6(※挿絵有)
元勇者な王様視点です。
その言葉を聞いた瞬間、
かつての彼女の姿がフラッシュバックした。
戦姫という呼び名の通り、常に戦いの中に身を置いていた彼女。
兵士たちの先頭に立ち剣を掲げる姿が、俺には酷く痛々しく見えた。
辛いなら逃げてしまえと言った俺に、
『正直、辛く思います。…それでも、私は…戦うと決めたのです。
飢え、怯え、苦しんでいる人たちの為に。』
そう、真っ直ぐな瞳で言い切った彼女。
その小柄な体には大きすぎる荷を背負わされ、それでも国のため、
民のためなら、と、どんなに辛くても独り耐え続けていた…
そんな彼女だからこそ、人々の信頼と賛同を得ることができたのだろう。
だが、そんな彼女の優しさが、俺はいつも気がかりだった。
過酷な旅の途中、諦めそうになる俺の心を繋ぎ止めていたのは、
早く戦いを終わらせ、彼女を過酷な使命から解き放ちたいという思い。
それぞれの役目を果たすため、行動を別にする事が多かったが、
できるなら常に傍に居て、彼女が傷つかぬよう守りたかった。
離れている時間が多い分、傍に居る時は自分でもやりすぎかと苦笑する程に構いたおした。
女として見ていたわけではない。彼女に抱いていたのは、そういう激しい感情ではなく、
もっと、家族や友人、親しいものに向けるような穏やかな想いだ。
全てが片付き、城から去ろうとしていた彼女を引き止め、側室にしたのは、
王となった俺なら、彼女に安らげる場所を与えられると…そう思ったからだった。
だというのに!
彼女は、この国の為に、また犠牲になろうとしている!
彼女が魔王の伴侶になる事を拒めば、魔界との関係はきっと悪くなるだろう。
再び戦争などという事にはならないだろうが、それでも、
魔族との不和は、民達の心に不安を植えつけるのには十分だ。
そうなれば、やっと手に入れた平穏に傷をつける事になる…彼女が何より望んだ平穏に。
選択肢など、はじめから一つしか無い。
そんな事は私だって理解している。だが、だが納得などできるものか!
なぜ、”生贄“に選ばれるのは何時も彼女なのだ…!
それが運命だとでもいうのか!!