13-2
「金と暴力」
と、ベッドの横でネアが即答した。その手元では果物ナイフが踊り、足元のゴミ箱ではまったく途切れていないリンゴの皮(幅1センチ均一)がとぐろを巻いている
「怪我人にリンゴ食べさせてどうすんの……」
「細かい事は気にしなさんな」
頂点から底辺まで一度も分断される事のなかった皮がぽとりと落ちる。次に赤い部分の無くなったリンゴをいきなり放り投げたかと思ったら、真っ二つになって落ちてきた
「世界中を平和で包み込みたい、実に立派な考えではありますが、つまるところは明梨さん個人の”願い”でしかない」
空中カットを何回か繰り返し、皿の上に散らばった8等分リンゴをベッドのテーブルに置く。ベッドの上の正宗はまじまじとネアを見つめ、芯が付いたままのそれを指差す
「おい」
「あ、ここって食べねーの?」
何故知らない
「自分の主張を押し通す時、そこには少なからず”力”が必要になる。ましてや世界平和といったらそれはそれは強大な力が必要だ。そんな力を現実的に発揮するとしたら、それは金と暴力になる」
「世界征服とどう違うのよ」
「何も違いはありません。嫌がる連中を組み伏せて強要して、そんな状態が100年も続けば誰も疑問を抱かなくなる。歴史の巡りってのはその繰り返しだ」
「でも……」
「世界平和なんて毛ほども望んでない人間もいる、そしてその人数はかなり多い、まずこの事実を自覚すべきです。何度も運動が起きて何度も話し合いをしていくつも法律が作られても人種差別が無くならないように、感情だけでは何も変わらない」
以上、次どうぞ。言いながら芯を取り終えた最後のリンゴを皿に置く。改めて、と思ったら自分で食べ出した、正宗さん目をひん剥く
「…………俺はずっと戦場にいる、紛争地帯で子供を産んだ母が幸福を口にした事もあった。この人外の言い分と被るが、人はどんな状況にも慣れてしまう、だから俺には平和という状況が何なのか、もうわからない」
「つっまんねーなぁ」
「全人類がお前ほど愉快な頭をしていたら人類は既に滅亡している」
それだけ言って正宗は黙ってしまった。少し溜息をつき、まぁまぁとリンゴを差し出される、いいから正宗に食わせてやれ
「生粋の兵士に聞くもんじゃありませんでしたね。…あぁそうだ」
ネアはいきなりベッドを回り込んで窓を開けた。ざっと外を見回し、ある一点を指差す
「あそこの遊園地、見えます?」
「見えるけど」
「行ってみてください」
にやりと笑うネア、何故行かねばならないのかは言わず、代わりに
「考え続けろ、例え答えの無い問いでも」




