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「宗教!」
幼女が落ちてきた
「階段を使いなさい」
「めんどー」
手すりを乗り越え吹き抜けを落下してくる技術を習得する方が遥かに面倒臭いと思うのだが、周囲の見舞客を仰天させつつ登場したメルは両手を挙げてポーズを決め、そして何事もなかったかのように同行を始めた
「洗脳してしまえばよいのです」
「わかりやすくて結構」
「脳みそを洗い流すと書いて洗脳だよ、悪い事ばっかじゃないよ」
ネアみたいなニタニタ顔をしながら両手で自分の紫頭を指差して見せる。奴との付き合いは部隊内で二番目に長いという、子は親に似るというが
「自分と家族以外の死を悲しむのって人間しかいないんだよね、自分にまったく関係無いどっかの誰かの不幸にまで共感してしまうほど人間の脳みそって性能がいいんだ。だからヒトっていう単一種族の中でいろんな性格に枝分かれしてる」
「うん」
「でもそんなに頭が良いのに不毛な争いはやめられないよね、逆にイヌとかはやったって縄張り争いくらいだよね」
「うん」
「洗脳してしまえばよいのです」
「さっき聞いた」
病院出口に向かいつつスマホで周囲の地図を検索、目的地までだいぶある、歩いて行くとなるとどれだけかかることか。画面を見ながら顔をしかめたら、それを眺めていたメルもスマホを取り出した
「いろんな人がいるから意見の食い違いが起きて戦争にまで発展するんだよね、だったら全員の思想を統一してしまえば食い違いなんて起きないはず。最初期の宗教がどういう目的で生まれたかは知らないけど、ひとつの神様を崇拝してまったく同じ生き方をさせる構造は無駄な争いを抑えるためには最適。ただ残念だったのは、キリスト教もイスラム教も排他性が高すぎた。個人対個人の争いは抑制できたけど、団体対団体の争いをむしろ促進してしまった」
SNSアプリを立ち上げメッセージを作製、投稿。何度か繰り返し、先行しつつ手招きしてくる
「この世にたったひとつの教えしかなければ戦争なんて簡単に無くなるんだろうけど、個体ごとに違う信条を持てるよう進化しちゃったからね。もはや不干渉を貫くしか手はない」
メルは自動ドアをくぐって外に出た。後を追うと駐車場の方へ向かっていく
「今のシステムを維持したままその”不干渉”っていうのを達成したい場合、全人類が苦しんでる人を見てもなんとも思わないようなドSになるか、逆に自分を差し置いて豪遊してる人を見てもなんとも思わないようなドMになるかしかないんだけど」
駐車場の真ん中で立ち上がり、ピッと前方を指差す
やたらやかましいエンジン音が聞こえてきて
「でもそんな冷めきった世界は、誰も望んじゃいないよね」
真っ白なトヨタセリカがスピンしながら現れ目の前で停車した




