015 前編
「神獣って…」
「ああ、獣人族の全ての祖と言われる存在さ。神話として語られるが、あれはただの神話じゃあない。全て、事実なのさ」
エスラは熱に浮かされたように語った。
「そんなの、到底信じられるわけないじゃない。もし仮に、本当の事だったとしても、そんなに大昔にいた存在が、今生きてるわけないじゃない」
「ははは!良い所に気が付くね!オレに攫われている最中、ぐっすり眠っていた君とは別人に見えるね」
「大きなお世話よ!」
エスラは満足そうに肯き、一歩後ろに下がる。
「君の言い分も尤もだ。確かに、俄かには信じられないだろうな。オレも、この目で見るまで信じてはいなかった」
そして、エスラは床に置いていたランタンを拾い、火を付ける。
「これが答えだよ」
ランタンに火が付いたことで、一気に明るくなる。アリシアはあまりのまぶしさに目を閉じた。少しずつ、目を慣らすように開いていく。
アリシアとエスラがいる部屋は、とても広かった。いや、部屋というよりは祭壇に近い。天上は高く、木の根が貫いているのが小さくだが見える。アリシアとエスラがいるのは祭壇の途中、通路のようになっている半ばだ。だいたい、ここが中間地点あたりだろう。
そして、最後に、通路の先にある大きなモノがあるのを見た。
祭壇の執着地点。そこには、巨大な檻の中にいる、銀の体毛を持つモノ。
神の獣だった。
「ウソ…」
「驚いたかい?これが、神獣。神の獣。全ての獣の頂点に立つ存在さ。とはいえ、今は置物ぐらいの存在でしかないけどね」
「え?」
「かの神獣も、生き物であることに変わりはない。ただ、腹が減っても死なないだけさ。でも、そこにオイシソウな獲物がいたら…どうなると思う?」
その言葉にアリシアは戦慄した。
「まさか…村人がいなくなったのって…!!」
アリシアの呟きに、エスラはククッ、とノドを震わせた。
「想像の通りだ…!!喰ったのさ、全て!!!」
エスラは興奮して、両腕を振り上げる。
「これまで、牙族の村人含め、森でさ迷った旅人、攫ってきた子供、99人!!全てを神獣に捧げた!!!」
「…!!そんな…!?」
アリシアはエスラを睨みつける。
「そんなことをして、許されると思っているの!?」
「誰が許さないというんだ?喰われた奴はもういないし、抗議をしに来る奴も全部食えばいい。死人に開く口は無いんだから」
「外道!」
「何とでも。これで、悲願は達成される…!!最後の100人目。君を神獣に捧げることでね!」
「――ッ!!」
エスラがアリシアに向けて一歩踏み出す。アリシアに、絶望が全身を包んだ。
「ん?」
と、アリシアに手を伸ばそうとしたところでエスラの動きが止まった。
「土ぼこりが、上から…?――ッ!!まさか!!?」
エスラが天井を見上げる。その瞬間、ズガアァァァァァァン!!!!!と、天井が崩れた。
ガラガラガラ……
土煙の中から、数人の声がする。
「ゲホッゴホッ!!や、やりすぎだお前は!手加減という言葉を知らんのか!?」
「ムリ。ていうか、今のが獣人族の常識」
「ぜってー違うだろ、それ!!なぁ、そうだろ?」
「ああ、流石にやりすぎだ」
エスラは、その声に苦々しい顔をする。
「ふん、来たか…」
「待たせたな、アリシア」
「兄貴…」
「…」
そこには、リューとムゥ、そして、爪族のリーダーがそこにいた。
前編です。
後編に続く!!