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ワールドリファイン  作者: 春ノ嶺
It Restart
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1-1

「民間軍事企業『VLIC』日本支部、第666小隊。滅多に使わないけど覚えておいて」


人ごみの多い劇場の廊下を歩きながら前を行く女性が言う。腰まで伸びたクセ混じりの髪は透き通った金色で、だが肌には少々黄色が混じっている、ヨーロッパ人とアジア人のハーフだろうか。服装はどこにでもあるような私服、カーゴパンツとTシャツの上に白のパーカーを羽織っていて、少し小さめのバッグを肩から提げている、特筆すべきといえばパーカーの下にホルスターが入っている程度


「あなたには今日付けでこの部隊の指揮下に入ってもらう、仕事の内容がてんでばらばらだから、一概に何をやれとは言えないわね」


角を曲がってスタッフオンリーの帯を越えた。奥には扉がひとつあり、やはり関係者以外立入禁止の文字


「とりあえず今回の内容は、とある人物の周辺警護。何もなければ立ってるだけで終わりだけど…」


扉の中へ


所々に段ボールの積み上げられた通路、人の話し声は一気に無くなった


「もしバカな事しようと考えてる奴がいたら、それなりに働いて貰う」


扉が完全に閉まってから女性が立ち止まり、バッグから拳銃を一丁、予備弾倉と一緒に取り出した


Px4、イタリアのベレッタ社が開発した自動拳銃である。フレームがポリマーというプラスチック素材で作られており、重量800g程度、弾倉には9mmパラベラム弾が17発入る


それをダウンのポケットに突っ込み武装完了、改めて通路の奥に向かう


「名前は……確かルカ、そうルカ・オルネイズだったわね。戦闘中の聞き間違いを防ぐためにコールサインっていうあだ名を付けるんだけど、その名前ならいらなそうね、戦闘中もルカって呼ぶ」


もう一度角を曲がり、準備室と書かれた扉を見つけた。役者などが待機する場所だ、舞台裏と直結している


「それで今回なんだけどね。やる事はただの警備なんだけどちょっと問題があって」



扉を開けた途端、大声で話す女性の声が耳に突き刺さった



「だからそんなものいらないって何度も言ってるじゃない!」


「確かにその旨は何度も聞きましたが、既に代金は頂いていますので仕事をしない訳には」


「ああもう…!パパったら何でこんなに心配性なのかしら…!」


まず怒り気味の女性、灰色のスーツをきっちり着こなしており、年齢は恐らく18から19、茶色っぽい長髪に髪留めを使ってテールを1本右後頭部から伸ばしている


そしてそれをなだめる男性、完全にヨーロッパ系の顔でやはり金髪、ジーパンと長袖シャツに、左手でホルスターを弄んでいる。中に入っているのはさっき渡されたものと同じPx4


「だいたい!武装警備なんて必要だと思ってるの!?ここ日本よ!?平和国家代表の!!」


「それは2年前の話ですね、銃刀法は既に改正されてます。まだ浸透していないとはいえ100人に1人は火器を持ってますし、何よりそうなった理由は治安の悪化にあります」


「ぅ……いやだとしても!」




そこまで会話を聞いた所で隣の女性が溜め息、到着する前に説得されている事を期待していたらしい


「今日ここで何やるか知ってる?『非暴力世界創造の会』なんて団体の集会よ」


なるほど


つまりあの子は、死ぬほど武器が嫌いなのだ


会話から察するに依頼人は父親、本人に知らせず手配してしまったのか、まぁあの様子では知らせたら依頼させてくれなかっただろうが。普通の警備員ではなくPMC(民間軍事企業)を雇ったのはそういう理由か、制服らしい制服が存在しないため私服で仕事できるからだ、警備員と比べ格段に目立たない



「じゃあこうしましょう。装備するのはこういう小物だけ、民間人と大差ありません。講演が終わるまで場内を巡回して、終わったらすぐ撤収します」


「ーーっ…!何もしないですぐ帰ってよね!?」


有事の際には色々しますがー、という返事を無視しつつ舞台裏に消えていく。男性はヒュウと口を鳴らしてホルスターを腰のベルトへ



「……それが新人?」


「ええ、コールサインはルカで」


男性に歩み寄る。その間に彼はタバコを1本取り出して火をつけた、白い煙が舞い上がる


「はじめましてルカくん、俺はウォルト・F・リヒトホーフェン、普段はウィルと呼んでくれ」


「どうも」


さっきからずっと黙りっぱなしだったので変な声が出た。差し出された手を握り、すぐに離す


「じゃあさっそくだが客席の警備に当たってくれ、ほら通信機」


通信機というかトランシーバーに近い、手の平サイズのそれに普通のイヤホンが装着され、端から見ればただの音楽プレーヤー、通信しているようには見えない。しかし外観とは裏腹に高性能で、24時間の連続使用、通信暗号化対応、そしてなんといっても双方向通信可能な点だ。サーバー役を務める親機が若干大柄となるが、これは子機なのでポケットに軽く収まる


「客席にお前達2人、正面玄関に1人、俺はここらを見回る。劇場内はそれでいいか?」


「特に異論は」


「オーケー、じゃあ状況開始だ。ヒナ、メルを連れて狙撃ポイントまで上がれ」


その無線機に向かってウィルが指示を出し始めた。だが、いきなり狙撃


「使うのは小物だけって言ってたけど」


「拳銃だけで仕事ができるか、バレないようにやるんだよ」


はいGO、と言われ準備室を後にする。客席には今来た道をずっと戻って、2階からホールに入る必要がある。それなりに大きい劇場だ、500人は入るだろう。つまり、あの子は有名人だという事だ、少なくともこの業界では


葛城明梨かつらぎあかり、葛城財団ってとこのお嬢様よ。何をトチ狂ったのか平和なんて説くようになっちゃったけど」


「その財団って健全?」


「概ねは、少し前まで軍需産業にも手出してたけど今は撤退してるはず……って…」



スタッフオンリーを抜けて騒音の中に戻ると、観客が高齢者ばかりな事に気がついた。こんな集会に若者は来ないという事はわかりきっているが、この団体、あと数年の命だろう


そう考えていると先行する女性が立ち止まる。回転して、体の正面をこちらへ



「私自身の自己紹介がまだだったわね。666小隊隊長、天宮疾風、コールサインはラファール。これからよろしく」


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