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焦りと難敵と流れ星と


今から10年前の話。ランドベルグが〝騎士の町〟と呼ばれるには理由がある。ランドベルグは南をケリアの森、西をフォーム海、東をゲリオ山脈と三方向を自然に囲まれている。30年前、突如として未知の生物が確認されるようになった。既存の生物よりはるかに強く、巨大で凶暴なその生物たちを便宜上『魔獣』と名付けた。

 魔獣たちはあらゆる物を食べる〝超〟雑食なのだが、森にある食料だけでは次第に足りなくなっていった。そうして腹を空かした魔獣たちは餌を求めてランドベルグの町を襲うようになる。もともとは商いの町だったランドベルグは、魔獣の被害を最も受けた。当時の国王は騎士を派遣し、ランドベルグの町を守護するようになる。

 それからだ。自然と騎士が増え、ランドベルグに住む人々と結婚し、家庭を作り、新たに生まれる子供たちは親の背中を見て憧れ、騎士を目指す。次第に、人々はランドベルグの町をこう呼ぶようになる。〝騎士の町〟、と―――――。







「もともと、この町は魔獣に襲われやすい町だったが、10年前、今までの例に無い魔獣の大群がこの町を襲った。その時、コイツは最後まで生き残った魔獣だ。当時の私では歯が立たなく、仕方がないから崖に落として封印することになった。しかし、奴は生きていた。こうして現れたのも、おそらく私と決着をつけるためだろう」


「おいおい、魔獣がそんな殊勝なこと、考えると思うか?ただ単に、ここに出てきただけかもしれないだろ?」


「わざわざ、町の中心にか?それこそ、俄かには信じられんな」


「そりゃそうだが…」


 俺とセイビスは言葉を交えながらオルハリコン・ゴーレムの猛攻を避けていた。超硬質の岩石で身を固めた体はその密度ゆえかどう見積もっても動きは緩慢かつ直線的で、つい先ほどまで高速戦闘をしていた二人にとっては止まっているように見えた。

 しかし、その身を護る岩石が何よりも二人の斬撃を阻む。俺はともかくとして国でも随一の実力を持ち、〝最強の騎士〟と謳われるセイビスをもってしてもオルハリコン・ゴーレムの堅牢な肉体を穿つことは出来なかった。


 何度も何度も斬撃を喰らわせる。しかし、どのような攻撃をしても、どこに攻撃しても、まるでダメージが入らなかった。ナイフはすぐに刃こぼれやひびが入って使い物にならなくなり、『赤兎馬』の斬撃でも嫌な音を放つばかりで傷が付くことすらない。

 俺のナイフと違って刃こぼれすら起こさないのはひとえにセイビスの卓越した技術と『赤兎馬』故なのだろうが、そのことに俺はフラストレーションを溜めずににはいられなかった。

 しかし、俺は超高密度に圧縮された岩石の肉体を傷つける方法を知っていた。昔、とある人物から聞いたことを思い出したのだ。『ダイヤモンドっつーのはよ、自然界でも有数の硬度を持つ鉱物だ。魔物中にゃあそれ以上堅いって奴がいるが、これを壊すことは意外と容易いんだ。それはよ、衝撃だ。堅い物ほど、衝撃には弱い。柔軟性が無いってわけだな。だから、もしメチャクチャ堅い物を壊そうと思った時は別の、出来れば壊そうとしている物よりも硬い物を思いっきりぶつけてやればいい』

 だが、そんなものはどこにも無い。


「出来れば、その堅い物を得る手段の方を教えて欲しかったね!」


『ゴオオオオオ!!』


 岩石で構成された丸太ほどもある腕をブン回し、あたりかまわず破壊を繰り返す。しかし、オルハリコン・ゴーレムの攻撃は、どんなに腕を突き出しても二人には当たらない。俺はちらりとセイビスの方を窺った。俺もセイビスも一見余裕のように見えるが、膠着状態が続く中、圧倒的に不利なのは俺たちの方だ。オルハリコン・ゴーレムは攻撃を当てれないが、反撃を食らってもダメージはない。

 しかし、俺たちはそうはいかない。今のところ、オルハリコン・ゴーレムの攻撃を完全に避けているが、かすりでもしたらそれだけで致命傷だ。そうでなくとも、二人ともさっきまでの戦いで少なくない量の血を流している。時間とともに削れていく体力と精神力。力尽きるのは時間の問題だった。


 と、オルハリコン・ゴーレムの攻撃を避けた所で俺は足を縺れさせて転んでしまった。どうやらついに疲労が限界まで溜まってしまったらしい。

「くそっ」

 俺は舌打ちをしながら何とか立ち上がろうともがいたが、顔を上げると目の前まで迫りくる岩石の拳が両目をとらえた。ついに俺も終わりか――そう脳裏によぎった瞬間、ゴーレムの足元が輝き、地面が盛り上がる。足を掬われる形になったゴーレムは、たまらずそのばでズシィィン…!!と、地面を揺らしながら倒れた。思わず背後を振り返るとそこには――――地面に拳を突き下ろした体勢から立ち上がるアリシアの姿だった。




「間に合ったみたいね」

 

 そう微笑みながら、私は戦線の輪に加わったぽかんと私を見つめるリューにどうだ、と胸を張って見せる。てっきりお礼の言葉が来ると思っていたけれど、帰ってきたのは怒りに震えた声だった。


「助けるんだったら早く助けに来い、バカ!おかげで死ぬとこだったじゃねぇか!!」


「なっ…!助けてもらったのにその態度はないんじゃないの!?そもそも、助けようにも地面が石で舗装されてたんだから無理に決まってるじゃない!!あたしのアルケニウムは土にしか対応できないの知ってるでしょ!!」


「それとこれとは話が別だろうが!ぶん殴るなりなんなりやりようはあったじゃねーか!」


「何それ!乙女に対してぶん殴れなんてデリカシー無いんじゃないの!?」


「ンだとコラ、ケンカ売ってんのか!?」


「て言うか普通そこはお礼を言うのが常識でしょ!」


 睨みあう私とリュー。そこにセイビスから爆弾発言(?)が投じられる。


「おい、そこのバカップル」


「「違うわ!!!!!!!」」


 不本意ながら揃って声を上げてしまい再び睨み合いが始まった。


「ケンカするのは良いが、もうすぐゴーレムが立ち上がる。それまでにどう奴を倒すか考えるぞ」


「でもよ、考えるったって、どーすんだよ。アイツより固くて、打撃を与える手段なんてそう無いだろーが!」


 どんな攻撃をしても弾かれてしまう。それでは倒せない。リューは悔しそうに唇を噛みしめる。私は少し考えた後思いついたことを言うために口を開いた。


「あるよ」


「「は?」」


「だから、あるの。アイツを倒す方法が。たった一つだけ、ある」





 ズシン…。と音を立ててオルハリコン・ゴーレムは立ち上がった。足を取られてしまったが、何の問題もない。何より、人間たちには自分を傷つける術は無いのだ。このまま押し続ければ勝てる、と本能的に理解していた。つい先ほどから、妙な感覚が体を包んでいる。

 何故か力が満ちてくる…。これなら、10年前、自分をこの谷底へと落とした男に勝てる、と思った。穴を掘り、男がいるであろう所に、本能だけを頼りに掘り進む。そして、目の前に現れたのだ、とそこで、人間たちが妙なことをしているのに気が付いた。女が一人残り、男二人がこちらに向かって来る。女のほうならともかく、男が二人来たところで意味はない。このまま押しつぶそうと腕で殴りつけるのを再開する。

 と、そこで女が拳を地面に付け、青白い稲妻が溢れる。先程の比じゃない輝きに、ゾクリ、と本能が危険を訴える。アレハ危険だ、と本能が最大で警鐘を鳴らす。


『グオオオオ!!』


 危険を排除しようと、腕を振り上げた。しかし、男たちがその場から動かないように邪魔をする。どんどん高まる危機感に、次第にオルハリコン・ゴーレムは無茶苦茶に暴れ始めた。




「ちっ、気が付いたのか!?」


「どうやら、本能的に危険を感じとっているようだな」

 リューとセイビスは傷が痛む体を必死に動かしてオルハリコン・ゴーレムの動きを封じとめる。


「早くしろよ…。頼むぜ、アリシア」


 私はは目を閉じて、必死に錬金術のコントロールをしていた。この技は、錬金術を教えてくれた旅人(ウォーカー)がやっていたことを真似ているだけだ。試したことは一度もない。しかし、私ならやれる、と思っていた。いや、やるしかないのだ。魂威を消費すればするほど、錬金術の規模も大きくなる。その証拠に、錬金術を行う際に出る反応光が凄まじい勢いで迸っている。

 一定のラインまで魂威を消費したその瞬間、私は目を見開いた。右拳に錬成物を持ってきて、意識を集中する。一気に高まったエネルギーを、オルハリコン・ゴーレムに叩き付けんと構えた。


「どいて!二人とも!!」


 私の声で、オルハリコン・ゴーレムから離れる。

 

 オルハリコン・ゴーレムが見たのは、巨大な青白い火花を散らす物を、右拳に構える少女。私は二人が離れたのを見て、一気に右拳に集まるエネルギーを解放する。

 ボバッッッ!!!!と、爆音をまき散らしながら放たれる一撃。大質量の土を一点に超圧縮し、何度も何度も圧縮を繰り返す。拳ほどの大きさに小さくなった土の塊は、一直線にオルハリコン・ゴーレムに向かう。錬金術によって高速に放たれたそれは、真っ赤に染まった。



 まるで、ミニチュアの太陽のように。




明けの明星(モーニング・スター)!!」




 ズドオオオオオオ……ン!!と、重い音を響かせ、土煙が舞う。


「やったか…?」


 固唾を呑んで見守る三人。やがて晴れていく土煙の中、仁王立ちをするオルハリコン・ゴーレムが現れる。



 ピシッ、ピシピシピシッ




 細かく音が漏れ、そして、





 ガラガラガラと、崩れていくオルハリコン・ゴーレムの姿。

 最後には、巨人だったモノの瓦礫の山だけがその場に残った。



編集 3/05

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