アリシアと記憶と旅の始まり
これから本格的に物語が始まります。
イースラン大陸南部、ケリア。ここの主な特産品はアリマロの樹だ。大陸各地で群生しているが、温暖な気候のおかげでこの地で採れる樹は非常に上質で、高級な木材製品の材料として使われることで有名な町だ。
ケリアに住んでいる人の大半は木こりとして生計を立てていて、森に入ると何かと危険が多い。例えば、金目の物を狙う盗賊だったり、腹を空かせた森に住む生き物たちだったりだ。今回あたしが捕まえた盗賊たちもその例に漏れず、この辺りでは有名だったらしい。
「いやー、リィちゃんお手柄ねぇ。捕まえてくれた盗賊たちってここらではそれなりに有名だったのねぇ。町のみんなも迷惑してたのよ。ありがとね」
「いや~、たまたまですよぅ、アンナさん」
照れちゃいますよ。
あたしの名前はアリシア・カーバンクル。三年前からここ、ケリアに住んでいる。というのも、実はあたしには三年より前の記憶が無い。記憶喪失というやつだ。何でも三年前。突然現れた男の人にあたしはこの町に預けられた。最初は自分に記憶がないことにだいぶ混乱して、町のみんなには八つ当たりをしてしまったりした。何とか落ち着いたのは一か月が経ったあたりで、自分について考えて過ごした。さらに一週間。あたしは決心した。自分の記憶を取り戻す旅に出ることを。
お医者さんの話では何でも、あたしの記憶喪失は精神的なものらしくて、何か無意識下に覚えている景色を見たら思い出すかもしれないとのこと。
というわけで、旅に出るために最初の一年は基礎体力と体術を元旅人であり、現旅人協会看板受付であるアンナさんの元修行を重ねた。その後二年はがむしゃらに依頼をこなしていった。
ちなみに旅人とは、今から遡ること150年前。今でこそ、イースラン大陸全体で一つの国家だけど、当時は多数の国家が乱立し、戦争も行われていたそうで、ある国の放蕩王子が閉じられた城の世界より、城の外の世界の刺激を欲して城を飛び出し、旅に出てしまったそうだ。身分を隠し、一人旅をして大陸中を渡り歩いた
王子は旅を続けるうちに、他国の人間が敵ではなく、共に生きている人間だと気が付き、王子は同じ思いを持つ同志を集めて国に戻り、旅で見てきたことを父である国王に告げ、今の状態がいかに愚かなことかを諭した。
国王は王子の言葉に心を打たれ、各国の王たちと話し合い、戦争は無くなり、一つの国として生まれ変わり、王子は新しい国の王になった。この時、旅の途中で様々な人たちからの恩を返すために一つの組織を作り出した。それが、旅人協会。らしい。
まぁ旅人はそのまんま旅人であり、ぶっちゃけ誰にでもなれる。ようするに、旅人協会は各地の人々の依頼を斡旋する場所であり、別に大層な組織ではない。つまりは、「お互い利益があるんだから、助け合いましょうね?」というだけであり、旅人にとっては資金集めの場、依頼する人々にとっては厄介ごとを金を払うことで解決してもらう場、ぐらいの認識だ。もちろん、人助けのため旅人になるお人好しもいるとはアンナさんの弁。
「それにしても早いものねぇ、リィちゃんがこの村に来て3年が経つのね」
「来た、ていうか、連れてこられた、ていうほうが正しいけどね」
まぁ、ここにこれたことはすごい幸運だと思っているけど…恥ずかしいから口には出さないけどね。
「はい、今回の依頼の報酬と盗賊を捕まえたボーナス。…これで、目標の金額は達成。一人だけで盗賊たちを倒せるだけの実力もある。…そろそろ、旅にでるの?」
「…うん、明日には出発する」
「…そう、寂しくなるわね…」
アンナさんはふぅ、とため息をついて、そして優しく微笑った。
「でもね、これだけは忘れないで頂戴。疲れたら、いつでもここに戻ってきても良いのよ。だって、ここはあなたの故郷なんですもの」
「……うん」
あたしは、涙腺が緩むのを感じて顔を伏せた。涙は見られたくないからね。
――――次の日
ケリア支部のまえには、人だかりができていた。村中の人たちがあたしの見送りに来てくれたんだ。
「頑張れよ!」「ちゃんといいメシ食えよ!」「怪我すんな」「いつでも帰って来て良いからな!」
思いおもいに声をかけるみんな。
あたしは、森へと続く道を駆け出した。
「それじゃぁ、行ってくる!!」
「「「「「いってらっしゃい!!!!!!」」」
こうしてあたしの記憶と、この国の秘密をめぐる旅は始まった。
書き直し第一弾です。これからちょくちょく書き直していきますが、恐ろしく不定期になりそうです…。