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そのココロは、  作者:
8/11

当時を知る、どこかの誰かの「話し」です。

――――え?戦姫様を知らないのですか?本当に?

そうですか…それは珍しい。…そうですか……

あの、良ければ少しだけ、話をさせて下さいませんか?

聞き流していただいて結構ですから。

私はただ、貴方に向かって語る事で、思い出に浸りたいだけなので。

いえ、まぁ、色々とありまして、ね…。

それでは。


前の王の時代、人間界と魔界の関係は、酷く悪いものでした。

魔物や魔族が気まぐれに現れては人間達に襲い掛かり、

村を焼き、街中を破壊し、残虐非道の限りを尽くしていたからです。

度重なる襲撃に人々は怯え、恐怖が精神を蝕んでいきました。

畑が荒らされ、家畜が殺され、人々は飢えにも苦しんでいました。

それはそれは、酷いものでしたよ、あの頃は…本当に。

王は、魔物・魔族の討伐を命じ、各地に何度も兵を派遣しましたが被害が収まることは無く、

国と民を守るためにと、王は魔界への進軍を決定しました。

兵士たちを率いるのは、王の一人娘。王族の役目は民を守ることであると、

周りの制止を振り切ってまで剣を持つことを選んだ、凛々しく気高い姫君です。

人々は、戦場へ向かう彼女を“戦姫”と呼び、讃えました。

…しかし人間と魔族の力の差は大きく、正面からぶつかったのでは勝ち目はありません…

そこで王は、彼女の率いる王国軍とは別に、とある腕利きの剣士に、

秘密裏に魔王の討伐を命じました。

彼は、陰ながら戦姫様を助け、道すがら魔物が出現すれば速やかにそれを排除し、

通りがけに困っている者が居れば、使命とは関係無い事であっても、

その憂いを取り除こうと尽力する…

そんな方でした。

優しく勇ましい彼を人々は“勇者”と呼び、密かに声援を送りました。

勇者様は、無意識に人を惹きつける才能をもっていらっしゃいまして、

はじめは一人だった旅に、もう一人、また一人と仲間が加わって行き、

それが全て女性であった為、なんとも羨ま…いえ、華やかな一行となりました。

使命感を胸に突き進んでいた彼らでしたが、ある時、思いもかけない事実が発覚します。

何と、今までの魔物や魔族の襲撃は、全て王が裏で仕組んでいた事だというのです!

わざと魔物たちを嗾けて旅人や商人を襲わせ、

村を襲い金品を強奪した上で火を放ち、それを魔族の仕業だと嘯き、さらに!

魔界への進軍も、魔物や魔族の亡骸から純度の高い宝石が出てくる事に気付いた王が、

それを目当てに画策した物でした…!

真実を知った戦姫様と勇者様は、悲しみと怒りを覚え、

欲に狂った王を止めるため、そして無意味な戦いを止めるために手を尽くしました。

戦姫様は表向き王の命の通り進軍しながら、人々へ密かに王の非道な行いを訴え、

協力者を少しずつ確実に増やしていきました。

勇者様は、出会った魔物や魔族に対し、今までの人間側の勝手な振る舞いを謝罪し、

討伐の為ではなく、戦いを止めたいと訴えるために魔王の元を目指しました。

そんな英雄達の活躍により、魔界と人間界の全面戦争は回避され、

諸悪の根源である王とその賛同者達は断罪され、

人々はついに平和な日々を手にする事ができたのです!

新しい王には、人々の強い希望により、勇者様が就任する事となりました。

そして戦姫様は、王となった勇者様の側に…誰もがそう思っていました。

しかし、戦姫様は、首を横に振ったのです。自分には、その資格が無いと。

自分は、本当の姫では無いのだから、と。

そう、彼女は前王の一人娘ではなく、その影武者として送り出された平民の娘だったのです。

その事実を人々は嘆き、悲しみました。

彼女が自分を姫と偽っていた事に対して…ではなく、

姫の身代わりとして前王に無理やり戦場へ放り込まれた不憫さと、

彼女が本当の姫であれば良かったのにという落胆から、です。

新王の正式な就任を待ち城を去ると言う戦姫様を、皆が引きとめました。

より強く彼女を説得したのは、やはり勇者様でした。

勇者様は彼女が偽の姫である事を知っていました。信頼できる仲間には嘘をつきたくないと、

戦いの合間に戦姫様自身が真実を告白していたのでした。

知らされていなかった者達も変わらず彼女を戦姫様と呼び称え、

態度を変える事はありませんでした。戦姫様と長く関わった者や、勘が鋭い者など、

薄々感づいていた者はやはりと納得しただけでしたし、気付いていなかった者も、

我等が信頼し尊敬するのは姫という肩書きではなく、彼女自身であると言い切りました。

そうして皆に望まれ、戦姫様は新王の側室として迎えられたのです…


…うぅっ…

あぁ、すみません。

ここで終わっていれば、ハッピーエンドだったのにと思うと、どうしても涙が堪えきれず…

ええ、この話にはまだ続きがあるのです!

少し前に開かれた式典は知っていますか?そう、あのいやに長い名前の式典です。

そこで…、え?あ、あぁ、もう帰る時間なのですか…そうですか…

いえいえ、そんな。長々と話を聞いてくださってありがとうございました!

では、お気をつけて。

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