通称「ジャンボジェット」。4発ワイドボディの2階建て構造の機体は500人以上を一気に輸送することを可能とし、ロールアウト以来世界中の空を繋ぐベストセラー機である。運用開始から40年経った現在でも機体の改良、生産が続けられている



それと個人所有しているアホらしさは別だが



「嫌な夢?」


「ああうん、孤児になった瞬間を少々」


隣に座っていた明梨にそう返し、そしたら俯いて黙ってしまったのでどうしたものかと考える。話を変えようと話題を探していたら、数秒で自力復帰、気まずそうな顔をこちらに向けた


「ルカ」


「うん?」


「5年前のニューヨーク、だったっけ」


「自爆テロの話だったらそこであってるけと」


平然と答えたら幾分か気まずさが和らいだらしい、表情を普通に戻し話の続きを


「記憶違いだったら申し訳ないんだけど、あの事件の被害者は23名、そのうちイギリス人は3人だけだった。この3人があなたの家族っていうのなら」


よくそんな詳しく覚えている、テロの背景に宗教戦争があったからだろうか。詳しく言うならば場所は国連本部ビルのすぐ近く、日付は3月13日。実行犯は米国籍のアラブ系ハーフで、イスラム系団体にそそのかされて実行に至った事が判明している。中東で頻繁に発生している自爆テロとは違い特定の個人を狙ったものだった。狙われたのは、自分の父親


「ルカ・オルネイズ。当時資金力世界一だった財閥グループ総帥の息子、よね」


「当時、ね。今はもう違う」


そうだ、思い返してみれば


似すぎているのだ、境遇が


「財閥は解散して、一部は葛城うちにも取り込まれたけど。オルネイズ自身の個人資産は残ったはずよね、アメリカの国家予算を2年賄えるって噂だった規模の。そのお金はいったいどこに…」


「あーえーと…詳しくは覚えてないんだけど、とりあえず半分を赤十字に寄付して…」


「はんぶん!?」


単純に預金額だけで考えるなら、オルネイズは葛城の4倍ほどだったはず。つまり現在明梨が手にしているふざけた額の遺産2つ分がアフリカ大陸を中心に降り注いだ事になる、我ながらとんでもない金の使い方をしたものだ、16歳(当時)の思い切りは恐ろしい


「後はまぁブラジルのスラムに5億ドルくらいばらまいて…」


「いや…もういい…眩暈してきた……」


小さく溜息をついてドリンクホルダーに入れていたペットボトルを開けた。中身を一口飲んで一息つき、それから窓の外を見る、相変わらずの雲海


どれほど寝ていたかによるが、まだ飛び立って間もないはず、今は日本海の真っ只中だろう。イギリスまでは直行しても半日かかる、先は長い


「それで、その元御曹子さんがこんな仕事してるっていうのは、やっぱり復讐?」


「いや」


そう聞かれて首を横に振る。確かに主犯はまだ見つかっていない、恐らく中東のどこかにいるだろうが、ビンラディンのように米軍が本気を出さない限り探し出すのはほぼ不可能、そもそも探そうとすらしていない


「戦場に憎しみを持ち込むべきではない、それをやると歯止めが効かなくなる。現場の兵士に必要なのは平均的な戦闘力と並外れた精神力、軍隊の訓練っていうのはただ鍛えるためだけじゃないんだ」


「じゃあ…」


「"何故"と、そう聞きたい」


イラク、イスラエル、アフガニスタン。世界中を歩き回っていたのはそのためだ、テロを行うテロリスト達が、命をかけて、世界と戦う理由


「何がそうさせるのか、何の為に戦うのか、自らの命を投げ捨ててまで他人を殺めなければならない理由とは、そうまでして何を守りたいのか」


「そりゃ、宗教戦争なんだから…」


「戦場という極限状態において神ほど役立たないものはない。本当にそれを実行している一部と憎悪に支配された脱落者を除き、戦わざるを得ない人間はもっと別の理由で戦っているはず」


その彼らが何を信じているのか


何故戦わなければならないのか


「理由なんて思いつくだけでも無数にある、誰もが納得できる答えなんて無いだろうけど、少なくとも、今は探して回ってる」


それが自分の


戦う理由


























「いい雰囲気…とは言えないねぇ」


前の座席でメルが集音器を構えている


「おいデバガメ女、盗聴はそのくらいにしとけ」


「だーって気になるじゃん」


2つ隣のウィルが言いながらキシリトールガムを口に放り込んだ。機内全席禁煙、奴にとっては地獄である


「お前みたいなちんちくりんがそんな話した所で背伸びしてるようにしか見えねぇーよ」


「何をー?悩殺したげようか?」


「ハッ、成人してから出直せガキんちょ」


言い合いながらも集音器は撤収。飲みかけのグレープジュースを空にし、背もたれから身を乗り出すメル。物足りなそうな顔だ、本当ならドクターペッパーをがぶ飲みしたいのだろうが、炭酸飲料は離陸直後に爆発してしまう、到着するまで我慢して頂きたい


「で、オルネイズって?」


「ビルゲイツ100人分」


「すげーーーー!!」


子供に変な教え方をするなと手を振ってやめさせる。ああはいはい、と返して、今度は真面目に説明し始めた


「中世あたりに貴族とかだった連中の生き残りだよ。城とか財宝を国に売り払って、その金で投資をやってた。第二次大戦後から他の金持ちと手を組んで財閥を形成してる。オルネイズ、グランリエ、リトルリトル、火之内…あとひとつなんだったか…」


「よーするに金持ちって事でしょ?」


「その通り。ではヒナくん、オルネイズの資産約5兆ドル、ゼロは何個ついてる?」


「………………それは重要な事?」


「今は重要じゃないが日常においてはわりかし重要だな。後で算数の補修1時間」


下手に割り込んで自爆したヒナが食事用テーブルに突っ伏す


「つまらない話が終わったんなら巡回行ってきなさい。ヒナ、メル、下層階。シグ、後ろ」


うぇーいと3人が立ち上がって、各々サイドアームを引っ張り出す。シグがPx4、メルがM93R、ヒナはコンパクトSMGのMP7をレッグホルスターに突っ込み、コートを着てまるごと隠した、隠しきれていないがまぁよし


「これ、乗客リスト。ボディーガードもいるだろうから間違えないように」


紙束を渡す。日本にいた葛城関係者のほぼ全員、戦争から逃げ出すために乗り込んでおり、上層は閑散としているが下層はそれなりに人がいるはずだ。メルはそれをぱらぱらと眺め、最後にぱたりと閉じた


「おこづかい貰いに行こう!」


「や め な さ い」






「うおっ…!」


背後でシグが声を上げ、それから物がぶつかる音。振り返ってみると、一番後ろに座っていた正宗が見知らぬ男に肘打ちを叩き込んでいる所だった


何が起きた、と思ったが、男の右手に拳銃が握られているのを見て状況を理解、全員に戦闘準備命令を出す。その間に正宗は抵抗してきたそいつをエルボーで黙らせ拳銃を奪取、床に組み伏せて、奪った拳銃を頭に突き付けた。その時点で捕縛完了だが、状況を考えると捕虜を取っている場合ではないと思ったらしい。そのまま引き金に指をかけ、一切の迷いなく発砲



カキン


給弾不良で不発



「あははははははははははははははははははははははひはははははははははははははははははははははははは!!!!」


改めて撃ち直すのは締まりが悪いため、ネアが爆笑している間に寝技を決め本気で拘束、シグをカバーに回らせる。そちらから敵は来なかったが、反対側でヒナが発砲


「なーんだよちょっとくらいはゆっくりさせろっつーの」


「うだうだ言ってる暇があったら敵を殲滅!」


上層階のクリアを確認してから頭上の荷物入れを開放、UMPサブマシンガンを掴む。全部で3丁、ウィル、シグ、ロイに投げ渡し、今度はひとつ隣。M4とG36Cを引っ張り出した。ロイはUMPの発砲準備をしつつ正宗から拳銃を受け取り


「えー…マカロフのパチ。商品価値無しだな、廃棄」


「相手は北か?」


「こんなつまらない手を打ってくるアホは朝鮮半島くらいにしかいまい」



と、そのあたりで機体が横転を開始



「隊長ー、これハイジャックされてるぞー」


「言われなくともわかっとる!」


とにかくやるべき事は3つ。明梨の安全確保、乗客全員の救出、それからコクピットの奪還


「ウィル、ネア、ロイ、コクピットを制圧!ルカ、葛城明梨アストラエアを確保!」


「弾が…!弾がカチンて…!!ひーっ!!ふひはははははははははははははははは!!!!」


「いつまで笑ってんの!!!!」


反撃行動開始、下層への階段に向かってひた走る


「な、なんで私正義の女神アストラエア呼ばわりされてんの…!?」


「コードネームは洒落てた方が様になるし」



下の方でライフルの連射音が聞こえる、まずいかもしれない。階段を駆け降り、るのはやめて、身軽なメルを先に行かせる


指名を受けたメルが階段直前で急加速、跳躍。前方宙返りしながら下層階に突っ込んで空中でバースト射撃を2回、着地してから更に3回


「スタイリッシュクリア!」


今に始まった事ではないが心臓に悪いのでネアの真似するのはやめて頂きたい。M93Rをリロードするメルの横を抜け後部方向へ、前部はヒナに監視させ前進


真っ赤だ


『ウィルからラファールへ、これからコクピットを奪還する。そっちは?』


「あー…全員殺されてる、生存者なっ…し!!」


体を引っ込める、壁についていた電話機が弾け飛んだ


「メル!突っ込め!」


射撃が途切れた瞬間に壁から出てM4を連射する。ナイフを引き抜きながらメルが床すれすれを疾走し、敵の足下まで2秒で到達、元から赤かった座席がさらに赤くなった


「下層後部クリア!」


『オーケー、コクピットも取り返した。だがパイロットが死んでる、このままじゃ墜落だ』


「なんとかしなさいよリヒトホーフェンレッドバロン!」


『おいおいそりゃ第一次大戦中のひいじーさんの話でしかも複葉のちっぽけな…』


『あっまずい!そいつまだ生きてま…!』




銃声、破壊音、銃声、水の飛び散る音、ネアの悲鳴




『すまんスロットル折れた!!』


「だアホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


ガコンと、機首が下を向き始めた


「ちょ、ちょちょちょちょちょ!!」


『大丈夫だ!エンジン切って滑空してる!不時着まで……高度1000フィート…だと…?』




\(^o^)/




『あと30秒!!』


前部に残った敵に制圧射撃しつつ掴まれるものを探す。途中でメルがなんかカゴをかぶせてきたのでひっぱたいて壁の取っ手を掴ませる


「何これもーーーっ!!」


ヒナが叫んで



『接地ー!!』



衝撃

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