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98.クィアシーナ、強い味方(袋)を手に入れる

午後の休憩時間に二年生の平民クラスの教室へ、放課後すぐに三年生と、クィアシーナは昼休みに一年生に説明した内容を伝えに行った。


一年生には伝え忘れたが、「新しい生徒会の連中にバレたら未来は無いと思え」、という脅し文句も忘れずに伝えておいた。


準貴族組のうち、貴族主義でない者たちはリンスティーが、

貴族組については、その他の元生徒会メンバーが"味方づくり"を受け持つ。


そして、クィアシーナに残された仕事は、

“お友達”の説得だが――それは今日でなくてもいいだろう。


(よし、今週のミッションは完了――)


明日は休日だ。

最近、時間が過ぎるのがやけに早い。

もっとも、今日の授業に限って言えば、とんでもなく長く感じたけれど。


隔離されたおかげで、貴族に目をつけられることもなく、

さらに魔道具という「人を介さない監視」によって、むしろ快適に過ごせてしまっていた。


何人か、生徒会に悪態をついていた生徒が罰則によって失神していたが、

回を重ねるごとに、自分も周囲も、その光景に慣れてしまっていた。


中には、

「罰則受けても失神しないか、ゲームしようぜ!」

などと、馬鹿なことを言い出す輩までいたほどである。


平民の集団だからなのかは分からないが、その適応力は――異常だった。

自分も、もちろんその集団の一人である。



平民専用通路を通り、教室棟の外へ出る。

するとようやく、隔離場所から解放され、各色バッチの生徒たちが合流する場所に出た。


ここで気を付けねばならないのが、

『身分が上の者には頭を垂れること』

の学則である。


皆、同じ方向へ歩いていくため、後ろからではバッチの色など確認できない。

そのため、平民や準貴族の生徒たちは、一様に下を向いて歩いていた。


そんな中――

クィアシーナの背後から、何やら駆け足の音が聞こえてきた。


(めちゃくちゃ急いでる人がいるもんだなぁ……)


どこか他人事のように考えていると、

その足音はクィアシーナを追い抜いたかと思うと、すぐに踵を返し、

腕を組んで通せんぼする形で立ちはだかった。


「おい! 貴様! 俺たちはおまえに話がある!」

「止まれ!」


「……」


ふんぞり返ってクィアシーナの行く手を阻んだのは、

頭から紙袋をすっぽりとかぶった、見るからに怪しい二人組だった。


――クリスティーの、犬。

クィアシーナが密かに、いや、たまに本人たちにも“袋ズ”と略して呼んでいる、サキとアトリの二人である。


クィアシーナは、めちゃくちゃ面倒だと思いながらも、素直に頭を垂れ、

発言の許可が出るまでその場に立ち止まった。


「おい! 何か喋れよ! 気まずいではないか!」

「そうだそうだ!」


相変わらず、プンスカしている。


とりあえず「喋れ」と言われたのだから、許可は出たものと判断し、

クィアシーナは顔を上げて口を開いた。


「これはこれは、袋のお二人様。

お貴族様のお二人が、何か平民にご入用で?」


二人の胸に光るバッチは、金色――貴族の証だ。


(まさか、いちゃもんをつけに来た……?)


一瞬、身構えるクィアシーナだったが、


「ちょっと我々の愚痴に付き合え!」

「そうだそうだ!」


――まったくどうでもいい内容だった。


「平民のわたくしめが付き合っても、

かえってお気分を害するだけでございましょう」


そう言って、軽く頭を下げる。


「それでは、御前失礼いたします――」


あっさり断り、そのまま立ち去ろうとする。


しかし、袋たちはなおも食い下がってきた。


「待て待て待てーい」

「話は終わってないぞ!」


「えー……面倒くさいなぁ……」


つい本音が漏れてしまったが、不可抗力だろう。


「おまえ! 今の学園でそんなこと言ってみろ! ビリッとくるぞ、ビリッと!」

「そうだ! 危ないから気を付けろ!」

「あ、はい。ご忠告ありがとうございます」


相変わらず、変なところにだけ気遣いを見せるから、どうにも憎めない。


「我々は金色バッチなのだが、

我らがクリスティー様が、赤色バッチで組を離されてしまったのだ!」


「おまえ、どうにかできないか!?」


「頼るべきところを、盛大に間違えてます」


なぜド平民のクィアシーナに頼むのだ。

そこは新生徒会の面々に訴えるところだろう。


「やはり、おまえでも無理なのか……」

「“影のヒーロー”はデタラメだったのだな……」

「いや、たとえ影のヒーローでも、

その辺はどうにもならないと思います」


クリスティーだけを特別に貴族組に――

うん、無理。


「それだけじゃない!

クリスティー様が我々に敬語を使ってきたのだ!

規則だからと! しかも、学園内では話しかけるなと!」


「我々はただ、クリスティー様が心配で、

赤色バッチの教室に、休み時間のたびに話しかけに行っただけなのに!」


「休み時間のたび……え、それって、罰則は?」


みだりに身分を越えて関わってはいけない――

確か、そんな学則だったはずだ。


「もちろん、話しかけるたびに、ビリビリを食らったとも!」

「そのうち一回は、クリスティー様も巻き添えになられて……おいたわしや……」


「めっちゃ迷惑かけてるじゃん」


それは、話しかけるなと言われるはずである。


「というより、やっぱり私じゃなくて、クリスティー様本人に訴えられては? 校門を出たら学園外なわけだし」


「今日は機嫌が悪いから無理だ。クリスティー様からビリビリを食らう羽目になるだろう」

「たまに見せる苛烈な面も魅力なのだが、我々は痛いのは嫌なのだ」


「……」


もう、放っておいてやれよ。

そして、袋たちもさっさと帰ってしまえ。


――そんな言葉が喉元まで出かかったが、クィアシーナはなんとか飲み込んだ。


すると、袋たちが急に話題を切り替えてきた。


「愚痴はここまでにしておこう」

「そうだな。本題だ」


「え、本題があったの?」


至極驚いた表情のクィアシーナに対し、袋たちは再びプンスカし始める。


「それはそうだろう!」

「我々だって、愚痴を言うだけで、おまえを引き止めるほど暇ではない!」


彼らが憤るたびに、袋がカシャカシャと音を立てる。

非常に耳障りだ。――いつか、破り捨ててやりたい。


彼女の「袋を破りたい」という欲を感じ取ったのか、袋たちはじり、とわずかに後ずさった。

野生の勘ならぬ、袋の勘は鋭いらしい。


「それで、本題とは?」


クィアシーナが切り出すと、袋の一人が手のひらを立てて制止する。


「まあ、待て」


続いて、もう一人が指をパチンと鳴らした。

――防音魔法である。


「おお……さすが三年生の魔法科。一発で決めるんだね」


素直に感心してそう言うと、袋は満更でもなさそうな雰囲気を漂わせた。

もっとも、その表情は袋の向こうで、いっさい見えないのだが。


「本題というのはな――実は、ダンテ殿下から言付けを預かっている」


「……!?」


あまりにも予想外の内容に、クィアシーナは思わず目を見開いた。

袋は、そんなクィアシーナの様子など気にも留めず、話を続けた。


「おまえは平民だから、何かと隔離生活で苦労を強いられるだろう。

だから、魔法に長けた我々が、おまえをサポートしてやってほしいと――

ダンテ殿下からクリスティー様へ、そしてクリスティー様から我々へと命令が下された」


「我々は新制度的には貴族組に属している。こちらの状況が知りたければ、すぐにでも情報提供が可能だ。

おそらくだが、隠密魔法に関しては、新生徒会の面々より我々のほうが上回っているからな」


(本当に、あの人は抜かりがない……)


彼らの話を聞きながら、クィアシーナは改めてダンテの用意周到さに息をのむ。


――ダンテがそこまでして私にさせたいこと。

それが、“お友達”の説得なのだ。


正直、今日一日を終えてみて、どうやって貴族組に属する彼らと接触を図ろうか考え倦ねていたのだ。


同じ貴族組の袋たちが橋渡しをしてくれるなら、こんなにありがたいことはない。


「ありがとうございます。じゃあ早速なんですが、今から言う人に来週アポイントメントを取ってもらっていいですか?」


「おい貴様! 我々は魔法でサポートすると言っているのに、なんだその使いっぱしりのような頼み方は!」

「そうだそうだ! 我々はおまえの小間使いではないぞ!」


「いえ。あなた方でなければお願いできないことだから、頼んでいるのです。

よろしくお願いします、先輩」


「……」

「……」


なぜか、袋たちは急に黙り込んだ。


「……我々でなければ、できない」

「……先輩」


どうやら、クィアシーナの言葉選びが、彼らの胸に深々と刺さったらしい。

袋たちはその言葉を何度も反芻し、どこか感極まったような雰囲気すら漂わせている。


「わかった。必ず取り付けてやろう」

「詳細は伝達魔法で送る。聞き漏らすなよ。ではな」


そう言い残し、袋たちはカシャカシャと去っていった。


校門から出ていくその背中を見送りながら、クィアシーナはふと思う。


(……あ、学園の外でも被ったままなんだ)


感謝の気持ちは二の次で、

生粋の貴族である彼らの生態が、どうにも気になって仕方がなかったのだった。

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