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硬直状態が続く中、
「あぁ、そうだ。はっきりさせておくが、コレはもう貴様の側室などでは無いぞ。
コレは求愛を受け入れ、俺の番となったのだからな。」
と、魔王は軽い調子で爆弾を投下した。
「―――――!? な、なん!?ど、ど、どぅ、どういう、こっ、だ!?」
王は動揺しすぎて口が回っていない。
恐らく『何だと!?どういうことだ!?』と言いたかったのだろう。
しかし、どういう事だと聞かれても、
「求愛…、…、…?」
されたっけか?
はて?と首を傾げていると、魔族の男性がそっと近づいてきた。
「その、戦姫様…もしや我が主から何か食べ物を受け取り、
それを口になさったのではありませんか?」
恐る恐るといった感じに問いかけられ、
「梨をいただきましたが…」
と答えた瞬間、男性は何とも言えない悲壮な表情になった。
「食べ物を相手に与える行為が、魔族にとっての求愛にあたるのです。
与えられた物を口にすると、了承という事に…
戦姫様はそれを求愛だと認識していなかったのですね。」
あぁ、あれがそうだったのか。
「そう、なのか?」
魔王はショックを受けたようだ。少しよろめき、悲しそうな顔で確認してきた。
まぁ、知らなかったのは確かなので、素直に頷くと
魔王はしゅんとなった。…可愛い。
しかし魔王は強い(色々な意味で)。
すぐに、“だからどうした”的な表情を浮かべ、
「まぁ良い。番である事に変わりは無いんだからな。」
と言い切った。
「知らなかったんだから当然無効だろうが!」
動揺から立ち直った王がそう反論するが、
「あぁ、そういえば。人間は番になる為の儀式があるのだったな…何をすれば良いのだ?
用意するものはあるか?」
魔王はさらっとそれを無視した。
「おい!聞け!認めないからな!絶対に!」
声を荒げる王。
「邪魔をするつもりなら、消すぞ。」
壮絶な殺気を乗せて、ギラリと王を睨む魔王…
ちょっと本気で不穏な空気が流れ始めた。
ううむ。
私が魔王の番になるのは…そんなにまずいのだろうか?
やはり王としては、側室が魔王に奪われるみたいな形になって格好がつかないか。
面目を保つ為に、何かもっともらしい理由が必要なんだろうな…
…そうだなぁ、
「私が魔王様と一緒になれば、魔族と人間の絆はより深まるでしょう…
それは、喜ばしいことではありませんか?」
というのはどうだろう。
「…っ!」
言った瞬間、王が泣きそうな顔になった。
それっぽくて綺麗な理由だと思ったんだが…はずしたか?
「…何と…健気な…」
魔族の男性も泣きそうになってるんだが、なぜだろうか。
「「「「「戦姫様あぁああああ!!!!」」」」」
さらになぜか、会場中からすさまじい悲鳴が上がったんだが…
うん?私はそんなに下手な事を言ったか?
いや、だが、素直に魔王を…その…好いているから一緒になりたい…とか、
そんな…言えないじゃないか。