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017


 それは、一瞬の出来事だった。

 

「やめろ!!」

 リューは必死に手を伸ばす。

 目の前にアリシアがいるのに、数歩の距離が無限に感じられた。

 (畜生…!また、オレはあの時(・・・)を繰り返すのか…!?)


 (しまった!!)

 ラトーは一瞬の気の緩みを悔やんだ。自分がエスラよりも強いと油断したから。また一人犠牲者を出してしまうと。


 ムゥはその瞬間を、正しく目にすることはできなかった。強かに頬を殴られ、床に這いつくばっている。

 (畜生…!畜生…!)


「もう遅い!!」

 エスラは優越感に浸っていた。待ちわびていた瞬間が、やっとやって来ると。


 アリシアは、エスラの手から逃れようと必死にもがいた。

 (いやだ…!あたしは、まだ記憶を全部思い出してないんだ…!)


 グシャッ


「グ…ハッ…!?」


 ビチャビチャッ


 なにか、湿っぽいモノが落ちる音が辺りに響いた。それは、辺り一面に真っ赤な花弁をまき散らす。

 そして、檻の中から、ズシッズシッと、重量感ある足音が。

「ど、うし…てっ」

 エスラの口から、腹から、夥しい量の血が噴水のようにこぼれ出る。

 力の抜けたエスラの腕から、アリシアはストン、と床に落ちる。両手を後ろに着いた体勢から、上を仰ぎ見る。エスラの腹から生えた、血に塗れた牙を。

「ふぁ~。よく寝た。しかし、マッズイ血だなぁオイ。噛み殺すぞ?」

 そのまま、エスラをプッと吐き出す。のしり、のしりと歩き、天井に向けて首を反らすと、


「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」


 ビリビリビリ!!と、空気が、空間が揺れた。あまりの凄まじさに、周囲の床や壁が捲れ上がる。

 遠吠えに満足したのか、銀色の獣は口を開いた。

「まぁ、目覚めにしちゃ上々だ。で?アイツはどこ行きやがった?オレ様を無理やり眠らせたクソ野郎は」

 じろり、と周りを見回す目は明らかに誰かを探していた。

「な…ぜだ…」

「んん?」

 神獣は声のした方へと首を回す。そこには、腹を貫かれたエスラがいた。

「何で…オレを…?」

「あぁ、まだ息があったか。お前を狙った理由?さぁ、知らねぇよ。一番近かったからじゃねえの?」

「な…ん」

「あぁもういいよオマエ。五月蝿せぇよ」

 グシャリ。ハエを潰すのとなんら変わらない動作で踏みつぶす。何人もの人間を殺したエスラの、あっけない最期だった。

「で、アイツはどこ行きやがった?」

「お前、神獣、なのか?」

 リューは目の前の光景にひるむことなく、質問した。

「あぁ?神獣?オレ様はそんな御大層なモンじゃあねぇぜ?」

「あんたは神獣だから、そこに封印されてたんじゃないのか?」

「封印?」

 リューの言葉に疑問を持ったのか、自分がいた檻を振り向く。それを見て、神獣は何かに納得したのか肯いた。

「成る程、な。オレ様は長い間ここに〝封印〟されていたワケだ。しゃらくさい」

 再び前を向き、こちらを睨むリューと相対する。

「で、どのくらいオレ様は封印されていたんだ?」

「知るかよ、そんなこと」

「そりゃそうだ」

 クックッ、と神獣は口元を歪めた。

「ある程度情報も手に入れたし、腹ごしらえするか。うまそうな(・・・・・)モンもあることだしな」

 神獣はクルリと振り向き、未だに床にしゃがみ込んでいるアリシアを見る。

「え…」

いただきます(・・・・・・)

 ガバ、と口を開けた。


「え…」

 目の前に真っ暗な空間が迫る。アリシアに届こうかとしたその時、二人の影が神獣に躍りかかった。

 リューとムゥだ。

 リューは血染めの淑女(ブラッディ・マリー)で強化した鉄の拳で正拳突きを放ち、ムゥはメイスを思い切り振り下ろす。

「うっとおしい!!」

 しかし、二人の攻撃は首の一振りで薙ぎ払われる。

「ちっ」

「グッ」

 神獣は二人を退けたのをみて、アリシアがいる方へ視線を向ける。しかし、そこにはもうアリシアの姿はなかった。

「ああ?」

 辺りを見渡して、アリシアの姿を探す。自分の後ろに、ラトーに抱えられている姿を見つけた。

「ナイスだ、オッサン!!」

「あ、ありがとう」

「む…」

 神獣はギリッと歯を噛みしめ、

「ナめてんじゃねぇぞクソガキ共がああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 アリシア達に飛び掛かる。

 ラトーは腕からアリシアを下し、真正面から神獣を受け止める。

 

 ズン!!


 重量感のある音が響き渡る。一進一退するラトーと神獣。アリシアは悔しさに唇を噛んだ。ここには、土はない。アリシアの錬金石の系統は土。岩では錬金術を使うことはできない。

「オッサン!!退け!」

 そこにリューの声が響いた。アリシアは声の方向に目を向け――――驚きで目を見開いた。そこには、直径2メートルはあろうかという鉄球があった。目をこらすと、檻が跡形もなくなっている。そう、鉄製の(・・・)檻だ。リューの血染めの淑女は、鉄を操ることができる。

「オラァァッ!!」

 リューは鎖の付いた鉄球を錬金術を使って神獣へとぶつける。が、神獣は素早くラトーから離れると、ジャンプして鉄球から逃れた。

「あぁ…」

「ハッハァ!!残念だったな、クソガキ!」

 上へ飛んだ神獣にリューはニヤリと笑い。

「お前がな」

「は?」

 鉄球の鎖に沿うようにムゥが走る。鉄球の先に回り込み、

「ウッラアァ!!」

 メイスで思いっきり鉄球をかっ飛ばした。


 ガキイィン!!


 と、轟音を轟かして強引に進路を変更させ。


 




 鉄球は神獣に突き刺さる。





 ドッ!!


 そのまま鉄球は神獣ごと壁に激突する。神獣を中心にヒビが縦横無尽に広がっていき、ピシピシと、天井まで届いた。

「「「「あ」」」」

 この時、四人の声は見事に重なった。

 天井のヒビはどんどん広がり、ゴゴゴ、と不気味な音が部屋を包んだ。

「に、逃げろーーっ!!?」

 リューの叫び声を皮切りに、四人は必死に走り出す。


 四人が外に出ると同時に、エスラの家とその周辺が陥没し、土煙を上げた。

 村人はエスラに操られて村の中心に集まっていたので、怪我人はいなかった。そのことだけは幸運と言えたかもしれない。








 全てが終わり、ラトーは村人達の様子を見に行った。そろそろ、村人達も目が覚めるころだろう。

 ムゥは、崩れ去ったかつての家の残骸を座りながらボー、と見ていた。

「どうした?」

 傍らに立っていたリューはムゥに尋ねた。

「うん。兄貴は、どうしてオレに何も言ってくれなかったのかなって。どうしていつも勝手に何でもかんでも決めちゃうんだよな、兄貴って」

「…」

「どうしてかな…」

「これは、あたしの勝手な憶測だけど…」

「え?」

 ムゥは傍に立つアリシアを見た。

「エスラはさ、ムゥを巻き込みたくなかったんじゃないかな。だって、今回のことも、今までエスラがやってきたことも、許されることじゃないけど、一切ムゥに頼らなかった。ムゥに手伝ってもらった方が、効率がいいもの。違う?」

「それは…」

「うん、もしかしてえら、もっと別の理由があったかもしれないけど…。あたしはそう思う」

 ムゥは、立てた足に顔を埋めて、

「うん…」

 微かに、そう返事をした。























 ガラ。


 ガラガラ。


 ガラガラガラ。


 瓦礫のなかから、のっそりと巨大な影が出てきた。


「畜生が…」

 しかし、足が完全につぶれてしまっているのか、その動きはどこかぎこちない。


 神獣、だった。

「クソックソックソッ、殺すぞ…。アイツら、絶対に殺してやる…!!」

「随分とやられたものだな、オルフェーン」

「!!?」

 バッと声のした方へと振り向く。そこには、ランタンを持つ一人の男。

 そう、ランタンの灯りにに今まで気が付かなかったことにも驚いたが、その男の姿の方が神獣にとって重要だった。

 全身黒ずくめの服装。ランタンの灯りに反射する銀の腕甲。そして(・・・)、黒豹を模した仮面。

「キサマは…!!」

「久しぶりだな、オルフェーン。600年ぶりか」

「何でお前がここにいる…!あの時に死んだはず…、いや、そもそもキサマが生きているはずがないんだ!!」



                 「人間のお前が!!」



「まあ、色々と事情があってね。それにしてもお前には困ったものだよ、オルフェーン。あわやもう少しで私の大切な大切な〝宝石〟に傷が付くところだったよ」

「宝石…?」

「……カーバンクル」

「な…!」

「そういうわけで、お前にはペナルティだ」

 漆黒の男は神獣の額に手を乗せ、その瞬間、雷光が闇を一瞬遠ざける。

「よき終末を…。オルフェーン」

 男は、足音を響かせながら闇へと消えていった。



 そこには、血の匂いだけが残っていた。









 


なんか、最近書きづらい。


書き方変えようかなぁ…。

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