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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
待ち望んだ望まれぬ事
100/106

12-6

「ひぃっ!」


少々の雑談をして、全員配られたカップを空にした頃、メルが玄関方向を見ながら悲鳴を上げた。なんだなんだと振り返ると、銀髪の女の子がラファールを引きずって廊下を歩いている所だった。肩に届かない長さの髪は前髪だけが両目を隠すほどに伸ばされ表情が確認できない、根暗な子なのかな、と思うが、着ているシャツにはポップなイラストと共にこう書いてあった


fancy girl


「……」


廊下を渡りきったファンシーガール、無言無表情のまま室内を見回し、抱えていたラファールをソファの端にドロップ、廊下に戻っていった


「隊長?」


「黄金比率は大事……」


「駄目だこりゃ」


復活の兆しを見せないのを見てウィルがヒナへ指示、ラファールを小脇に抱え、腰に巻きついてガタガタ震えているメルと共に廊下へリターンしていく


「そちらが隊長だったんだな」


「残念なことに」


それが見えなくなってからウィルは携帯電話を取り出しながら紙を要求する。渡されたメモ用紙に電話番号とホテルの名前を記入し仁美に差し出した


「部隊はそこで待機します、何かあれば連絡を」


「ああ、あれやこれや世話になった」


ラファールに代わり撤収指示、各々がカップを返却し応接室から出ていって、かなりわざとらしく見送りとしてミソラも付いていく。リラックスしきっており兵隊のような機敏さは無かったが統率は取れていた、数秒のうちに玄関を通り、室内に残ったのは仁美


とオレンジ


「さて……」


「…………」


玄関でドアがパタリと閉まったのを聞いてネアはソファに座り直す。苦笑い、引きつり笑い、と続いた表情は不敵な笑みへ進化しており、対する仁美もそうなるのが当然の如く座ったまま。そのまま数秒、まずネアが口を開く


前に屈んで、覗き込むように


「あなたはどちらですか?」


「阪神」


テーブルにオレンジ色の頭が墜落した。空のティーカップがガチャガチャと音を立て、それが鳴り止まぬうちにネアは頭を上げ、引きつり笑みに退化した顔をぐいっと近付ける


「野球の話はしていない」


「そうか、ではそうだな、カトリックだ」


「違う」


「醤油」


「目玉焼きは忘れて」


「たけのこ」


「だぁぁぁぁっ!!!!」


テーブルをぶっ叩く、またカップが鳴り響く。ここまで苛立ちを覚えさせられる相手はそうそういない、それ故に耐性がないようである


「真面目にいきましょう、真面目に」


「なんだ人が場を和ませようとふざけているのに」


「ふ、ざ、け、る、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「唾が飛ぶ!」


勢いよくソファに戻り、絶叫で乱れた呼吸を整える。溜息をつきながら仁美は立ち上がり、部屋の端にあったタブレットPCを手に取った


「ずいぶん変わったようでまったく変わってないんだな、EAー1」


「……」


「私はEAー5までの設計主任を担当していたが、あの子らが失敗作と判断された時点で私はメンバーから外されている、限定的な情報しか持っていないぞ」


ネアに差し出すようにそれを机に置く。ボタンを押すと起動準備を始め、その間に仁美は座り直す


「外された?」


「寿命を最優先したのが気に入らなかったらしいな、あの子らはお前の2倍は生きるぞ」


「そりゃいい」


タブレットが立ち上がった


「まぁそんな事はいい、私が提供できる情報はひとつだけで、今言ったように限定的だ。それを最初に理解しろ」


尋問する気はないから安心して、と言っている間にPDFファイルを開いて見せる。2、3ページ飛ばした先に写真が貼ってあった、写っているのは銃を持った女の子


「EAー6」


身長と体格から察するに小学校高学年程度、淡く青の混ざった空色の髪は三つ編みにされ腰の下まで伸びている。誰の趣味だか知らないがタンクトップをインナーに髪と似た色のキャミソールワンピースを着せられており、そこらへんのお子様と大差は無い。青い髪と、ミミ以上に表情の死んだ顔以外は


「説明に移る前に整理するぞ。まずナンバリングすらしてもらえなかった実験体群があって、その成果が1号であるお前だ。その後お前の暴走によりふりだしに戻る、それと、阿保なスポンサーと、未熟な私のせいで2人も人間以下の哀れな存在を生んだ」


しかし、このロリコンが作ったアニメキャラみたいな外観はなんなのか。成長段階などいくらでもすっとばせるだろうに、ここまで未成熟だと支障がでるはずである。戦闘力としても、本来の目的としても


「当初の計画とは既に変質してしまっている、6年も外で戦いながら暮らせばお前も理解しただろう。いくら遺伝子を書き換えたところで人の枠組みから外れる事は出来ないし、お前達以上の能力を持つ自然個体も一定数存在する」


「まぁ、確信したのはつい最近ですけど」


「いまスポンサーが求めているのは安く、早く、とにかく強い戦闘用個体だ。生殖能力だとか、卵子の生産数だとか、そんな生々しい事はもういい、だから寿命を気にする必要もない」


つまり生きていられる時間が短い、成長の早送りを途中でやめざるを得なかった。という事なのか


「この幼女がそんな戦闘マシーンのようには見えないだろうが、もし人間として生きるためのすべてを諦めているなら」


資料をざっと眺めさせ、ディスプレイを切ってネアにタブレットを持たせる。後は帰って見ろ


「お前達3人が束になっても勝利は難しいだろう、私がいた頃でもそのくらいはできた」


「…………何か対処法は?」


「正面から戦って処分するのは諦めろ、ミサイルを撃ち込むとか、大量のC4を使うとか、そのくらいが現実的だ」


と、いきなり仁美は立ち上がった。応接室の奥に消え、すぐにまた現れる。右手には外付けハードディスクが握られていて、タブレットと同じくテーブルに置いた


「そういえばこんなものがあった、あまり現実的ではないが……それに人間1人の人格データが入ってる」


「人格?」


「命令を実行するだけの人形でいいといったって最低限のソフトウェアは必要だ、脳に情報をインストールするための装置は必ず残されている。それを使って脳の中身を上書きしてやれば、そいつはただの人間に成り果てる」


「人間、ね」


「人間の定義を満たす、という意味だ。自分の意思を持ったからって寿命は伸びないしお前の味方になる保証もない。だが救い出せる可能性があるなら、できれば模索をしてほしい」


少し沈黙、ハードディスクを眺めた後、それとタブレットを持ってネアは立ち上がった。外で喧騒がする、皆はまだ庭にいるようだ


「……それをお前に渡すとは思ってなかった。…いや、渡さない努力をした、だろうか」


ピタリと、廊下に向かう体を止めた


「私としては、今少しまずい状態になっている」


じっと仁美を見て、その言葉の意味を理解するのに数秒、短く息を吐く


「ああ、明梨さんの情報、流出させたのあなたでしたか」


「そうだな。来て欲しくなかった、と言えばそれまでだ。意味わかるか?」


「だいたいは」


「なら備えろ」


それが本当に最後、振り返らずに廊下を渡り切って玄関を抜ける。庭に出ると、全員が待っていた


「何してたの?」


「え?あーいやちょっと、トイレ!トイレに!」

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