第6話 結晶と喪失とダブルミーニング 5日目
「ママ、起きて。おなかすいたー」
子供の声で目を覚ます。子供?
えっ子供?えっ?と頭の中でパニックを起こしていると、ドアがノックされた。
「おはよう…えっ子供?誰?」
「おはようパパ!」
「パパ?」
「もう、パパもママも何寝ぼけてるの!早く朝ごはん食べよ!」
「どういうこと、叶汰」
「いや僕も知らない。」
「どうする?」
「とりあえず朝ごはん食べてから、ニケさんに聞くか」
「もうおなかすいたよ〜」
とりあえず私たちはあまり考えずに朝食をとることにした。
朝食を終えてちょっとした頃、ニケさんが来た。
「おはようございます。姫叶さん、叶汰さん。本日は何か予定はありますか?」
「そんなのはいいからちょっと上がって。」
「はい?かしこまりました」
「おじさん誰??
「おじさ…ん。えっと、こちらのお子さんは?」
「えっ、ニケさんのせいじゃないんですか?」
「いえ。私はしておりません。もしかして…」
そう言ってニケさんが近づいて来て耳元で話す。
「昨日の夜、しました?」
「何を?ってしてないわ――」
何言ってんだこの死神。
「これではないとするともしや…」
そう言ってパッと消えていった。
「ちょっと待っ…行っちゃった…」
「パパ、ママ遊ぼ?」
「あのさ、姫叶。提案なんだけどひとまずパパとママの振りをしない?よくわかんないけどこれが一番最善策のような気がする」
「そうだね。よし全力でママをするぞ!よろしくねパパ」
「うん…なんか気恥ずかしいね」
「ダーリンにする?」
「いやパパでいいよ」
「ねーねー、あーそーぼー」
「はいはーい。何して遊ぶ?」
「お絵描き!」
「いいね、やろやろー」
そういうと机の上に紙と色鉛筆が現れる。やはり。みにミケは便利すぎる。
「描く前にここにお名前描いてみようか」
「うん!」
何とか誘導して、名前を聞き出すしかない。
「ゆ…き。わたしのなまえ、ゆき」
「ゆきちゃん上手に名前かけたね」
「うん!ママのなまえってどうかくの?」
「ママはね、ひめかって書くんだよ」
「まま、おひめさまなの?」
「そうだよ、ママおひめさまなの」
「じゃあパパはおうじさまだね」
「そう。ぱぱ、おうじさま!かっこいいでしょう」
「えっとねぇ、かわいいママもかっこいいパパもどっちも大好き」
ゆきは無条件に笑顔を振りまいている。
姫叶と叶汰は存在していなかった親心が芽生えていた。守りたいこの笑顔。
「お待たせいたしました。この子の身元が分かりました」
相当急いできたのだろう。少し息を切らしながらミケがやってきた。
「名前は夕霧 悠希。あと十五年後に生まれる予定の子です」
「十五?」
「正確にはこの子の前の魂の方がつい先日、老衰で亡くなりそのタイミングで魂が保管されるはずだったんですが、逃げ出してしまったみたいです。ちなみにお二人との血縁関係はないみたいです。しかし、魂だけだと困ったことに…」
「困ったことに?」
「あと約五時間後に消えます」
「えっ?」
「元は人の魂ですからね。普通の人であればもう少しもつんですけどまして、まだ分離したばかりですので生命力が枯渇状態なんです」
「方法は無いの?」
「もちろんありますよ。よく神隠しとかありますよね」
「よくは無いけど…実際行方不明者は毎年いるね」
「そういった事例はまぁ人身売買とか拉致、駆け落ちや夜逃げなど社会問題もありますが多くのケースだと人が何らかによって転移してしまうことによって起こります。実は…もしかしたら夢の無い話かもしれませんが、人は異世界転生しても生存できないんです。体が世界と適応するように作られているためですね。それでですね、異世界で生存するためには二つ方法があります。一つはその世界の人の間に生まれ適応した体を手に入れる。もう一つは私たちが二人にしていたように死神と神が力を統合して生命を保つやり方ですね」
「じゃあ、そうすれば…」
「できないんです。この世界を作るのと四年を二人分なので、私たちの力の余剰は無いんです。簡単に言えば貯金が尽きたって感じですかね」
「じゃあ、この子はもう…」
「まさか。ミケさん、もしかして…」
「はい。この子を私の持つ事実改変の能力を使い、実際にあなたたちの子にします。もちろんずっとではありません。あなたたちの子になれば一旦の崩壊は防げます。」
「じゃあ、今すぐやるしかないね」
「とはいっても無条件ではありません。精神的に二人に信頼を置いていること、この世界の食物を摂取していることですね。おや、よく見たら条件は揃ってますね。しかし、起きている時に無理に引き離すと何が起きるか分からないので不安は残りますね」
「つまり寝かしたらいいの?」
この世界での睡眠は脳を休めるという現代のものとは違い、満足したかどうかによって起こっている。私たちが積極的に行動していたのはこういう一面もある。
「つまり、この子を満たせってことね。簡単なこと、全力で遊びつくせってことだね。」
「簡単に言いますね…」
「私たちは、大人に慣れきれなかった子どもだからね。大人は苦手でも子どもは大好きってよ」
「分かりました。任せます。じゃあまずは事実改変ですね」
〔さざめく世界線。分岐のあすから。事実の記憶。事実を変える禁忌を赦したまえ。事実改変〕
そういうと悠希の身体は光輝いた。私たちは結婚どころか、瞬間的とはいえ親になってしまった。
「さて、行きますか。遊園地」
「えっ?」
「やっぱ子連れの親っていえば、遊園地だよね」
「間違ってはないけど、ありがちすぎだね」
「とにかく早く行こう!」
「もしや、姫叶が行きたかっただけでは…」
そう言う叶汰の唇を無理やり口づけで塞いだ。ちなみにミケさんがとっさに目を隠してくれていた。ちょっとした茶番の後、私たちは遊園地へと向かった。
不思議なものだ。ついさっきまで他人だった、しかも朝出会ったばかりの子がもう僕たちの子のように感じる。昔、なんかの本で読んだことがある。人は親になると変わると。僕だけじゃない。姫叶はもはや新米ママとしか見えないほどである。僕らは、結婚という普通であればできなかったことができた。大好きな人ができた。それに加えて、子を持つこともできた。一週間という短い間に、生きるはずだった時間の全てを経験できたのかもしれない。実はデートのほかに考えていたことがあった。結婚式を挙げること。大好きな人の花嫁衣裳を見たいっていうのも少しはあるけど、もしこの結婚生活が終わるなら最後に挙げて終わりたい。昔、あの画家が言ってた。結婚式は幸せを交換する場だと。人前でちゃんと誓ってこの人と生きていくって覚悟する場って。幸せを独り占めしちゃ独占禁止法に抵触するって。僕は二人がぐるんぐるん回っているのを眺めながら、一人で思いに耽っていた。……ジェットコースターには二度と乗りたくない。
そうして僕らはめいいっぱい楽しんだ。僕だけがビビり散らかしたお化け屋敷も大人げなく走ったゴーカートも三人で笑いあった観覧車も時間は早く進んでいった。満足させるといった話だったけど悠希は僕の背中で寝息を立てていた。
「では、悠紀さんは私がしっかりと預かります」
「うん。くれぐれも泣かせたりしないでね」
「もちろん」
「さよならを言えないのは悲しいけど、楽しかった」
「こちらの急なお願いに対応していただきありがとうございます。では、私はこれで」
そう言って、消えていった。
「子供かぁ、欲しいとも思ってなかったけど、なんか良かった。もちろん子育ては簡単ではないけどさ、なんかこの母性ってやつなのかな。嫌いじゃなかった」
「僕もそう思う。なんか親ってのは育てるってイメージあったけど、違うんだね。幸せを受け取る素晴らしさっていうか…こう」
「それが父性ってやつなんじゃない?」
「かもしれないね」
「私は別にいいよ。叶汰との子ならね」あえていたずらっぽく笑った。
「そうですね」
「...」
「...」
みにミケにとある部屋を戻すようにする記録が残っていたのは内緒の話。




