始まりと炎と黒衣の男
一応念のためR15指定をさせて頂きました。まだ残酷描写等を書く予定はありませんが、話の過程次第では表現される可能性があるので、ご注意下さい。
あらゆる生命を拒絶しているかのような、荒廃した土地。大陸の北にあるその場所を『大峡谷』と呼ばれ、大陸一過酷な環境である。昼間は灼熱の太陽光が降り注ぎ、夜中は極寒の冷気が大地を包む。
青白い月光が閑散とした大地を優しく照らし、無という幻想的な景色をさらしていた。
つい先ほどまでは。
『大峡谷』の中央、巨大な岩がぐるりと円を描き、まるで王冠のようになっている、いっそのこと山と形容してもいいような岩の塊の中心部。岩の窪みの底にある、人が造ったのであろう小さな遺跡。所どころ朽ち果て、人が住んでいないと分かるその場所から、火の手が上がっていた。黒煙が空を隠し、全てを燃やし尽くそうと炎が舌を伸ばしてゆく。ガラガラと音をたてて崩れてゆく遺跡のその様は、悲鳴を上げているかのようだった。
その遺跡を円を描くように囲む岩棚の、平らになった場所――かつては見張り台だったのであろう――に、一人の男が火中に消えゆく遺跡を静かに見つめていた。
その男は闇夜にまぎれるかのような漆黒の出で立ちをしていた。しかし、腕にはこれでもかとばかり存在感のある銀の腕甲を装着していた。男は遺跡が燃えているのをしばらく見つめていたが、やがて興味を失ったのか踵を返した。
男の後ろには一人の少女が眠っていた。簡素な衣服を着ており、見るからによい扱いを受けていたとは思えない姿で、事実、かなり衰弱しているらしく、まるで生気を感じさせなかった。見た目は14か15歳程で、遺跡を燃やす炎よりも赤い、いっそのこと紅と言ってしまってよい程の濃い髪の色をしていた。
男は寝ている少女の髪を撫でながら呟いた。
「……カーバンクル」と。
この世界には2つの大陸がある。西側をウェルタナ、東側をイースランと呼ぶ。
この世界には複数の人種がいる。まずは最も人口の多い人間。森林の奥深くに住む獣人族。海中に住む魚人族。切り立った山々にすむ竜人族である。人間以外の種族は亜人とも呼ばれている。
さて、そろそろこの物語を綴っていこうと思う。時は陽歴792年。
世に新たな技術――錬金術が発明され、後に〝発明革命〝と呼ばれることとなる年から、30年後から物語は始まる――――。
初めてなので緊張します…。
ちょくちょく後書きを書くと思います。
ペースは次の話が完成次第、すぐに書くので気長に待って下さい。