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核兵器の基礎理論は1930年代には完成し、実証実験まで終わっていた、実際に兵器として製造が始まったのは1942年のマンハッタン計画ね。世界初の核兵器が生まれたのは1945年7月16日で、数は3個。ひとつはアメリカ国内での実験に、残りふたつは実戦投入、当時敵国だった日本に落とされた。核兵器が実際に使われたのはこれが最初で最後よ、その破壊力に落とした側すら恐怖してしまったから
でも、だからといって核兵器が衰退する事はなかった。1949年に旧ソ連、1952年にイギリス、1964年に中国が核開発に成功しちゃって、お互い捨てるに捨てられなくなったし、核の撃ち合いを恐れて直接戦争することもできなくなった。これが冷戦の始まり
核兵器っていうものは存在しちゃいけない非道なものだけど、一度生まれてしまったために必要不可欠なものにもなってしまった。核を持っていれば戦争が起きない、皮肉にも、冷戦からこっち、大量破壊兵器が世界中の平和を守っているの
現在地球上にある核兵器はおよそ2万発、どうにかやりくりして少しずつ減っていってるけど、完全に無くすのは無理だと思う、少なくとも現状ではね。核を国連保有にしてそれ以外を全廃し、国連が世界中の核を監視する。実現できるとしてもこのあたりが限界
核兵器を持っていれば戦争が起きない、だからみんな核を作ろうとする。逆に先進国は優位性を保つためにそれを阻止しようとする
核の取り合い、これは平和の取り合いと言いかえる事もできる
認めたくはないけどね
「はいじゃあ明梨先生の講義が終わった所で目下の問題に移ろうか。この状況どうする?」
「どうすると言われても」
遠くで砲声が鳴っている
乗ってきたブラックホークは公園の広場に着陸、駐機してある。本当ならウラジオストクで輸送機を手配して帰ってくる予定だったのだが、一刻も早くロシア領内から脱出したかったためヘリでの日本海縦断を敢行、その後どこかの空港で給油させて貰おうと思っていたのだが
「日本はいつから戦争状態に突入したんだ?」
「情報によると宣戦布告が5時間前。相手は朝鮮連邦及び中華人民共和国で、上陸を許したのが2時間前。日米安保理に基づきアメリカ合衆国が救援を決定、両国に宣戦布告したのがつい30分前です」
ウィルの問いにヘリ内部にいるロイが答えた。ここから見えるのは砲弾やミサイル等の爆発に伴う煙、それから空戦を行うJ10とF-15J
「現在この地域全体で朝鮮・中国連合軍と自衛隊の戦闘が発生しています。数で攻め立てる敵軍に対し自衛隊はMLRSを投入、片端から撃ち込んでいますが、完全に劣勢ですね。なおアメリカ海兵隊が5分後到着予定」
つまり完全な戦争状態、戦闘ヘリなんて飛ばしていようものなら即座に撃墜されてしまうだろう、明梨さんち一歩手前まで来ているにも関わらず辿り着くことができない。だがこのまま収まるまで待っているのは危険だろう、なにせすぐそこでドンパチやっているのだ
「普通ならヘリ捨てて逃げ出す所だが…明梨先生のお父上が心配だな」
「え…?」
「ここで市街地戦やるってんならあの豪邸は重要拠点だ。自衛隊が陣取ってるならいいが、もし北に占領されてるのなら、核兵器の事もある、奴ら喉から手が出るほど核が欲しい。ってか、このタイミングだとそっちがメインか?」
「ちょ…ちょっと待ってよ!私のせい!?」
「いやそれは違う、君は恐らく人質目的で誘拐されたんだ、元凶というならむしろお父上のほう。できれば会って問いただしたい所だが…」
言いながら葛城邸のある方向を見る。完全に戦闘地域内だ、どうなっているにしろ何らかの影響を受けている事は間違いない
状況を整理する。こちらは明梨を含め9人、残った弾薬は4人分、"家"まで戻る燃料はない。明梨の父親は今回の依頼主ではあるが代金は前払いで受領済み、依頼内容とも異なるし、利益の観点から見れば助けに行く必要は
「ロイ、陸自に連絡、補給部隊回して貰って。シグ、ヒナ、メルはここに防衛線構築」
と、ラファールが言い出した
「…マジ?」
「マジよ。戦域を突破して目標地点まで向かう、占領されてるようなら制圧、その後で追加料金を貰う。何か異論は?」
これは異論を言っても無駄なパターンだ、仕方ない、G36Cのスリングを首にかける
ベストなのは明梨から依頼を貰って行動することだが、戦争反対を掲げて講演を行ってしまうような人間が、身内を助けるためにPMCを雇って人殺しをさせるなど絶対にできないだろう。その心境を理解した上での行動方針、うちの隊長は心底優しいらしい
「つー訳で、ちょっとお父さんからお金ふんだくってくるけど、邪魔はしないでね」
呆気に取られる明梨を置き去りに装備を整え直すラファール。大きく溜息を吐きながらウィルがそれに続き、途中で鳴り出した携帯電話に応答する
「おー正宗くん丁度いい所に。帰ってきてすぐで悪いが次の仕事だ、可及的速やかに合流して…」
それを聞きながら残った弾薬をマガジンポーチに突っ込み、同じ銃を使うネアにもマガジンを手渡す、それで準備は完了。目標へ向かうのはラファール、ウィル、ネア、それとルカ。他はここでヘリの確保と明梨の護衛を行う、何かあればまたフレシェット弾の花が咲くだろう
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「あ…うん…でも無理しないで、パパは…助けてほしいけど、自分の命を優先して」
「パパって呼ぶんですねうふふふっ」
「な…いいいーでしょなんて呼んだって!」
ネアの横槍が入ったため明梨との会話終了、ヘリから離れる
が、途中でヒナに引き止められる。何だと思い振り返ると、キョトンとしたような、気がかりな事があるような顔で
「れーせんて、何?」




