第5話 初デートと星に思いを馳せて 4日目
僕、小野叶汰は部屋で悶々としていた。長い冒険を乗り越え、絆を深めた今ならできるかもしれない。断られることはないとわかっていても元来持っていた臆病が嫌な可能性をチクチクと刺してくる。悩むこと一時間、僕は覚悟を決めた。
「デート?もちろん行く!」
僕が一時間考えた決断がものの数秒で決まった。やはりこの人には頭が上がらない。
「と言ってもどうやって外に出るんだろう。またみにミケ暴走しないかな?」
「その心配は大丈夫ですよ。」
そう言うとミケさんが現れた。
「…不法侵入」
「もうそれでいいです。あの後、みにミケをアップデートして僕の方に通してからってことにしました。ですから先日みたいにはもうなりませんよ。デートでしたね。一応みにミケが仮想空間を作れますけど、どうせだったら地球に戻ってみませんか?」
「できるんですか?」
「正確には、死神の体を使ってですが…」
「?」
「私たち死神も、ずっと働いているわけではないので、休日とかはちゃんとあるんです。地球は娯楽や食べ物が豊富ですから、時々休憩するために人間の体を持っているんです。それを一日二人が使うって感じです。一応ほかの人からはそう見えるだけで二人にはいつもの姿ですが…どうでしょうか?」
「異論はないですね。」
「意義なーし」
「じゃあとりあえず二人にはこれを。」
「こっ…これは。スマホだ――」
完全に忘れてた。この人類が作りし奇跡の産物。
「このスマホは持ち手に合わせて変化する、鍛冶の神が人間の物を真似て作ったものなんです。多分アプリとか生きてた頃のものになっていると思います。それでこの死神payってアプリがあると思います。QRコード支払いはこれにしてください。お金が必要であればこの財布を使用してください。こんな感じですね。そうそう姫叶さんは自分の部屋に行っててください。今日借りた死神の身体の方なんですけど化粧したいとか何とかで…間もなく来ると思うので。」
「りょーかい」
そう言って姫叶は自室へと向かった。
「叶汰さん、少々いいですか」
「なんでしょうか?」
「これをどうぞ。」
「これって指輪?」
ミケは淡く透き通った青く輝く宝石がついた指輪を取り出した。
「はい。ちょっとした贈り物です。アイスブルーダイヤモンドという宝石がついているものです。意味は”君を幸せにします”今一番、君が思ってることです。渡すタイミングはあなたに任せます。」
ミケはウインクしてにこにこしている。
「ありがとうございます。絶対に成功して見せますよ!」
「その意気です。さて君も準備に取り掛かりましょう。」
「二人とも似合ってますね。」姫叶は普段ノーメイクであどけなさが出ているが、メイクによってかわいさとカッコよさを兼ね備えた完璧美少女となっていた。一方、叶汰に関しては眼鏡をはずし髪を整えたことで、よりすごい感じになっていた。
「では転送します。ごゆっくりお楽しみください。」
そうして僕らは久しぶりに現代へと降り立った。
「ひとまずどこに行こうか?カフェとか美術館とか水族館とかが近くにあるみたい」
「あのさ、提案なんだけど…マック行かない?」
「…くっ、あはは。姫叶らしいね。うん、行こう」
そんな感じで私たちの初デート場所はおしゃれな場所でも観光スポットでもなくマック始まりからのスタートとなった。
「マック久しぶり!」
「そうですね、病気になってからは行けなかったので、四年ぶりだね」
「なっ…スパビーがなくなってる。そして高くなってる。」
「ホントだ、僕はビックマックとシェイクのバニラのM、ポテトのLで」
「おぉ、いくねぇ。私はてりやきとシェイクのストロベリー、ナゲット十五ピース、バーベキューソースで」
「ポテトとナゲットの交換ですね。わかってますよ」
「おぉ、夫婦みたい…夫婦か」
「めっちゃ美味しかった――。いやぁ、月日は経ってもおいしいものはおいしんだね」
「お昼じゃないので空いてて良かったです」
「さて私の行きたいとこに行ったから次は叶汰の番だよ
「そうですね。デートスポットではないですが…」
「いいんだよ気にしなくても。旦那の好きなものを知れる機会なんてそうそうないんだから」
「では…」
そう言って私たちは小さな美術館へと向かっていった。
その美術館は他の美術館とは違った雰囲気を醸していた。二十枚あるかないかの展示量、そして何よりそのすべてが線画であった。
「ここって何か思い入れのある場所?」
「うん。僕の唯一の最後の友達の個展」
「どんな人か聞いても?」
「女子だけど大丈夫?」
「特別に許そう」
「ありがとう。同じ小・中学校の女子でいつも寝てたりおっとりしてるけど、作品は荒さと緻密さがある不思議な人。かといって話してみると僕の好きな作品のニッチなとこまで語ってくれる人だったんだ。そのあと入院しちゃって疎遠になってたんだけど姫叶と出会う数日前に名前と住所、そしてこの美術館のパンフレットが送られてきて。一言、見てって。だからこうして来れて良かった。特にあの宇宙飛行士が木のとこで座ってる絵。あれが出会いだったの。僕がこの病気になっても頑張れたのはあの絵があったからかもしれない。ごめんね、語っちゃって」
「そっか...君もちゃんと青春してて良かったような悔しいような、いや、お礼言わないとね。私がいない間支えてくれてありがとうって」
「うん、そうだね。またどこかで会えたらいいね」
そのあと私たちは雑貨屋に入ってみたり、疲れたらカフェで一休みしたりとのんびり気ままな時間を過ごした。大切な人と巡る時間は今まで生きていた中で一番早く感じた。気づくともう十九時、元の世界へ帰る時間となっていた。
「おかえりなさいませ。デートは楽しめたでしょうか?いえ、言わずとも顔に現れてますね」
にこにこ顔で帰ってきた二人を見て、ミケも思わず笑わずにはいられなかった。
「叶汰、ちょっといいかな?」
宵闇も深まる夜中の二時、姫叶が部屋をノックしてきた。
「奇遇ですね。僕も用事があったとこです。」
そうして僕らは向かった。言葉を交わさずとも一致する場所。みにミケはすでに世界を作っていた。
「ここに来るのも久しぶり。二度と来ないと思ってても、やっぱ星が一番きれいに見える場所はここしかないね」
「そうだね」
そうして僕らは久しぶりに病院の屋上へとやってきた。
美術館に貼ってあった天体観測表、今日はペルセウス座流星群が一番見える日らしい。
「この病気になって、何もやる気がなくなって死ぬ準備ばかり考えていたあの頃、こっそり病室を抜け出してこうして何も考えずボーっと星を眺めていたらさ、やっぱ記憶から消そうとしても出てきちゃうんだよね。あと少しだけ生きたい。いつか治るんじゃないかって」
「うん」
「皮肉だよね。一番大切な人は死なないと結ばれず、たった一週間しか過ごせないんだもん。はい次、叶汰どうぞ。」
「ちょっと立ってくれる?」
「?」
「結婚してから言うのも変なんだけどさ。これは僕の口からちゃんと言うことだって思って」
そういうと、片膝をつき言った。
「僕と結婚してください」
そうして僕は片膝をついてそう言った。
あーあ。これが幸せか。初めて心が満たされた。今まで経験してた失うこととは逆の感情。小説で何回も疑似体験していたこと。それが今、私の目の前にある。
「はい。喜んで」思わず泣いてしまった。生きることを諦めてから一度も出なかった涙が決壊したように零れてくる。顔を真っ赤にして固まってる叶汰が面白くて。その一言が嬉しくて。人を好きになれてよかったって。
「顔を上げて、叶汰。なにも準備できてないけど今しか送れないお返しあげる」
二人はその日、結婚して初めてのキスをした。




