第7話 招待状と再会 6日目
結婚式…
現代では、しないという風潮も増えていたから言わないようにしていたし、せずとも幸せな環境を手に入れることができたけど、やはりどうせならしてみたいという私の数少ない乙女心を叶汰に言おうとしていた時だったが故に叶汰の提案は青天の霹靂であった。
「結婚式かぁ、もちろんしたいし純白のドレスはやっぱ着てみたくはあるね。ただふたりきりでひっそりやるってのはなんか悲しいね」
「いや、大切な人全員呼んで」
「それって…」
「死んだ人が生きた人に会いに行くってことになりますね」
突然来たミケさんが私が言いかけた懸念点を言った。
「この世の禁忌の一つです。私の事象反転もその一つですが、それゆえに厳しい規則はあります。まして死者と生者が会うことはもってのほかです。ルールと言えばそれまでですが、一度失ったものをまた失うという感覚は想像を絶するものです」
「ですよね...」心のどこかで僕も分かっていた。当たり前の話だ。でも。だけど。そう言いだそうとしても言葉が見つからない。
「ふぉふぉふぉ、わしの教え子も頭が固くなってしまったようだな。禁忌を破る能力を大量に持っておいて、人に説法垂れるのも変ではないか」
唐突に黒いフードを被った骸骨が現れた。
「部長!なぜここに」
「挨拶が遅れてすまんな。叶汰くん、姫叶くん。わしの名はルシファー。このニケの上司をしているものである。生者と会うという話だがわしが許可を出そう」
「ですが!」
「まぁ、条件はある。一つ、今までの経緯をすべて相手に話すこと。二つ、呼んでいい人は親だけにすること。三つ、口止めの魔法をかけること。これが条件だ」
「十分です」
「私もそれなら全然」
「...」
「禁忌が…でも…」
「ミケ!しゃんとせんか!お前も見たいんだろ二人の結婚式を」
見たいに決まっている。だって二人は...
「.....分かりました。部長も共犯ですからね」
「共犯も何もお主は二人のことを知る唯一の人じゃからな。スピーチをさせるつもりじゃよ。今日の仕事はわしがやるから原稿書いてきなさい」
やはりこの上司には頭が上がらない。
「承知しました」
「さてお二人さん方、大切な人のとこへと向かおうか」
そう言うと僕らはどこかへと転送された。
「ここは僕の家…」
飛ばされた場所は僕の家だった。
「さて、ここからはわしは介入できないからな。ちゃんと話してこい」
僕は震える手でチャイムを鳴らした。
「はーい、今行きます」
懐かしい母の声、泣きそうになるのをぐっとこらえた。
「ただいま。母さん」
「…叶汰なの?」
「少し話があるから父さんと一緒に話せるかな」
そうして僕は話した。この病気のこと。唐突に死んでしまったこと。姫叶と出会ったこと。結婚したこと。言葉が詰まりうまく話せないと思っていたのは杞憂に終わり、僕の声は止まることはなかった。
「何から言えばいいのかわからんが、まずうちの息子と結婚してくれてありがとう。こんな生き生きとした息子は初めて見たよ。相当、君との生活が楽しかったんだね。もちろん結婚式には出席するさ。息子の結婚式を見に行ける日が来るなんて思ってもいなかった」
「いえいえ、こちらこそ私が結婚したいと願ったばっかりに、ちゃんとした別れをさせられずすみません」
「親というのは子が幸せな道を歩んでほしいものさ」
「そう言っていただき恐縮です」
「ところで一ついいかしら?こういうことを聞くのは野暮かもしれないけど息子のどこが好きか聞いてもいいかしら?」
「母さん!」
「そうですね。まずは顔です。目立ちが整っている中でもどこかアンニュイな感じが私のタイプでした。そして何より、優しさです。叶汰は、私のことをよく見てくれてました。私の変な考えも笑って付き合ってくれる。たぶん結婚にふさわしい人ってこの人なら背中を預けられる。そんな人だと思うんです。彼の包み込むような優しさや愛情は私にはもったいないくらいです」
「素晴らしい人と結婚したのね、叶汰」
「うん。俺の大切な人」
そうして僕らは、死んだとかそういうのは忘れ、叶汰の昔の話に花を咲かせた。
「次は姫叶さんの家に行くのだろう。粗相のないようにな」
「当たり前だろ、父さん」
「また明日ね」
「うん、また明日」
そうして僕らは式場への転移用のアイテムを渡して次の場所へと向かった。
「ここが家だよ」
姫叶の家へと来たわけだが、広い。よくアニメとかで見る豪邸のそれだった。
「さ、行こう」
そう言うと長い道へと向かっていった。
「む...」
「む?」
「娘はやらんぞぉぉぉ」
「死んだ娘に久しぶりに会った親の言葉じゃないだろぉぉぉ」
僕はお決まりのセリフを言われてしまった。ほんとに言う人を初めて見た。
「いやーすまない叶汰くん。まさか死んだ娘が帰ってきたかと思えば結婚相手までいたとは思ってなくて」
「普通はそんな反応になりますよね」
私たちは先ほどと同様、ことの経緯を話した。たださっきと違うのは私のママとパパがいちいち反応するせいで時間がものすごくかかった。
「それにしてもずいぶんなイケメンだなぁ」
「でしょう!」
私はふふんと鼻を鳴らした。叶汰は縮こまっていた。
「話したいことはたくさんあるけどやっぱりこれだな。ズバリ叶汰くん、うちの娘のどこが好きになったか教えてくれるかな」
どこの親もここが気になるのか。
「はじめは結婚するって言いだした姫叶についていったらなんか変わるかなって結構曖昧な理由で結婚を決めたんです。一日目、部屋で泣いていた姫叶を見た時に感じたことがない感覚があってもしかしたらって思ってそれが恋だってことに気づいたんです。たった一週間の結婚生活。それができたのは姫叶の明るさがあったからです。僕はこの病気になって生きる意味を失っていました。だけど姫叶は生きる意味を教えてくれました。恋を教えてくれました。何より、かけがえのない大切な人となってくれました。だから僕は彼女のことが好きになりました。お義父さん、お義母さん。改めまして、娘さんを僕に下さい。」
「当たり前じゃないか。こんないい人が娘のそばにいてくれるだけで親冥利に尽きるってもんよ。ありがとう。そして娘をよろしく頼む」
そうして私たちは無事、両親に認められ結婚式へと招待できた。
「ふふ、まさか娘の花嫁姿が見れるとは思ってもみなかったわ。また明日ね姫叶」
「遅刻しないでね」
結婚生活最終日に結婚。私たちの物語ももうすぐエンディングへと向かっていく。幸せなハッピーエンドへ。




